「ジウジアーロがデザインしたクルマに乗りたい」、20代オーナーが心酔するいすゞ・ピアッツァ

  • 横浜ヒストリックカーデイで取材させていただいた いすゞ・ピアッツァ

    いすゞ・ピアッツァ

日本の自家用車黎明期から1990年代初頭まで、名車と呼ばれるに相応しい走りとスタイリングを誇る乗用車を生産してきたいすゞ。そんないすゞの生産車で真っ先に思い浮かべる車種はと聞かれたら、117クーペやベレットが1番に頭に浮かぶ方が多いのではなかろうか?
特に117クーペはその流麗なスタイリングの良さが評価されたモデルであり、そのボディをデザインしたのは多くの名車のデザインを手掛けたことで知られる、ジョルジェット・ジウジアーロ氏。そんなジウジアーロ氏といすゞの関係は117クーペだけにとどまらず、後にもいくつかの名車を誕生させている。

  • 横浜ヒストリックカーデイで取材させていただいた いすゞ・ピアッツァ

    イタリアのデザイナー、ジウジアーロがデザインしたいすゞ・ピアッツァ

1980年代はカーデザイン的に空力を強く意識し始めた時代。そして、ジウジアーロといすゞがその潮流の最先端を思わせるスタイリングを具現化したのが117クーペの後継モデルとして登場したピアッツァだ。その頃から一般化した空気抵抗係数(CD値)は0.36と、見た目通り、当時としては圧倒的に低い数値を誇りながら、誰もが美しいと感じるスタイリングを有していた。

横浜の赤レンガ倉庫前広場で開催された『横浜ヒストリックカーデイ』にスタッフとして参加し、開会式でマイクを握って挨拶を行っていた後藤さんも、そんなピアッツァを愛するオーナーのひとりだ。
まだ20代の後藤さんが、なぜ生まれるかなり前に登場したピアッツァを愛車にしたのか? その理由はエクステリアデザインをジウジアーロが担当していたからだという。
「高校生の頃はインプレッサとかスカイラインの4ドアのMTが欲しいという、普通のクルマ好きだったんですが、デザインの専門学校で学んでいくうちに、カーデザインの巨匠ジウジアーロがデザインしたクルマに乗ってみたくなったんです。だからピアッツァに乗りたいというよりも、ジウジアーロがデザインしたクルマに乗りたくて、最終的にピアッツァを選んだんです」

「ジウジアーロがデザインを手掛けたということで、117クーペ、初代FFジェミニ、ピアッツァが候補となり、117は古すぎてトラブルが多そうな気がしたので、ピアッツァかジェミニかで迷いました。そして最終的には流麗なクーペに乗りたいと思い、ピアッツァを探し始めたんです」
スタイリングデザインがクルマを選ぶポイントではあったが、走る楽しみも求めていたようで、ピアッツァであればいいというワケではなく、MTであることも車両探しのポイントになっていたそう。また当時は、スポイラーが付いていてカッコいいと感じたハンドリングbyロータスを探していたという。

しかし希望の車両はなかなか見つからない。というのもピアッツァは40年近く前の旧車であり、タマ数自体が少なく、さらに元々スタイリング重視でピアッツァを選ぶ人が多かったのか、MTという条件が付くと、さらに数が少なくなってしまうからだ。
「ノスタルジック2デイズというイベントで、当時の自分の理想となるピアッツァを見つけて、それを出展していたいすゞ車の専門店に『MTで状態のいい車両があれば買いたい』と相談しておいたんです」
すると半年が経過した頃に『ロータスではないけど、程度のいいMTが入荷した』という連絡があり、車両を見に行くこととなったという。

そこで出会ったピアッツァは、1983年式の前期型で、XEという当時のラインナップの中では最上級のグレード。その車両こそが、現在の後藤さんの愛車となるのだが、現車を確認した後藤さんは当初「これじゃない」と思ったという。
「見つけてくれたのが、前期型だったので、エアロパーツが付いていないので、フロントエプロン部がツルンとしていて、当時はそれがどうにもカッコいいとは思えなかったんです。でもお店の方に『乗っていくうちに、この個体の良さがきっとわかるはず』と勧められたんです。というのも、すごく車体の状態が良かったからで、例えば1980年代車の憧れの装備であるデジバネが正常稼働する個体は少ないのですが、このクルマは完動状態でしたね」
フロントエプロンの形状だけは気に入らないままであったが、MTであることや車両のコンディションの良さから、このピアッツァの購入を決意したそうだ。これが2019年のこととなる。

「誤解を恐れずに言えば、走って楽しいクルマではありませんね。特段速さを感じることもなく、こだわったMTにしても、ショートストロークでスコスコとギアチェンジができるタイプでもない。でもこれはピアッツァの乗り味を否定しての感想ではなくて、それでいて楽しいんです。グランドツーリング的なクルマなんでしょうね。高速道路をダラーっと走るようなシチュエーションが合っているんだと思います」

それ以外にも、乗ってわかった、ピアッツァならではの魅力があったそうだ。
「街を普通に走っているだけで、振り返られたり、写真を撮られたりするんですよ。ピアッツァってこんなに注目を集めるクルマなんだと驚かされています。ガソリンスタンドや、高速のパーキングでは、ちょくちょく声を掛けられますね。声を掛けてくれるのは、ほとんどが年配のおじさんばかりですが(笑)」

購入の動機となった“デザイン性”についてはどうだったのだろうか? オーナーとなったことで、ピアッツァに関する知識も増え、さらに現在ではデザイン関係の仕事をするようになり、より造形に関しても見聞を広めた今。憧れのデザイナー、ジウジアーロを感じさせる部分を伺った。
「全体のフォルムはもちろんですが、フラットサーフェイス化するための面の処理、例えばボンネットのラインが三次局面で構成されていて、それを活かすべく、開口部の切り欠きをサイドに配置するなんてところに、ジウジアーロのデザインを感じています。あと購入時はあまり気に入っていなかったフロントエプロンの形状も、ジウジアーロのオリジナルデザインに忠実な造形だと気づいて、今ではハンドリングbyロータスを選ばず、この前期型を選んだのが正解と思うようになりました」。

とは言え、デザインを優先したせいなのか、デザインを生かすのにツメが甘かったのか、構造的に気になる部分もあるそうだ。
「デザインの特徴となる前ヒンジのボンネットは、後端の左右2箇所にロックのためのキャッチが着くのですが、ボンネットを高い位置から落とすような閉め方をすると、キャッチが壊れてしまうんです」
これは現役時代から問題となったようで、後期型は後端中央部に1箇所だけに改良されているようだ。
「リヤハッチ内のラゲッジスペースには、トノボードが付くんですが、ボディ側の樹脂製ヒンジが破損してしまうんです。僕のピアッツァも割れてしまったのでトノボードを付けていないのですが、殺風景なので革製のトランクを手に入れてラゲッジルームに置いています」
その中身を伺うと洗車用品や工具などが細々としたものをまとめて収納しているという。

旧車だけにメカニカルトラブルも気になるので伺うと「これまでにステアリングギアボックスのマウントゴムと、デフのベアリングがダメになりました。あと流石に生産から40年も経っているのでマフラーに穴が開いてしまい、オーナーズクラブが作っているオリジナルマフラーに交換しています」
どれも新しいクルマではあまり壊れない部分のトラブルではあるが、マフラー以外は純正部品の供給がまだあり、問題なく修理できたそうだ。

そんなピアッツァとのカーライフを通して、後藤さんはある思いを抱いたという。
「ピアッツァに乗っていることでいろんな方とお話する機会が増えたんですが、年配の方達から『若いのにクルマ好きなんて珍しい』とよく言われるんです。実際に僕の周りは同世代で旧車に乗っている人は少ないんです。まだまだクルマ文化を廃らせたくないという思いもあるので、僕ら世代で旧車趣味を発信できるイベントを企画しています」
そのイベントとは2024年3月20日に赤レンガ倉庫で開催予定の『Yokohama Car Session 〜若者たちのカーライフ〜(仮)』。
30歳以下で旧車に乗るオーナーとその愛車を一堂に集め、若者も旧車を楽しんでいるということをアピールすることをテーマにしているというから、きっと高齢化が進むクルマ趣味の世界を活性化してくれるイベントになってくれるはずだ。

取材協力:横浜ヒストリックカーデイ
(⽂:坪内英樹 / 撮影:土屋勇人)
[GAZOO編集部]

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