イマドキのクルマでは味わえないアナログな相棒のジムニー55を愛でる
コンパクトな車体に4WDならではの走破性。そんな素性を活かして、林業をはじめとする作業車としても活躍するジムニーは、日本屈指のオフローダーと呼ばれる存在でもある。その走破性はオフロードファンにとっても魅力的な存在となり、型式を問わず趣味人に親しまれているのはご存知の通りだ。
とは言っても、オーナーの誰もがオフロード走行を楽しんでいるわけではなく、特異なキャラクターを愛して止まないファンも大勢存在する。そんなタフでヘビーデュティ、しかもクラシカルなフォルムを持つ1981年式スズキ・ジムニー(SJ10)に長年憧れ、3年前に愛車として迎え入れたのがMossさんだ。
誕生から53年の歴史を持つジムニーは、近年でこそ乗用車ライクな仕立てが行なわれているが、基本コンセプトは生粋のオフロードマシン。その初代、第3期のモデルとなるSJ10は、コンセプトに従って実に簡素な作りとなっている。走破性は高いものの室内にはカーペットもなく遮音性は皆無。さらにオフロード性能に全振りしたギヤ比は、昨今の道路事情では不利とも言える。
動力性能や快適性が格段に上がった現代のクルマとは、比較にならないほどアナログな存在なのである。
しかし、そんなアナログ感もまたSJ10の魅力、と語るのはオーナーのMossさん。
「幼い頃にテレビドラマで見かけた初代ジムニーがすごく印象に残っていて。型式はこのジムニーの前のLJ20だったんですが、ドアのない幌車をオープンで走らせていた萩原健一さんの姿を見てすごく憧れちゃったんですよ。以来、いつかは乗りたいクルマと思っていたのですが、3年前にこのSJ10と出会い、家族と相談して半ば諦められつつも念願のオーナーになれたんです!」
これまではフォルクスワーゲンのミニバンや、プジョー、フィアットといった、いわゆる“普通”のクルマに乗っていたというMossさん。そして、ついに夢にまで見たジムニーが愛車になったことで、より深くクルマに興味が湧き、目下、ジムニーを介してクルマの知識を吸収している最中だという。
手元にやってきた時点では、セミレストアを完了してボディはホワイトに塗り替えられた状態だったそうで、フレームや足回り、排気系などもリフレッシュ済み。そのため、この年式にありがちな致命的な腐りなども修復され、古臭さを感じさせないコンディションだったという。後々手がかかってしまうベース車ではなく、SJ10好きによって手をかけられた車両だったことも購入の決め手になったそうだ。
搭載されているエンジンは、水冷2ストローク3気筒の550㏄。最高出力はわずか26psというスペック。前述の通りギヤ比はかなりローギヤードに設定されるため、最高速度は100km/hに満たない。しかし、ガンガン飛ばして走るのではなく、SJ10の空気感を楽しみながら移動するのであれば、なんら不自由を感じることはないのだとか。
ちなみにSJ10のトランスミッションは4MTの一択。当時普及し始めたATという選択肢はなく、あくまでも道具としての耐久性を求めた設計が行なわれている。
しかし、長らくAT車を乗り継いでいたMossさんにとって、MT車の扱いは難儀なものだったらしく…
「免許はMTで取っていたんですが、それ以来MT車を運転した記憶がなくて…。購入前に現車を見に行って試乗の機会があったんですが、まったく動かすことができなかったんです。仕方なく売主の方に自宅まで配送してもらって、そこからMTの練習をはじめました。今では普通に運転できるようになりましたが、当初はかなりおっかなびっくりでしたね」
MT問題を克服したところで、まだまだSJ10オーナーの苦難は続く。これまでは快適装備満載のクルマばかりに乗っていたが、SJ10に快適装備は皆無。サイドウィンドウの開閉が手動式であったり重ステであったり、当然ながらエアコンも装着されていないのだ。
それでも扇風機やスポットクーラーを駆使して、異常気象とも言われる酷暑の夏を3回超えられたのは、ジムニーに対する愛情以外の何物でもない。
リヤゲートにはマグネット式のステッカーを貼ってプチドレスアップ。速度的に限界があるので「これでも全速力!」のステッカーは、後続車に向けた意外と本気のメッセージだったりする。
また、アメリカのテレビアニメで登場するキャラクター「ラムヂー」をモチーフに、ジムニーと掛け合わせたステッカーは、勤務していたデザイン会社の後輩が作ってくれたもの。他にもアウトドアブランドのロゴなどを並べるなど、ジムニーらしい飾り付けがされている。
むき出しのフューエルリッドには、零れてしまうガソリンをボディに付着させない“ガスキャップエプロン”を装備。こちらは知人がヌメ革から製作してくれたMossさんだけのオリジナル。また、車検証入れになっているアルミトランクは、ジムニーの納車祝いに友人から頂いたものだそうだ。
納車時には手付かずだったルーフライニングは、ネットで見かけた情報を頼りに、プラダン材にカモフラ柄の生地を貼り付けた自作アイテム。SJ10らしいアウトドアイメージを再現しながら、納車時に前オーナーから記念にもらったランタンを合わせてコーディネート。また、ルーフライニングの張り替えだけでなく、最近ではプラグ交換などのメンテナンスも覚えるなど、ますます愛着を深めている様子だった。
現場作業車としての素性が強いSJ10だけに、車内後部はオマケ程度の補助シートが備わるのみ。この潔さもまたMossさんの心に響き、アナログ感を楽しめる空間となっているとか。
内装色に関しては元色のジャングルグリーンが残されており、折り畳式スツールや、小物入れとして使っている携行缶なども同色でコーディネートされていた。
ちなみにタイヤはノーマルのラグタイヤでは乗り心地がゴツゴツしすぎるし、雨の日には滑りやすいというネガティブ要素があったため、現代スペックのものを選択したという。好み優先のドレスアップだけではなく、こういった”普通に乗るための工夫”も積み重ねているというわけだ。
「四角いボディやガイコツ顔、それにボンネットサイドの鮫エラのデザインがすごく好きなんです。昔テレビで見た時から憧れを持っていましたが、実際に手に入れると細かい部分のデザインひとつひとつに愛着が湧いてくるんですよね。ですからスピードは出なくても、ちょっとくらい(?)暑くても、このままの状態でずっと乗り続けていきたいなって思っています」
旧車に憧れを持ちながら、これまでは踏み切るチャンスに恵まれていなかったMossさん。気長に理想の相棒を探し続け、さらに家族の説得というハードルも乗り越えて手に入れた愛車は、これからのカーライフに様々なストーリーを刻んでくれるであろう。それは楽しい思い出ばかりではなく、旧車だからこそのトラブルが待ち受けているかもしれない。けれど、そんな苦難もMossさんならば笑顔で乗り切れるはず。このクルマにはそれだけの魅力が溢れているのだから。
取材協力:横浜ヒストリックカーデイ
(文:渡辺大輔/撮影:中村レオ)
[GAZOO編集部]
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