2年の歳月を掛けて甦った彼女の愛車は、1991年式アルファロメオ・スパイダー ヴェローチェ Sr.4

今、道行くクルマのほとんどは、やがて海外へと運ばれていったり、いつかはスクラップとなってひっそりと姿を消していく運命にある。ただし、歴代のオーナーが大切に乗り継いでいけば、長きに渡り現役として残っていけるのだ。

今回は、ショップの片隅に置かれていた1台のクルマを、仲間たちの協力を得て蘇生させ、大切に乗っている女性オーナーを紹介したい。

「このクルマは1991年式アルファロメオ・スパイダー ヴェローチェ Sr.4(以下、アルファロメオ・スパイダー)です。手に入れてから1年ほど経ちました。オドメーターは現在10万6千キロを刻んでいます。その中で、私が乗ったのは5千キロくらいでしょうか」

アルファロメオ・スパイダーというクルマ自体、実は長い歴史を持つクルマだ。Sr.1は1966年にデビュー。105スパイダーと呼ばれるデュエットというモデルだ。1967年に製作された、ダスティン・ホフマン主演の映画「卒業」や、クルマ好きのあいだで親しまれている小説「雨の日には車をみがいて(五木寛之著)」にも登場している。その後、Sr.2、Sr.3を経て、1989年にオーナーが所有するSr.4へと進化を続けながら、1993年まで27年間生産された息の長いモデルだった。

アルファロメオ・スパイダー ヴェローチェ Sr.4のボディサイズは、全長×全幅×全高:4260x1630x1290mm。駆動方式はFRだ(後継モデルの駆動方式はFFとなった)。排気量1961cc直列4気筒DOHCエンジンが搭載され、最高出力は120馬力を誇る。なお、オーナーの個体は、シリーズで唯一の3速ATを搭載したモデルである。

30年近く続いたアルファロメオ・スパイダーというクルマの最後を飾ったモデルを手に入れるまでの経緯を伺ってみた。

「クルマ好きの父親の影響で、マニアというほどではありませんがクルマは好きでした。最初の愛車は日産・シーマ(Y31型)でしたし、古いアメ車など、本来は大きなクルマが好みなんです。でも、もう1台所有しているトヨタ・ノアを含めて、これまでの愛車はすべて国産車なので、アルファロメオ・スパイダーが初の輸入車なんです」

正直いって、アルファロメオ・スパイダーというクルマは、大きなクルマが好きだというオーナーの趣向とは多少異なる印象を受ける。それでもこのクルマを選んだ決め手があったということなのだろうか?

「アルファロメオのロゴに惹かれて、7~8年ほど前から自宅の鍵のキーホルダーにしていたんです。私の地元では、クルマ好きが集まって、日曜日の早朝に有志で地域清掃をしています。皆さん、マニアックなクルマを所有している方ばかりで、そのうち私も感化されてしまったのですが、AT限定免許で乗れるクルマって限られていますよね。そんなときに縁があったのが、このアルファロメオ・スパイダーだったというわけです。何気に買ったキーホルダーとの不思議な巡り合わせというか…運命的なものを感じましたね」

オーナーが愛用するアルファロメオのキーホルダーが呼び寄せた「縁」なのだろうか?こうして、人生初の輸入車は古いアメ車ではなく、イタリアでも長い歴史を持つ優美なオープンカーとなった。

「私、クルマを選ぶときは『顔』が決め手なんです。これまでの愛車はもちろん、ノアのときもそうでした。このアルファロメオ・スパイダーもそうでしたし(笑)」

何とも女性らしい選び方だが、30年近くも前のクルマだ。すんなりと納車されたのだろうか?

「10年近く寝かされていたクルマだったようで、私が出会ったときもショップの片隅で雨ざらしになっていました。地域清掃をしているクルマ好きの仲間たちの手により、2年近い歳月を掛けて、ボディはもちろん、あちこちに手を入れてリフレッシュしてもらいました。このボディカラーも、一度板金塗装をお願いして仕上げてもらったまではよかったんですが、仕上がりがいまひとつで、仲間の1人が塗装の表面をていねいに整えてくれたお陰でようやく現在の状態になったんです」

こうして、ついにイタリア製2シーターオープンカーのオーナーとなったわけだが、このクルマを手に入れてから日々の暮らしに変化はあったのだろうか?

「このクルマに乗るときはいつもオープンです。今でも地域清掃の活動は続いていて、私もアルファロメオ・スパイダーに乗って参加しています。仲間内での評判も上々ですよ(笑)。休日の昼間に動くことが増えましたね。それまでは、仕事が休みの日の朝はたいてい寝ていましたから。アルファロメオのロゴが好きなので、ネイルで遊んでみたこともあります」

2年の歳月を掛けて美しい姿を取り戻したアルファロメオ・スパイダーだが、部品の調達など、この1年で苦労したことはあったのか伺ってみた。

「意外と部品は何とかなるみたいです。ただ、今でも雨漏りするんですね。そのため、雨の日は乗りません。助手席のサイドポケットに水が溜まるので、対策を考えなければなりません。あと、いずれはエアコンや幌を交換したいですし、細かいところの修理もしなければならないかなと思っています。国産車やドイツ車と比べて整備性があまりよくないみたいで、メンテナンスをしてくださる方も大変そうです。苦労というほどではありませんが、運転感覚が独特なクルマだなと感じました。山道を走るときはテールが落ち着かない感じがします。新車時のコンディションが分からないので、足まわりをリフレッシュすれば、印象が変わるかもしれません」

最後に、このクルマと今後どう接していきたいかオーナーに伺ってみた。

「正直、機械のことはあまり詳しくないのですが、何かあればクルマ好きの仲間が助けてくれますし、これからも乗り続けたいと思います」

クルマを創るのは人間だが、葬るのも同じく人間だ。そして、何十億という価値をつけるのも人間である。イタリアで生まれた 1台のアルファロメオ・スパイダーが、遠く離れた日本という国へ降り立ち、一度はその歩みを止めた。

しかし、古いクルマの楽しみ方も多様化しつつある。AT車が選択肢に加わることで、旧車趣味の裾野が確実に広がることは間違いない。その結果、彼女のような麗しい女性が颯爽とイタリア製のオープンカーを操っているなんて最高ではないか。

もしも、オーナーである彼女とその仲間たちがこのクルマを蘇生しなかったら、このアルファロメオ・スパイダーはいずれ朽ち果てていたかもしれない。しかし、良識あるクルマ好きたちの手によって、華のあるクルマ本来の輝きを取り戻すことができた。大切に扱えばクルマは必ずそれに応えてくれるように思う。最新型のクルマは確かに魅力的だが、古いクルマを大切にするという、ごくあたりまえの文化がこの国にも根付いて欲しいと強く感じた取材となった。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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