【試乗記】ホンダNSX(4WD/9AT)
- ホンダNSX(4WD/9AT)
まだまだこれから
3.5リッターV6ツインターボエンジン+トリプルモーターを搭載したホンダのスーパースポーツ「NSX」が、デビュー以来初のマイナーチェンジを受けた。新たに開発責任者に日本人を据えたことで、走りの味付けはどのように変化したのだろうか。
不屈のNSX
繰り返しになるが、ホンダNSXは異例ずくめのスーパースポーツカーである。リーマンショックで一時は開発計画がまったく白紙になったにもかかわらず、その後の東日本大震災など、紆余(うよ)曲折を乗り越えて復活したばかりでなく、米国工場で生産されていることも特徴的だ。せっかく復活させるからには、長く継続できるよう環境を整えるのは当然であり、発売直後から急速な円高に苦しんだ初代NSXの反省から、最大市場である米国で生産する道を選んだことも理解できるが、開発責任者に当たるLPL(ラージプロジェクトリーダー)にアメリカ人を抜てきしたことはやはり大胆な決定といえるだろう。
基本構成にしても同様だ。507ps/6500-7500rpmと550Nm/2000-6000rpmを生み出すドライサンプ式3.5リッターV6ツインターボエンジンをアルミボディーにミドシップしていることに加え、計3基のモーターを備えるハイブリッドの4WDである。すなわち左右独立して加減速を制御しトルクベクタリングを行う(電動走行も受け持つ)出力37psのモーターがフロントに2基備わり、リアには48psのダイレクトドライブモーターが9段DCTに内蔵されている。すべてを合わせたシステム最高出力は581psと他のスーパースポーツに匹敵するが、NSXは一切の猛々(たけだけ)しさや凶暴性を感じさせず、日常的な実用性を重視しているのが初代から受け継いだ特長である。
ホンダのフラッグシップスポーツカーであるNSXの製造事業者は米国の子会社であるホンダ・オブ・アメリカ・マニュファクチュアリング。デビューから2年たってマイナーチェンジを受けたNSXもこれまで通りオハイオ州メアリズビル工場の専用ファクトリー、PMC(パフォーマンス・マニュファクチュアリング・センター)で製造されている。つまりはかつての「アコード」などと同様の逆輸入車である。ただし、正確に言うならそれは組み立て(アセンブリー)であり、自動車に限らず、このような例は現代ではまったく珍しくない。どこで造られたかというより、どのようにして造られたか、である。NSXはこの2年間でおよそ2000台が造られ、うち400台が国内で販売されたという。2000万円クラスのスーパースポーツとしてはなかなかの数字だ。ちなみに、初代NSXの生産台数は15年間でおよそ1万8000台である。
基本構成にしても同様だ。507ps/6500-7500rpmと550Nm/2000-6000rpmを生み出すドライサンプ式3.5リッターV6ツインターボエンジンをアルミボディーにミドシップしていることに加え、計3基のモーターを備えるハイブリッドの4WDである。すなわち左右独立して加減速を制御しトルクベクタリングを行う(電動走行も受け持つ)出力37psのモーターがフロントに2基備わり、リアには48psのダイレクトドライブモーターが9段DCTに内蔵されている。すべてを合わせたシステム最高出力は581psと他のスーパースポーツに匹敵するが、NSXは一切の猛々(たけだけ)しさや凶暴性を感じさせず、日常的な実用性を重視しているのが初代から受け継いだ特長である。
ホンダのフラッグシップスポーツカーであるNSXの製造事業者は米国の子会社であるホンダ・オブ・アメリカ・マニュファクチュアリング。デビューから2年たってマイナーチェンジを受けたNSXもこれまで通りオハイオ州メアリズビル工場の専用ファクトリー、PMC(パフォーマンス・マニュファクチュアリング・センター)で製造されている。つまりはかつての「アコード」などと同様の逆輸入車である。ただし、正確に言うならそれは組み立て(アセンブリー)であり、自動車に限らず、このような例は現代ではまったく珍しくない。どこで造られたかというより、どのようにして造られたか、である。NSXはこの2年間でおよそ2000台が造られ、うち400台が国内で販売されたという。2000万円クラスのスーパースポーツとしてはなかなかの数字だ。ちなみに、初代NSXの生産台数は15年間でおよそ1万8000台である。
見えないところが変わった
細かい改良点は多いが、今回のマイナーチェンジの最大の変更点は日本の栃木研究所に籍を置く日本人LPLが担当したことではないだろうか。2代目NSXの発売当初は、ボディーとシャシーの開発は米国側、パワートレインは日本側が担当したといわれていたが、考えてみればシャシーとパワートレインを太平洋の両端で別々に受け持つのは道理に合わない。特に3基のモーターを備えて、コーナリングにも積極的に活用するNSXの場合は、パワートレインとシャシーを一体開発するのが自然である。もちろん、そこにはいろいろな事情があったと推察する。
外観では従来型と見分けるのは難しい。フロントフード先端の銀色のプレートがボディー同色になったことぐらいが新型の識別点で、インテリアではさらに見分けがつかない。デビュー当初からのエンジンとモーターのスペックにも変更はないという。手が加えられたのはサスペンションの細部、そしてスタビリティーコントロールや可変ダンパー、SH-AWDなどの制御システムである。具体的には前後スタビライザーをそれぞれ26%と19%剛性アップ、さらにはリアコントロールアームブッシュ(21%)とリアハブ(6%)についても剛性を向上させたという。またドライブモードを切り替えるインテグレーテッドダイナミクスシステムの各モードの制御を最適化、これらによって低中速での切れの良いハンドリングと限界走行域でのコーナリング時のコントロール性、安定性を追求したという。
外観では従来型と見分けるのは難しい。フロントフード先端の銀色のプレートがボディー同色になったことぐらいが新型の識別点で、インテリアではさらに見分けがつかない。デビュー当初からのエンジンとモーターのスペックにも変更はないという。手が加えられたのはサスペンションの細部、そしてスタビリティーコントロールや可変ダンパー、SH-AWDなどの制御システムである。具体的には前後スタビライザーをそれぞれ26%と19%剛性アップ、さらにはリアコントロールアームブッシュ(21%)とリアハブ(6%)についても剛性を向上させたという。またドライブモードを切り替えるインテグレーテッドダイナミクスシステムの各モードの制御を最適化、これらによって低中速での切れの良いハンドリングと限界走行域でのコーナリング時のコントロール性、安定性を追求したという。
公道では試せないこともある
ただし、忌憚(きたん)なく言わせてもらえば、一般公道で試した限りでは従来型との差異はそれほど大きなものとは感じられなかった。前後スタビライザーの剛性をアップしたというが、同時にダンパー制御も見直されたおかげか、低中速域ではむしろ若干穏やかにしなやかになったというのが第一印象だ。ひょこひょこしたピッチングが抑えられて、すっきりフラットに走る。すべてのドライブモードでの挙動を正確に記憶しているわけではないが、標準の「スポーツ」、および「スポーツ+」モードでのターンインも穏やかになったようで、以前ほどスパッとコーナーの内側に張り付くことはなく、よりリニアで自然なステアリングレスポンスを備えているようだ。
一番注目していたのは限界付近でのフロントモーターの制御だったのだが、残念ながらそれを確認することはできなかった。というのも、デビュー直後のモデルをサーキットで走らせた時、カウンターステアを必要とする場面できれいに収まらない不自然な挙動が気になっていたからだ。「トラック」モードで最小限のステアリング修正で走るとそれほど気にならないことはプロドライバーの横に乗って確認済みだが、スポーツ+で滑り出した後輪を抑えるために大きく慌てて操作をするとモーターがいささか“悪さ”をするようだった。その点についてはホンダも承知のはずだが、それを確かめるにはやはり別の機会にサーキットに持ち込むしかないだろう。
一番注目していたのは限界付近でのフロントモーターの制御だったのだが、残念ながらそれを確認することはできなかった。というのも、デビュー直後のモデルをサーキットで走らせた時、カウンターステアを必要とする場面できれいに収まらない不自然な挙動が気になっていたからだ。「トラック」モードで最小限のステアリング修正で走るとそれほど気にならないことはプロドライバーの横に乗って確認済みだが、スポーツ+で滑り出した後輪を抑えるために大きく慌てて操作をするとモーターがいささか“悪さ”をするようだった。その点についてはホンダも承知のはずだが、それを確かめるにはやはり別の機会にサーキットに持ち込むしかないだろう。
ついでといっては何だが
全体的により自然な、リニアな挙動を狙ったマイナーチェンジであることは理解できた。だが、せっかく改良するのなら他も見直してほしかったのが正直な気持ちである。
例えば電子制御システムを満載しながら、単純なクルーズコントロールしか備わっていないことをはじめ、ADAS(先進安全運転支援システム)がほとんど搭載されていない点などは、やはり現代では遅れているとみなされるだろう。また分厚い座布団に載せられているような高めのシートポジションと中途半端な電動調整機構、ボディー内外の随所に見られるクオリティーの低いパーツなどもそのまま手付かず、フロントフードを開けた際の雑然とした眺めもそのままである。
その気になればすぐにでも改良可能な箇所は少なくないと思うのだが、製造工場が海の向こうというのはやはりハンディなのだろうか。長く生産できるように米国に専用工場を建てたのだから、本番はこれからと期待したい。
(文=高平高輝/写真=小林俊樹/編集=藤沢 勝)
例えば電子制御システムを満載しながら、単純なクルーズコントロールしか備わっていないことをはじめ、ADAS(先進安全運転支援システム)がほとんど搭載されていない点などは、やはり現代では遅れているとみなされるだろう。また分厚い座布団に載せられているような高めのシートポジションと中途半端な電動調整機構、ボディー内外の随所に見られるクオリティーの低いパーツなどもそのまま手付かず、フロントフードを開けた際の雑然とした眺めもそのままである。
その気になればすぐにでも改良可能な箇所は少なくないと思うのだが、製造工場が海の向こうというのはやはりハンディなのだろうか。長く生産できるように米国に専用工場を建てたのだから、本番はこれからと期待したい。
(文=高平高輝/写真=小林俊樹/編集=藤沢 勝)
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