【試乗記】トヨタC-HR S-T“GRスポーツ”(FF/6MT)

トヨタC-HR S-T“GRスポーツ”(FF/6MT)【試乗記】
トヨタC-HR S-T“GRスポーツ”(FF/6MT)

元気のシンボル

トヨタのクロスオーバーモデル「C-HR」に、GAZOO Racingが開発を手がけた新グレード“GRスポーツ”が登場。専用のエアロパーツと足まわりでチューンされた、スポーツバージョンの走りやいかに?

もうおしまいかと思ったけれど

「トヨタC-HR」のスポーティーグレード“GRスポーツ”には、1.2リッターターボ車と1.8リッターのハイブリッド車がラインナップされる。今回は前者に試乗した。
「トヨタC-HR」のスポーティーグレード“GRスポーツ”には、1.2リッターターボ車と1.8リッターのハイブリッド車がラインナップされる。今回は前者に試乗した。
ブラック基調で統一されたインテリア。基本的なデザインは他の「C-HR」と変わらないが、“GRスポーツ”にはダークシルバー塗装のトリムが与えられる。
ブラック基調で統一されたインテリア。基本的なデザインは他の「C-HR」と変わらないが、“GRスポーツ”にはダークシルバー塗装のトリムが与えられる。
「C-HR“GRスポーツ”」の1.2リッターターボ車は、MT仕様のみとなる。この「iMT」と呼ばれる6段MTには、発進時のエンジンストールを防止するアシスト機能や、スムーズなシフトダウンを可能にするブリッピング機能が備わっている。
「C-HR“GRスポーツ”」の1.2リッターターボ車は、MT仕様のみとなる。この「iMT」と呼ばれる6段MTには、発進時のエンジンストールを防止するアシスト機能や、スムーズなシフトダウンを可能にするブリッピング機能が備わっている。
ボディーカラーはブラック×ホワイトパールクリスタルシャインのツートンカラー(写真)を含め、全11種類(うち6色は単色)が選べる。
ボディーカラーはブラック×ホワイトパールクリスタルシャインのツートンカラー(写真)を含め、全11種類(うち6色は単色)が選べる。
新車の試乗会に参加した際、「マニュアルはないのですか?」と聞かなくなって久しい。2ペダルモデルの進化と反比例するかのように3ペダル式MT車の影はどんどん薄くなっていって、大して台数が出ないうえ加速でも燃費でも勝てなくなってきたMT車の有無について質問するのは「個人的かつ趣味的な興味にすぎないのでは」と自主規制を始め、いつしかマニュアル車そのものが絶滅危惧種になっていた。

だからトヨタが2018年に「iMT」を発表して、国内モデルにも搭載することをアナウンスしたのは意外だった。iMTとは、インテリジェント・マニュアル・トランスミッションの略。発進時に運転者がクラッチペダルを踏むと、エンジンのトルクを厚くしてエンストしにくくし、またギアチェンジの際には自動でエンジン回転数を合わせてシフトショックを抑えてくれる、新世代のMTだ。ハードウエアはもとより、処理能力が格段に上がった車載コンピューターを生かしてソフトウエアでリファインを推し進めたギアボックスといえる。まだまだMT車のニーズが根強い欧米に加え、東南アジアをはじめとする発展途上国のマーケットをにらんで開発された。

商売上手のトヨタは国内市場において、かつては廉価グレードの装備であったMTに「スポーティー」という付加価値を与えて、ニューモデルのカタログに載せるようになっている。3ペダルのマニュアルギアボックスという枯れた技術に、電子制御で新しいオイルを注いだわけである。

「トヨタC-HR」のスポーティーグレード“GRスポーツ”には、1.2リッターターボ車と1.8リッターのハイブリッド車がラインナップされる。今回は前者に試乗した。
「トヨタC-HR」のスポーティーグレード“GRスポーツ”には、1.2リッターターボ車と1.8リッターのハイブリッド車がラインナップされる。今回は前者に試乗した。
ブラック基調で統一されたインテリア。基本的なデザインは他の「C-HR」と変わらないが、“GRスポーツ”にはダークシルバー塗装のトリムが与えられる。
ブラック基調で統一されたインテリア。基本的なデザインは他の「C-HR」と変わらないが、“GRスポーツ”にはダークシルバー塗装のトリムが与えられる。
「C-HR“GRスポーツ”」の1.2リッターターボ車は、MT仕様のみとなる。この「iMT」と呼ばれる6段MTには、発進時のエンジンストールを防止するアシスト機能や、スムーズなシフトダウンを可能にするブリッピング機能が備わっている。
「C-HR“GRスポーツ”」の1.2リッターターボ車は、MT仕様のみとなる。この「iMT」と呼ばれる6段MTには、発進時のエンジンストールを防止するアシスト機能や、スムーズなシフトダウンを可能にするブリッピング機能が備わっている。
ボディーカラーはブラック×ホワイトパールクリスタルシャインのツートンカラー(写真)を含め、全11種類(うち6色は単色)が選べる。
ボディーカラーはブラック×ホワイトパールクリスタルシャインのツートンカラー(写真)を含め、全11種類(うち6色は単色)が選べる。

わかりやすいスポーツルック

フロントフェンダーには「GR」エンブレムを装着。特別なグレードであることがアピールされる。
フロントフェンダーには「GR」エンブレムを装着。特別なグレードであることがアピールされる。
本革巻きのステアリングホイール。3本スポークの小径タイプで、下端には「GR」のエンブレムが装着される。
本革巻きのステアリングホイール。3本スポークの小径タイプで、下端には「GR」のエンブレムが装着される。
運転席・助手席間には、アクセサリーソケット付きの小物入れが用意される。カップホルダーは深さが2段階に調整できる。
運転席・助手席間には、アクセサリーソケット付きの小物入れが用意される。カップホルダーは深さが2段階に調整できる。
フロントまわりは“GRスポーツ”専用の大型グリルが特徴。グリル内のガーニッシュには専用エンブレムが添えられる。
フロントまわりは“GRスポーツ”専用の大型グリルが特徴。グリル内のガーニッシュには専用エンブレムが添えられる。
昨2019年の秋にマイナーチェンジを受けたコンパクトSUV、C-HRにもMTモデルが用意された。同車には1.2リッター直4ターボと、1.8リッター直4+電気モーターのハイブリッドモデルがあるが、MTグレードが新設されたのは、もちろん通常のCVTをメインのトランスミッションとする1.2リッターモデルである。ボトムレンジの「S-T」、中堅の「G-T」、そして「S-T“GRスポーツ”」の3グレードに6段MT仕様が設定された(S-T“GRスポーツ”はMTのみ)。価格は順に236万7000円、263万2000円、273万2000円となる。いずれもFFモデルだ。

この日の試乗車は、マイナーチェンジの目玉というべき“GRスポーツ”。TOYOTA GAZOO Racingが手がけるC-HR“GRスポーツ”には、上記のS-T“GRスポーツ”のほか、ハイブリッド版のS“GRスポーツ”がある。こちらのトランスミッションは、言うまでもなく電気式CVTこと動力分割装置で、駆動方式はFFのみとなる。309万5000円のプライスタグを付けるC-HRのトップグレードである。

コンパクトSUVの人気モデルだけあって、通常バージョンのC-HRの変化は小規模にとどまる。フロントバンパーをブラックアウトさせ、エアインテークを左右に広げてアグレッシブさを増したのが外観上の違い。むしろ運転支援システムほか装備の充実が、ユーザーにとってはニュースだろう。障害物や他車を検知したり、自車をあたかも俯瞰(ふかん)で見ているようにディスプレイに表示する機能や、スマートフォンとの連携などが挙げられる。

一方、“GRスポーツ”は、垂直方向のラインを強調した専用のフロントデザインが採用され、わかりやすくスポーティーないでたちを誇る。切削加工が施された専用ホイールには「245/45R19」というコンパクトSUVにはいささかオーバースペックに感じられるタイヤが装着され、ググッと足元を引き締める。

フロントフェンダーには「GR」エンブレムを装着。特別なグレードであることがアピールされる。
フロントフェンダーには「GR」エンブレムを装着。特別なグレードであることがアピールされる。
本革巻きのステアリングホイール。3本スポークの小径タイプで、下端には「GR」のエンブレムが装着される。
本革巻きのステアリングホイール。3本スポークの小径タイプで、下端には「GR」のエンブレムが装着される。
運転席・助手席間には、アクセサリーソケット付きの小物入れが用意される。カップホルダーは深さが2段階に調整できる。
運転席・助手席間には、アクセサリーソケット付きの小物入れが用意される。カップホルダーは深さが2段階に調整できる。
フロントまわりは“GRスポーツ”専用の大型グリルが特徴。グリル内のガーニッシュには専用エンブレムが添えられる。
フロントまわりは“GRスポーツ”専用の大型グリルが特徴。グリル内のガーニッシュには専用エンブレムが添えられる。

ストレスフリーの乗り味

メーターパネルは2眼式。「GR」ロゴの入った専用デザインのものが与えられる。
メーターパネルは2眼式。「GR」ロゴの入った専用デザインのものが与えられる。
「ブランノーブ」と呼ばれるスエード調の表皮と合成皮革で仕立てられたスポーティーシート。シルバーのダブルステッチと「GR」エンブレムでドレスアップされている。
「ブランノーブ」と呼ばれるスエード調の表皮と合成皮革で仕立てられたスポーティーシート。シルバーのダブルステッチと「GR」エンブレムでドレスアップされている。
「C-HR」の“GRスポーツ”は、フロア下の中央に補強材を追加することでボディー剛性がアップ。操縦応答性の向上やフラットな乗り心地が追求されている。
「C-HR」の“GRスポーツ”は、フロア下の中央に補強材を追加することでボディー剛性がアップ。操縦応答性の向上やフラットな乗り心地が追求されている。
1.2リッター直4ターボエンジンは、1500rpmという低回転域から185N・mの最大トルクを発生する。WLTCモードの燃費値は15.4km/リッター。
1.2リッター直4ターボエンジンは、1500rpmという低回転域から185N・mの最大トルクを発生する。WLTCモードの燃費値は15.4km/リッター。
ドアを開けて、やはりGR専用のスポーツシートに座ると、座面、背もたれとも大きなサイドサポートが張り出して気の小さい運転者をおびえさせるが、クッションのあたりが柔らかくて、座り心地はむしろラグジュアリー。インテリアにダークシルバーの専用パネルが貼られ、インテリア各所に「GR」のロゴが見られるのはご愛嬌(あいきょう)だが、しっかりした革巻きのステアリングホイールがおごられるのはうれしい。快適性を犠牲にせず、スポーツ気分に浸れる室内である。

1196ccのターボエンジンは、ロングストロークを感じさせないシュルシュルと気軽に回る4気筒。最高出力116PS、最大トルク185N・mだから、自然吸気の1.8リッターユニットに準じたアウトプットだ。ことさら「過給機付き」を意識させることなく、素直に1400kgのボディーを運んでいく。トヨタらしい、自己主張の希薄なパワーソースである。

肝心のiMTに関しても、あまり印象に残らなかった。自分、3ペダルのMT車とともに人生を送ってきた守旧派なので、無意識のうちにマニュアル操作を行ってしまうのです。とはいえ、ギアチェンジはスムーズで軽く、シフトダウン時の回転合わせも上手。これならMT初心者のドライバーでも、事情を知らない助手席の人を感心させることができよう。はたまた久しぶりにMT車を購入した人なら、「まだまだやれるわい」と自身のテクニックに満足するはずだ。

メーターパネルは2眼式。「GR」ロゴの入った専用デザインのものが与えられる。
メーターパネルは2眼式。「GR」ロゴの入った専用デザインのものが与えられる。
「ブランノーブ」と呼ばれるスエード調の表皮と合成皮革で仕立てられたスポーティーシート。シルバーのダブルステッチと「GR」エンブレムでドレスアップされている。
「ブランノーブ」と呼ばれるスエード調の表皮と合成皮革で仕立てられたスポーティーシート。シルバーのダブルステッチと「GR」エンブレムでドレスアップされている。
「C-HR」の“GRスポーツ”は、フロア下の中央に補強材を追加することでボディー剛性がアップ。操縦応答性の向上やフラットな乗り心地が追求されている。
「C-HR」の“GRスポーツ”は、フロア下の中央に補強材を追加することでボディー剛性がアップ。操縦応答性の向上やフラットな乗り心地が追求されている。
1.2リッター直4ターボエンジンは、1500rpmという低回転域から185N・mの最大トルクを発生する。WLTCモードの燃費値は15.4km/リッター。
1.2リッター直4ターボエンジンは、1500rpmという低回転域から185N・mの最大トルクを発生する。WLTCモードの燃費値は15.4km/リッター。

MTはちょい足しのスパイス

足まわりには専用チューニングのサスペンションを装着。フロントはマクファーソンストラット式、リアはダブルウイッシュボーン式。
足まわりには専用チューニングのサスペンションを装着。フロントはマクファーソンストラット式、リアはダブルウイッシュボーン式。
後席も前席と同様、ブラック基調のコンビタイプとなる。「GR」エンブレム入りのフロアマットは2万4200円の販売店オプション。
後席も前席と同様、ブラック基調のコンビタイプとなる。「GR」エンブレム入りのフロアマットは2万4200円の販売店オプション。
ラゲッジルームの容量は5人乗車時で318リッター。柔軟性のあるトノカバーは、折り畳んで収納することができる。
ラゲッジルームの容量は5人乗車時で318リッター。柔軟性のあるトノカバーは、折り畳んで収納することができる。
今回は高速道路や山岳路を約270km試乗。燃費は満タン法で10.3km/リッターを記録した。
今回は高速道路や山岳路を約270km試乗。燃費は満タン法で10.3km/リッターを記録した。
C-HRのGRバージョンは、フロアが強化され、サスペンションやステアリングの電動アシストにも専用チューンが施される。S-T“GRスポーツ”の場合、エンジンのパワーはほどほどだから、総じて「シャシーが勝っている」イメージ。乗り心地にも「スポーツ」が突出することはない。いうなれば、日々の運転にスポーツ風味をまぶした扱いやすいドライブフィールで、でも、クラッチペダルを踏んで、ギアレバーを繰る動作がちょっぴりスパイシー。内外装からいかにもとがった走りを期待すると肩透かし……は言い過ぎとして、意外に“普通寄り”だ。

少々意地の悪い言い方をすると、今回のMT版C-HRは、海外市場でラインナップされていた6MTモデルに国内向けの装備を施して商品性を整えたクルマといえる。けれども、なにはともあれカタログモデルとしてMT車がそろえられるのは慶事だ。C-HRに限らず、トヨタが大ヒットは期待できない(!?)MT仕様を各モデルにラインナップするようになったのは、スポーツカーを軽視するメーカーが衰退するのを知っているからだろう。数字だけを見て個性的なクルマを切り捨てていくと、いつのまにかラインナップが凡庸になって、ユーザーが離れていってしまうものなのだ。

スポーツカーやスポーティーグレードは、いわばメーカーの元気度を示すバロメーター。スポーツカーを一台開発するのと比較すれば、MTグレードを追加するのはグッとリーズナブルな投資といえる。自主規制撤廃。次のプレス試乗会では、「マニュアルはないのですか?」と聞いてみることにします。

(文=青木禎之/写真=宮門秀行/編集=関 顕也)

足まわりには専用チューニングのサスペンションを装着。フロントはマクファーソンストラット式、リアはダブルウイッシュボーン式。
足まわりには専用チューニングのサスペンションを装着。フロントはマクファーソンストラット式、リアはダブルウイッシュボーン式。
後席も前席と同様、ブラック基調のコンビタイプとなる。「GR」エンブレム入りのフロアマットは2万4200円の販売店オプション。
後席も前席と同様、ブラック基調のコンビタイプとなる。「GR」エンブレム入りのフロアマットは2万4200円の販売店オプション。
ラゲッジルームの容量は5人乗車時で318リッター。柔軟性のあるトノカバーは、折り畳んで収納することができる。
ラゲッジルームの容量は5人乗車時で318リッター。柔軟性のあるトノカバーは、折り畳んで収納することができる。
今回は高速道路や山岳路を約270km試乗。燃費は満タン法で10.3km/リッターを記録した。
今回は高速道路や山岳路を約270km試乗。燃費は満タン法で10.3km/リッターを記録した。

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