【現地取材】MaaSを世界初導入したフィンランド・ヘルシンキの交通事情 ―MaaS最先端都市ヘルシンキ編①

ヘルシンキ市内中心部はトラムが張り巡らされていて、移動手段の1つになっている
ヘルシンキ市内中心部はトラムが張り巡らされていて、移動手段の1つになっている

皆さんはフィンランドと聞いてどんなイメージを思い浮かべるだろうか。日本でテーマパークを開業したムーミンや、服や食器に施された特徴的な柄でおなじみのマリメッコ、あるいは北極圏のサンタクロース、オーロラなどだろうか。

北欧の観光地として人気のあるフィンランド。実は、首都ヘルシンキは、発達した交通インフラとスマートフォンアプリを組み合わせることで、渋滞や環境負荷などの課題を解決している「MaaS先進国」でもある。

本連載では、フィンランド・ヘルシンキの最新事情を通じて、日本の都市部でも発生している問題が、今後どう解決されていくのか。そんな近い将来の日本の姿を探っていく。

  • ヘルシンキ大聖堂
    ヘルシンキ大聖堂
  • クリスマスシーズンは街中が華やかに飾られている
    クリスマスシーズンは街中が華やかに飾られている

フィンランドで生まれたMaaS

そもそも「MaaS」とは何だろうか。MaaS(マース)はMobility as a Service(サービスとしての移動)の略で、各種交通インフラとスマートフォン、AI、自動運転など情報通信技術を組み合わせることで、交通の課題を解決しようという考え方だ。

例えば日本の都市部では、一般道や高速道路の渋滞、駐車場不足、通勤通学時間帯の電車の混雑、子供連れや高齢者・車椅子利用者が使いづらい駅構内の長い乗り換えなど、多くの問題を抱えている。世界各国の都市部でも、やはり同じようなことが起こっている。

ヘルシンキでトラムやメトロとともに市民の足となっているのがバス。多くの路線が用意されている
ヘルシンキでトラムやメトロとともに市民の足となっているのがバス。多くの路線が用意されている

しかしMaaSが実現すると、鉄道、バスなど公共交通機関のほか、タクシーやレンタカー、カーシェアリング、時間単位で自転車を貸し出すシェアサイクル、人を乗せたいドライバーと、すぐに乗れる車を探しているユーザーをマッチングする「Uber」のようなライドシェア、日本でも実証実験が進む自動運転車(バス/タクシー/1人乗りモビリティ)といったさまざまな交通インフラに対して、経路や位置情報の「検索」、利用するための「予約」、運賃をキャッシュレスで支払う「決済」が1つのサービスで完結し、ストレスのない移動ができるようになる。

そのためには、それぞれの交通機関の位置情報、遅延情報、運賃、運行スケジュール、乗り場などが広く公開(オープンデータ化)されている必要があり、乗車券や利用料を電子的に予約・販売・決済するための仕組みも必要になる。
そこでフィンランドでは、別々に運用していた鉄道や道路、輸送などの法律を1つにまとめていった。

法律を一元化してオープンデータを共有することで短期間でMaaSの実現に至ったが、そんなフィンランドの首都ヘルシンキでMaaSを運用するのがMaaS Global社だ。
同社はヘルシンキに本社機能を置くスタートアップ企業で、CEOのSampo Hietanen(サンポ・ヒエタネン)氏はMaaSの概念を生み出した人物として知られており、同社が提供する「Whim」は世界初のMaaSアプリ。もちろんヘルシンキでも利用されている。

MaaS Global社とWhimについては次回以降詳しく紹介するとして、その前にヘルシンキの公共交通について触れておこう。

HSL(ヘルシンキ市交通局)が管理する市内の交通

ヘルシンキ市内と隣接した都市はHSL(ヘルシンキ市交通局)が公共交通手段を提供している。電車、トラム、地下鉄、バスに加えて、ヘルシンキ特有のフェリーがHSLの管理で運行しており、タクシーやシェアサイクルなどを除けば、ヘルシンキと近郊での移動はHSLがすべてを担っている。

料金形態はいたってシンプルで、どの交通手段に乗っても料金は同一。日本では移動距離や電車やバスなどの移動手段によって金額が異なり、ICカードで支払わない場合は料金表を見て切符を買う必要がある。だがHSLは、期間と地域で値段が分かれている。

[期間]
・シングルチケット(80~110分間)
・1日~7日
・シーズン(定期券のような扱い)

[地域]
・ヘルシンキ市内と隣接市は「AB」
・ヘルシンキヴァンダー空港を含む「ABC」
・全域の「ABCD」

チケットアプリ上で購入可能。複数名分のチケットを購入すると、それぞれのチケットと時間が表示される

地区×時間で料金が分けられている。地区を表すローマ字の下のロゴが回転し、利用可能時間かどうかがわかりやすい。

もっとも安いABのシングルチケットは2.8ユーロで、ヘルシンキ市内から国際空港へのシングルチケットは4.1ユーロ、全域の1日券は15ユーロ、1週間だと60ユーロとなっている。

チケットを買うときはHSLのアプリ、または駅にあるチケット販売機、プリペイド式ICカードのHSLカードでの購入となる。券売機はトラムの駅などには設置されていないこともあり、アプリやICカードでの決済が一般的なようだった。

  • HSLアプリのチケット購入画面
    HSLアプリのチケット購入画面

公共交通機関が1社に集約されているヘルシンキは、現状でもHSLのサービスは効率的で不便さを感じることは少ないはずだが、それでもより効率的な移動手段の提供や提案の意味も含めてMaaSを積極的に導入した。

MaaS Global社が提供する「Whim」は、HSLのアプリと同様に公共交通機関のチケットを購入することができる。これだけだとWhimとHSLのアプリに違いはないが、Whimはタクシーの配車やレンタカーの予約などもサービスに含んでおり、あらゆる移動手段を1つのアプリで検索、決済できるようになっている。
さらに、すべての公共交通機関が乗り放題になる月額固定の料金制度を用意することで、移動のストレスだけでなく金銭的な負担も軽減しており、利用頻度が高いほどお得になる仕組みになっている。

  • ヘルシンキ中央駅からはヴァンター国際空港や国内の中長距離、隣国への列車などが出発する
    ヘルシンキ中央駅からはヴァンター国際空港や国内の中長距離、隣国への列車などが出発する
  • トラムの中でもチケットは購入でき、この場合の支払はICカードのみ
    トラムの中でもチケットは購入でき、この場合の支払はICカードのみ

誰もがスマートフォンを所有し、交通機関のキャッシュレス化が進んだ日本なら、ヘルシンキのようなMaaSの導入は難しくないように思える。しかし、今回の取材を進めるうちに、日本でのMaaS導入への障壁やフィンランドの先進的な取り組みが見えてきた。次回は、実際にWhimアプリをヘルシンキで使ってみたときの使い勝手や印象を紹介しよう。

[ガズー編集部]

MORIZO on the Road