【現地取材】住まいとの連携や交通渋滞、駐車場不足の解決も。移動の効率化にとどまらないMaaSの発展性―MaaS最先端都市ヘルシンキ編⑦

市街地にビッシリと駐車されている車両は、チケットまたはアプリで管理されている
市街地にビッシリと駐車されている車両は、チケットまたはアプリで管理されている

世界で初めてMaaS社会を実現した最先端シティ、フィンランド・ヘルシンキ。その先進的な実例から日本でのMaaS展開の未来を考える連載第7回。
MaaSは移動方法を変える新たな仕組みと考えられているが、今回はその発展性について紹介したい。MaaSアプリ「Whim」を展開するMaaS Global社では、住居と組み合わせることもMaaSの1つのサービスだという。

生活費で最も高い割合を占めるのが住居で、次が移動

MaaS Global社には日本企業も早くから注目し、出資や合同で実証実験などを行なっているが、そこには移動のみならず、不動産業など土地や住まいに関連する企業も参入している。

MaaS Global社カイ・ヒューヒティア氏
MaaS Global社カイ・ヒューヒティア氏

MaaS Global社の共同創業者カイ・ヒューヒティア氏は、MaaSの次の展開についての質問に、「生活するうえでもっとも費用がかさむのが住居で、その次が移動と言われています」と話す。

ヘルシンキではすでに賃貸の住居(家賃)にWhimの定額プランを含んだ例も誕生しているが、例えば集合住宅の目の前にタクシー/ライドシェア乗り場やシェアサイクルのポート(駐輪場)があれば、家を出た瞬間からMaaSによる効率的な移動を始めることができる。アパートやマンションを建てるときに、そこからのスムーズな移動手段の提供も含めて設計すれば、街そのものがMaaSと溶け合っていくだろう。
MaaSは単に移動を変える仕組みだと思われがちだが、不動産業と一体になって住宅を作る、街を作るという視点に立てば、建築業やエネルギーインフラなど、さらに異業種を巻き込んで利用者と事業者、誰にでもメリットのある未来が見える。
これは、「利用者をドアツードアでつなげて効率のよい移動を組み立てる」というフィンランド運輸通信省の考える理念にも近いと言えるだろう。

MaaSの進化が都市問題を解決する

フィンランド運輸通信省のサーラ・レイニマキ氏
フィンランド運輸通信省のサーラ・レイニマキ氏

MaaS実用のための法整備を担当したフィンランド運輸通信省のサーラ・レイニマキ氏は、「MaaSが運用されてから、利用者の意識は所有からサービスへと変わってきています。MaaSが進化していくなかで、次にサービス化するのが住居だと考えています。ヘルシンキの共同住宅では共有の電気自動車を用意しているケースがありますし、不動産にMaaSのサービスを付けることによって、自動車や自転車を持たなくてもよいという選択肢が生まれました。MaaSと不動産を組み合わせることで都市部での駐車場問題が解決するかもしれないとも思っています」と話す。

MaaSは移動の効率化にとどまらず、住居などを組み合わせることで、新たな発展をみせる可能性があるようだ。こうした説明を聞くと、移動とは一見関連のない三井不動産が2019年4月からMaaS Global社に出資・協業、さらに同社が千葉県「柏の葉」にてWhimの実証実験に参入していることも理解できる。

左は「P」のあるエリアは、指定時間内は有料で、それ以外は駐車可能。右の標識は基本的に駐車禁止だが、有料で一定時間の駐車が可能なエリア。また住民が申請と料金を払うことで、指定のエリア内で路上に駐車することもできる。(この標識のエリアはE) パーキングチケットはその場で購入する他、専用アプリも用意されている

また、MaaS Global社のヒューヒティア氏は日本の現状を例に出して、「郊外にあるショッピングモールでは週末になると自家用車の渋滞が起きていますね。どのように解消できるかということを実際に取り組んでいるのですが、例えば利用者にはWhimのようなサービスを使って公共交通機関やタクシーで来てもらいます。買った荷物はその場で送って、身軽に帰ってもらう。こうした考え方でショッピングモールの渋滞が解消できないか検討しているのです」というように、MaaSの進化や利用者の増加によって、渋滞の緩和や駐車場スペースの再利用なども視野に入れている。

日本国内では、移動の効率化やシームレスな移動サービスの実現としてMaaSがあるという理解が大半だと思われるが、住居や買い物などライフスタイルの変化に加えて、マイカーではない移動の選択肢を提案することで、交通渋滞・駐車場不足などの社会問題の解消にも役立つことになる。

たくさんのクルマが停まっているヘルシンキ市街、路地と住宅

今回の取材を通じて、MaaS最先端シティのヘルシンキでは、すでに住まいと組み合わせるような新しい段階に入っていることが分かった。MaaSの実用化から3年が経ち、「移動を変える」から「街を変える」段階に踏み出しているというスピード感には驚くばかりだ。

そんなヘルシンキと違って、日本の都市部は鉄道だけをとっても多くの事業者が存在し、Uberのようなライドシェアも制度上許可されていない。こうした調整や法律の見直しを経て「あらゆる移動手段を自由に組み合わせる」という段階に入るには、時間が必要だ。国や都市によって事情が異なるので、ヘルシンキで見てきたようなMaaS社会がそのまま日本に当てはまるというわけではないだろう。

だからこそ、今日本の各地で実証実験が進む「地域ごとのMaaS」には注目してほしい。三井不動産と柏の葉のように、街作りと一体になってMaaSを取り込んでいく例が増えれば、日本の道路・住宅事情、法律にあった形のMaaS社会が実現するはずだ。

一方で、地方の移動手段はまだまだマイカーが主役で、高齢者が免許を返納したらどこにも行けなくなってしまうという実情もある。こうした地域では、乗り合いタクシーや自動運転車、オンデマンドバスのようなクルマ中心のMaaSが現実的と言えそうだ。

次回は最終回。MaaSが身近になったヘルシンキでマイカーはどんな存在なのだろうか。トヨタに代表される「日本車のイメージ」を市民の皆さんに聞いてみた。

[ガズー編集部]