【現地取材】1年半のスピード法改正! MaaS関連の法律を一元化したフィンランドーMaaS最先端都市ヘルシンキ編⑤
- フィンランド運輸通信省 専門官のサーラ・レイニマキ氏
世界で初めてMaaS社会を実現した最先端シティ、フィンランド・ヘルシンキ。その先進的な実例から日本でのMaaS展開の未来を考える連載第5回は、フィンランド運輸通信省の専門官にMaaS社会実現のためにどのような施策や法整備を行なったのかを教えてもらった。
MaaSのコンセプトが生まれた土地であり、世界で初めてMaaSを実用化したフィンランド・ヘルシンキ。MaaSの概念はヘルシンキのスタートアップ企業、MaaS Global社の創業者サンポ・ヒエタネン氏が2006年に示し、2012年にMaaSという名称が初めて使われた。
同社は2016年からMaaSアプリ「Whim」を提供しており、今ではヘルシンキを始め各都市でサービスを展開している。
- 港町でもあるヘルシンキ。朝日を受ける街並みが美しい
取材当時、クリスマスマーケットが開催され、もみの木も販売されていた。購入した人は、ネットに入ったもみの木を肩に担いだり台車に乗せたりして持ち帰る
今ではMaaS先進国のフィンランドだが、公共交通機関を含む移動手段を自由に組み合わせて、スマートフォンアプリで経路検索から予約・決済までをひとまとめにするまでには、行政の協力と法律の見直しが必要だった。
そこには、交通機関それぞれのための法律があり、交通事業者側自身がMaaS展開を検討していたり、MaaS Global社のような企業との協業に消極的だったりと、地域ごとにさまざまな事情がある。
MaaS Global社はフィンランドを始め欧州4都市でフルサービスを提供しており、ほかにも多くの自治体や事業者とコミュニケーションを取っているが、新しい土地ですぐにMaaSが実現するほど話は簡単ではないようだ。
フィンランド運輸通信省。取材当日はあいにくの雨だった
MaaSの実現に必要なのは、まず公共交通機関やタクシー、ライドシェア、レンタカー、シェアサイクルなどの情報を、誰もが参照できるように(オープンに)することだ。
公共交通機関なら時刻表や料金、定刻なのか遅延しているのかといった運行情報、タクシーやライドシェアなら現在地情報や配車までにかかる時間、レンタカーやシェアサイクルならどのステーション(駐車場/駐輪場)に何台あるか。
では、こうしたデータが揃っていればMaaSが実現するかというと、今度は交通機関ごとに存在する法律や制度を乗り越えなければならない。
そんななか、フィンランドでは2018年7月に「運輸サービスに関する法律」が成立した。この法改正を担当したのがフィンランド運輸通信省だ。その専門官であるSaara Reinimäki(サーラ・レイニマキ)氏とAltti Iiskola(アルテ・イスコラ)氏にフィンランドでのMaaS実現までの過程を聞いてみた。
- フィンランド運輸通信省 専門官のアルテ・イスコラ氏
レイニマキ氏は、「MaaSが目標にしているのは、公共交通機関などの移動手段を組み合わせて、利用者を出発地から目的地まで効率よく運ぶことです。ですが、以前は輸送や交通、鉄道などが別々の法律のもとに運用されていたために、見直しが必要でした」と述べ、MaaS実現のために法律を1つにすることが始まりだったと説明する。
例えば公共交通機関のチケットの場合、以前は交通機関自身や旅行代理店が販売していたが、MaaS Global社のような第三者でも販売できるよう規制を緩めることで、利用者がMaaSアプリを通じて購入できるようになった。
また、法律が変わったことでタクシーは新規参入しやすくなり、事業者数が増加したそうだ。
ヘルシンキ市内の公共交通機関やシェアサイクル
異なる移動手段を組み合わせるには、法整備だけでなく、オープンな情報の範囲や質も考慮する必要があった。
「デジタル化が進んだことで情報の共有は簡単になりましたが、問題はどのデータをどこまで公開してよいのか、透明化するのか、という点です。例えば、交通機関の料金やバス停の場所など、情報の信頼性と質をどのように高めて、更新されたらどうするのか。現在では、交通関係事業者からの情報のアップロード先を用意しています。ここにデータを用意することで、MaaS事業者と情報を共有できます」
法律の見直しに要した期間はわずか1年半で、かなりのスピード感をもってMaaSが実現可能な環境を作っていった。
それを可能にしたのはいくつかの理由があるようで、「我々は運輸通信省です。2000年以降の通信やIoTの普及を見てきました。この通信と運輸が一緒の省庁だったということも法整備のスピード化につながっているはずです。加えて、法改正時の政権が通信/運輸市場の動きに敏感だったことも要因の1つでしょう」と話す。
フィンランド運輸通信省はMaaSの実現に向けて、交通サービスに必要なデータを提供したり、チケット販売規制を緩和したり、事業者から寄せられるダイヤ改正などの情報を1か所にまとめる仕組みを用意したりした
一方、規制緩和されたタクシー業界からは、新規参入や定額化に対して反発や懸念もあったというが、法改正してからの1年半で状況が変わり、結果的にタクシーの平均単価はアップしたという。この背景については次回紹介しよう。運輸通信省としては、MaaSの実現によって公共交通機関や民間の交通事業者、MaaSを運営する企業、それをサポートする企業などが成長し、利用者も効率的な移動ができるようになるなど、MaaSを提供する側にも利用する側にもよい効果をもたらしたと判断している。
- ヘルシンキ市内で見かけたタクシー車両。ドイツ御三家や東欧、北欧、日本車など、さまざまな車種がタクシーとして利用されている。
MaaS社会の実現には、アプリを提供する企業の努力だけでは足りず、交通事業者を取り巻く法律やサービスを展開するための制度の見直しも必要になる。
フィンランドには「何でもトライしてみよう」という国民性があるそうで、結果的に敏速な法改正が行なわれた。
移動手段に関する法規制は各国で異なるが、行政と交通事業者、MaaS運営企業のそれぞれがMaaS実現に向けて同じ方向を向いて協調しなければ、サービス開始に漕ぎ着くまでには時間がかかるのだ。
次回は、MaaSの運用開始によって交通事業者が得られたメリットや発展性について紹介しよう。
[ガズー編集部]
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