WEC(世界耐久選手権)とは? スケジュールやポイントシステム、ハイパーカー車両などを解説
近年、日本国内で開催される国際自動車連盟(FIA)が主催する世界選手権は、フォーミュラ1世界選手権(F1)、世界ラリー選手権(WRC)、そして世界耐久選手権(WEC)がある。
WECはF1同様、自動車競技専用のサーキット(一部公道あり)において開催される耐久レースで、ルーツを辿っていけば100年前に開催されたル・マン24時間レースとなる。
現在のスタイルとなったのは2012年で、2018-19シーズンにはTOYOTA Gazoo Racingが日本のメーカーとして初のドライバーとチームタイトルを獲得し、4連覇中だ。
2023年のWECは、ヨーロッパの4ラウンドに北米、日本、中東のラウンドを加えた昨季より1戦増の全7戦で行われる。
2023年シーズンは、2022年までの4クラス制からLM GTE Proがなくなり、スーパーカーより高性能な車両をベースとしたプロトタイプカーであるハイパーカー、LM P2、市販GTカーをベースとしたLM GTE Amの3クラスとなった。世界選手権は、ハイパーカーのドライバー、マニュファクチャラー(メーカー)に懸けられる。
そして、2021年から導入されたハイパーカークラスに、従来のル・マン・ハイパーカー(LMH)車両に加え、北米の国際モータースポーツ協会(IMSA)のル・マン・デイトナ・h(LMDh)車両も参加可能となり、参加台数が増えより見応えのあるバトルが期待される。
レースは耐久ということで、最も短い6時間レースを中心に、8時間、1000マイルというさらに長いレース、そしてフランスのル・マンで開催される24時間レースが設定されている。ドライバーは基本的に3人が登録され、交代しながらチェッカーを目指す。
コースはレース専用のクローズドサーキットがほとんどであるが、ル・マンのサルト・サーキットのように公道を一部利用して行われるイベントもある。
WECのルーツ「ル・マン24時間」は今年で100周年! WECの歴史
現在のWECは、2010年と2011年に開催されたインターコンチネンタル・ル・マン・カップ(ILMC)が発展する形で2012年にFIAの世界耐久選手権として開催された。
2012~2017年は通常の選手権同様1年間のシリーズとして開催されたが、2018年は春のイベントを取りやめ5月のスパ6時間でスタートし、6月のル・マン24時間を経て翌年のル・マン24時間でフィニッシュするという年をまたぐ(2018-2019年)変則的なスタイルが取られ、”スーパーシーズン”と呼ばれた。
次の シーズンも2019-2020年 と年をまたぐことになったが、2021年からは同じ年の中で争われるスタイルに戻された。
しかしWECのルーツは1923年に開催されたル・マン24時間にあると言えるだろう。
フランス、パリ南西に位置するル・マン市で車両の性能や耐久性を競う24時間レースが開催され、やがて1953年にはヨーロッパ各地の耐久レースを含めた選手権シリーズ、世界スポーツカー選手権(WSC)がスタートした。
2座席のスポーツカーで争われた耐久選手権は1962年、国際GTマニュファクチャラーズ選手権や国際メーカー選手権など、幾度も名称を変更して続けられ、1981年には世界耐久選手権(WEC)がスタート。
1982年からはグループC 規定によるスポーツプロトタイプカーで争われ、日産、トヨタ、マツダといった国内メーカーもル・マン24時間の優勝を狙って参戦を開始した。
1986年には世界スポーツプロトタイプカー選手権(WSPC)と名称を変更した。さらに1991年にはF1と同じNA(自然吸気)3.5リッターエンジンを使用するスポーツカー世界選手権(SWC)となったが、この年までは従来のグループC車両も参戦が可能で、ル・マン24時間ではマツダスピードが日本のチームとして初優勝を飾った。
しかし翌年はF1用エンジンの供給を受けられないプライベートチームが撤退して衰退。この年を最後にスポーツカーでの世界選手権は終了となった。
その代わりにスタートしたのが、プロトタイプカーによるル・マン・シリーズ(LMS)、GTカーによるBPR GT選手権、そしてその発展型となったFIA GT選手権だった。
世界選手権から外れてもル・マン24時間を主催するフランス西部自動車クラブ(ACO)は、プロトタイプカーとGTカーの混走による大会を続け、やがてFIAも足並みをそろえる形で、現在のWECが再び世界選手権として注目を集めることとなった。
WECの総合優勝を争うLMP1クラスはハイブリッド車両が中心、アウディとトヨタの争いとなり、2014年にはポルシェが耐久シリーズに復帰。その年はトヨタがアウディの連覇を止めドライバーとマニュファクチャラーの両タイトルを獲得した。
やがてアウディ、ポルシェもシリーズを撤退し、2018-2019年シリーズ以降はトヨタがドライバー部門、マニュファクチャラー部門の世界タイトルを4シーズン連続で獲得している。
ハイパーカークラスの参戦増加! WECの車両規則
WECのトップクラスであるハイパーカークラスに参戦できるのは、開発費用の高騰を防ぐために考案されたル・マン・ハイパーカー(LMH)とル・マン・デイトナ・h(LMDh)。ACO主導で進められて来たLMHと北米IMSAが推し進めて来たLMDhを性能調整(BoP)により性能を接近させ、同じ舞台で争わせようというものだ。
ハイパーカー <ル・マン・ハイパーカー(LMH)>
LMHはハイパーカースタイルのプロトタイプカー、もしくは2年以内に20台以上製造された市販ハイパーカーをベースに製造されたレースカーに限られる。
車重は1,030kg、パワートレインの最高出力は670馬力でハイブリッドの搭載に義務づけはなく、電気モーターは最高270馬力でフロントアクスルに置かれる。つまりハイブリッド車両は4WDであるのに対し、ノンハイブリッド車両はリヤ駆動の2WDとなる。
2023年シリーズに参戦するのはトヨタ、グリッケンハウス、プジョー、ヴァンウォール、フェラーリとなる。
ハイパーカー <ル・マン・デイトナ・h(LMDh)>
LMDhのシャシーは、ダラーラ、リジェ、マルチマチック、オレカの製造したものに限られる。エンジンは最高出力が630馬力で、ハイブリッドの場合はボッシュ製の67馬力を発生する電気モーターを搭載し、システム全体では680馬力となっている。
バッテリーはウイリアムズ・アドバンスド・エンジニアリング製、ギヤボックスはXトラック製のワンメイクとなる。2023年シリーズに参戦するのは、ポルシェ、キャデラックとなる。
LMP 2
LMP 2クラスの車両は、現在はオレカ、アルピーヌ(基本はオレカと同じ)のシャシーのみが使用され、これにV8 4.2リットルから600馬力程度を発生するギブソン製エンジンを搭載するというほぼワンメイク。
LM GTE
LM GTE車両は、かつてGTのトップカテゴリーであったグループGT1よりも改造範囲の狭いグループGT2と呼ばれた車両で、2010年にGT2のレースが消滅した後、LM GTEと名称を変更。2012年以降、WECのGTカテゴリーで使用されて来た。
最低車重は1245kgで、排気量はNAエンジンの場合5500ccまで、過給器付きエンジンは4000ccまで。
以前はLM GTE Proクラスにポルシェ、フェラーリにアストンマーティン、フォード、BMWなどが参戦し賑やかだったが、2021年にはポルシェとフェラーリの計4台だけに減少し2022年限りでProクラスは廃止。
一年落ちの車両で争われるAmクラスも2023年いっぱいで終了し、2024年からはGT3規定車両によるクラスの設定が予定されている。
なお、このクラスには日本勢としてD'station RacingがAston Martin Vantage GTE参戦している。
WECのルール(タイトル、ポイントシステム、ドライバー登録、予選、タイヤなど)
各クラスの世界選手権、タイトル、トロフィー
ハイパーカークラスには2つの世界選手権と1つのタイトルが懸けられる。
- FIAハイパーカー世界耐久ドライバー選手権
- FIAハイパーカー世界耐久マニュファクチャラー選手権
- FIAワールドカップ・ハイパーカーチーム部門
LMP2ドライバーと同チーム、LM GTE Amドライバーと同チームにはFIAのトロフィーが贈られる。
ポイントシステム
ポイントシステムは複雑で、ポールシッターに1点、決勝では6時間レース、8時間レース/1000マイルレース、24時間レースでそれぞれ異なり、長いレースほどポイントが増えるようになっている。
順位 | 優勝 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | 6位 | 7位 | 8位 | 9位 | 10位 | 11位以下 | PP |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
4時間 6時間レース |
25 | 18 | 15 | 12 | 10 | 8 | 6 | 4 | 2 | 1 | 0.5 | 1 |
8時間レース 1000マイルレース |
38 | 27 | 23 | 18 | 15 | 12 | 9 | 6 | 3 | 2 | 1 | 1 |
24時間レース | 50 | 36 | 30 | 24 | 20 | 16 | 12 | 8 | 4 | 2 | 1 | 1 |
ドライバー登録
ドライバーは1台につき3名まで登録できる。またドライバーはこれまでの戦績により「プラチナ」、「ゴールド」、「シルバー」、「ブロンズ」の4つに区分され、この組み合わせはクラスごとに決められている。
公式セッション、公式予選
レースイベントはル・マン24時間を除き3日間で行われ、初日にフリープラクティス2本、2日目にフリープラクティス1本と公式予選、そして3日目に決勝レースが行われる。公式予選はクラスごとに15分間の3セッションで行われ、アタックするドライバーはひとりでOK。
タイヤ
タイヤはハイパーカーがミシュラン、LMP2がグッドイヤーのワンメイク。今年はタイヤを使用するまで温めておくタイヤウォーマーの使用が禁止となった。
使用するタイヤの本数はクラスやレース距離により決められており、たとえばハイパーカークラスの6時間レースであれば、フリープラクティスで12本、予選と決勝で18本。
売り切れ必至の観戦チケットも。発売日は要チェック
観戦するのは各サーキットのスタンドやコースサイド。一部に一般公道を含むル・マンのサルト・サーキット以外はすべてパーマネントサーキットであり、主な観戦ポイントでは指定席も販売されており、もちろん長いレース中に自由席を巡ってのんびりと観戦するのも楽しいだろう。
耐久選手権というように最低でも6時間と長いレースなので、コースサイドでバーベキューを楽しみのんびりとレースを楽しむファンも増えている。ただし火を使えない場所もあるので、注意が必要だ。
日本での開催は2023年9月8日(金)~10日(日)となっており、チケットの発売日は4月11日現在未定。前年は同時期の開催で7月末に発売開始されている。
前年は通常の観戦券や指定席券以外に、
- コースサイドでゆったりキャンプも楽しめる「キャンプヴィレッジパッケージ」
- レースの雰囲気を直に楽しめる「パドックパス」
- ドライバーにサインをもらえるチャンスの「ピットウォークパス」
- バスの中からWECマシンの走りを体感できる「サーキットサファリ」
- 「FSWスカイクルーズ(ヘリ周遊)」
- 「プラチナペアルームパス」
など売り切れ必至の特別な観戦券も発売されていたので、観戦予定の方は、発売日情報をチェックしてほしい。
2023 FIA世界耐久選手権 第6戦 富士6時間耐久レース 特設サイト
https://fiawec-fuji.com/
(文:皆越和也)
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