第1回 EV、PHV、FCV? | プロフェッサー由美の自動車トレンド講座

自動車って、乗るのは楽しいけど最新技術はムズカシイ?
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第1回 EV、PHV、FCV?

​次世代車の本命って何? ガソリン車はなくなるの? 本当にエコなクルマって何?

★今回のテーマ★

​始まりました! わたくし吉田由美が自動車トレンドのプロフェッサーとして疑問難問に答えまくる連載です。
第1回は、「エコな次世代車」について。環境問題が大事なのは誰でも知っているはず。
でも、EVとかFCVとかアルファベットだらけで何が何だか……とお嘆きのアナタの気持ちもわかります。
プロフェッサー由美が、最新情報をていねいにお教えしま~す!

次々に登場する次世代エコカー、その本命は……?

昨年12月にトヨタが発売したMIRAI(ミライ)はご存じですよね? 世界初の量産型燃料電池車で、723万6000円という価格も話題になりました。文字通りの未来を手に入れられると思えば、これはお買い得かも!

“燃料電池”という名前だけ聞くと、私たちもよく知っている乾電池とかバッテリーの仲間かと思ってしまうかもしれませんが、実は全然違うもので、酸素と水素を反応させて発電する装置なのです。
英語ではFuel Cell。燃料電池でモーターを回して走る乗り物(Vehicle)だから、略して「FCV」と呼びます。

水素(H)と酸素(O)が化学反応すると、電気以外に発生するのはH2Oだけ。そう、水のことです。
ガソリンや軽油を燃やすエンジンは地球温暖化物質とされる二酸化炭素(CO2)を排出しますが、FCVは無害な水しか出さないってスゴい!
だから、15年くらい前から“次世代車の大本命”といわれているのです。

​​東京・芝公園にあるトヨタ・ミライの専用ショールーム。スタッフさんに聞いたところ、併設されている水素ステーションには、日に7台くらいミライが充てんに来るそう。

もうひとつの次世代車候補が、電気自動車。Electric Vehicle、略して「EV」。三菱i-MiEVや日産リーフは街でよく見ると思います。EVも走っている間は二酸化炭素を出さないので、環境に優しいクルマだといわれています。

最近ではBMW i3やテスラ・モデルSなどの海外メーカー製EVも登場しています。i3はアクセルペダル操作だけでスピードコントロールできる運転感覚がとっても新鮮。モデルSはインパネの真ん中にiPadっぽい大きなモニターがあって、インテリアまで未来のクルマっていう感じ!

EVは静かでスムーズな走りが最大のメリット。モーターは低回転でも大きなトルクが出るので、エンジンよりも動力として優れている点があります。もちろん弱点もあって、それは航続距離の短さ。最近では急速充電所も増えてきましたが、結構並んでいるし充電には時間がかかるし、ガソリン車に比べるとちょっと不便かも。

​​BMWの電気自動車i3。電気自動車のネックは何といっても走行距離の短さ。今、小さくても容量の大きい高密度バッテリーの開発が急ピッチで進められています。

FCVのミライは運転の仕方でも変わりますが、650kmぐらい走れるし、水素充てんはガソリンの給油と同じように2、3分でOK! でも、水素ステーションの数がまだ少ないので、FCVに乗れるのは、東京など近くにステーションがある一部の都市に限られそう。
水素製造や運搬などの技術も開発途中、という感じなので、それらの問題が解決すれば、普及は早いかも。
つまりEVもFCVも、ガソリン車に取って代わるには解決しなきゃならない問題が残っているということです。

​​水素燃料電池車(FCV)って聞くと身構えてしまうけど、運転方法は普通の自動車と変わりません。昨日までガソリン車に乗っていた人でも、安心してドライブに出かけられます。

ところで、環境に優しいクルマといえば、ハイブリッド車(HV)もあります。
1997年にトヨタがプリウスを発売したのが始まりですが、今や日本が生んだエコカーの代表選手といえます。

そして、熟成の域に達したハイブリッド技術を、EVと融合させたのがプラグインハイブリッド車(Plug-in Hybrid Vehicle・PHV)。コンセントから電池に充電できるところはEVですが、ガソリンエンジンも積んでいるので、電池がなくなりそうになったり、少なくなったらエンジンを使って走ることができたり、充電もできたり。精神的な安心感はピカイチ!

このジャンルだと、プリウスPHVや三菱アウトランダーPHEV、ホンダ・アコード プラグインハイブリッドが販売されています。BMW i3にも発電用のガソリンエンジン「レンジエクステンダー」が用意されています。というわけで、レンジエクステンダーはEVとHVのイイとこ取りですべて解決! と言いたいところですが、そうとも言いきれないかも。電池をたくさん積むことで、価格が高くなり、室内のスペースが狭くなるのがツラいところ。

​充電もできるハイブリッドカー、または発電機付きの電気自動車のプラグインハイブリッド車。こちらはホンダがリース販売しているアコード プラグインハイブリッド。

というわけで、今のところ「コレで決まり!」と言いきるのは難しいかも。ガソリンエンジンやディーゼルエンジンも進化を続けていて、最近のクルマはビックリするほどの低燃費。
2020年の東京オリンピックでは「水素社会」をアピールする予定のようですが、その頃はまだプリウスのようなHVが主流……なのかも。

★用語解説★

トヨタ・MIRAI(ミライ)
2014年12月に発売されたトヨタの燃料電池車。2015年中に納車されるのは400台ですが、予想を上回る受注があったため来年以降は増産する予定。独特なデザインは「空気を取り込んで水を出す」ことを表したもの。

水素ステーション
東京都心に開設されたイワタニ水素ステーション芝公園には、ミライのショールームも併設されています。まだ数は少ないけど、政府はエネルギー基本計画で2015年度内に水素ステーションを全国で100カ所に増やす目標を掲げています。

テスラ・モデルS
映画『アイアンマン』のモデルともいわれるイーロン・マスクが創業したベンチャー企業がテスラモーターズ。モデルSは2012年に発売された4ドアセダンで、日本では2014年9月に納車が開始されています。

三菱アウトランダーPHEV
ミドルサイズのクロスオーバーSUVをベースに作られたモデルで、前後それぞれにモーターを搭載した4WDシステムを備えています。

水素社会
政府がまとめた東京オリンピックに向けての9つのプロジェクトの中に、「水素エネルギーシステムを実現して水素社会の価値を世界に発信する」計画があります。インフラを整備し、選手村などでの移動はすべてFCVが担う予定。

★ここがポイント★

映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』で舞台になった2015年のアメリカでは、自動車が空をビュンビュン飛んでいたけど……。あれは30年後という設定でしたが、未来を予測するのは難しいってことなのかも。

プリウスが登場した時には、HVがこんなに早く普及するとは思われていなかったかも。逆に「2010年にFCVを量産する」と豪語していたメーカーもありましたが……まだFCVは発売されていないもよう。

次世代車の本命が何かはまだ決められませんが、エンジニアは課題を克服しようと日々努力しています。ガソリン車もどんどん良くなっていくし、しばらくは開発競争が続きそう。

どのクルマが一番エコだとか決めつけるより、乗る人が環境に対する責任をちゃんと考えることが大切だと思うのよね~。

(文=吉田由美/写真=郡大二郎)

[ガズー編集部]