第8回 日本でミニバンが人気なのはなぜ? | プロフェッサー由美の自動車トレンド講座

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第8回 日本でミニバンが人気なのはなぜ?

7人乗りが必要な理由は? 背が高くても走りは大丈夫なの?

★今回のテーマ★

​​12年ぶりに新型となったトヨタ・シエンタが絶好調! 発売1カ月で4万9000台の受注があり、月間販売目標の7倍に達したそうです。新型ホンダ・ステップワゴンやトヨタ・アルファード/ヴェルファイアも好調なようですし、やはり日本でのミニバン人気には根強いものがありますね。しかし、海外ではそれほど人気のジャンルではないようです。そこには日本独自の事情があるのでしょうか?​​

万能なクルマを求める声に応え、独自に進化したファミリーカーの代表選手

​​シエンタは、確かによくできたクルマです。しかもカッコイイ! わずか4235mmの全長で7人乗りの3列シートを実現していて、3列目をたたむと2列目のシートの下に隠れてしまう、魔法のようなダイブイン機構も自慢。操作が楽で、力いらずなところもうれしいポイントです。こういう工夫はまさに日本車の得意分野。昔の欧州車の中には、シートの折りたたみ機構がなく、荷室を広げるためには座席をはずさなければならないものもありました。しかも、シートが重い!(笑) また、たためるクルマでも、操作にはわずらわしい手間が必要だったりして、苦労させられたことが結構あります。​

2015年7月に登場した新型トヨタ・シエンタ。車内には、小柄なボディーでできるだけ広いスペースを確保するための工夫がいっぱい。3列目シートは2列目シートの下に格納されるので、ご覧の通りすっきりとした荷室空間が得られます。

日本では、ミニバンはファミリーカーの代表です。子育て世代には室内スペースの広いクルマは必須。チャイルドシートを取り付けて横にお母さんが座るには、背が高いほうが便利ですから。加えて、スライドドアなら乗り降りもラクラクですし。

といっても、実際に7人家族というのは珍しいかもしれません。が、なにも乗るのは家族だけではありません。サッカーや野球をやっている子供がいると、チームのメンバーを一緒に乗せることが多いのだとか。自分の家だけスポーツカーだったりすると、子供が肩身の狭い思いをしてしまうこともあるそうです。また、意外なことに独身の若い男性層にも好評な様子。地元の友達と連れ立って遊びにいくには、大勢で会話しながら走れるミニバンは最適なようです。

昔はファミリーカーといえばセダンでした。CMでも、セダンに乗って家族旅行に出かけるシーンがよく使われていたものです。ところが、いつの間にかセダンは主流ではなくなり、幼稚園で子供たちが描く自動車の絵は、箱型のミニバンが普通になりました。アメリカでは今でもセダンが一定の需要を保っているのを見ると、クルマ文化の違いがわかります。

ヨーロッパでは、ファミリーカーの代表はCセグメントのハッチバックやワゴンです。フォルクスワーゲン・ゴルフやメルセデス・ベンツAクラス、トヨタ・オーリスなどですね。都会では家の中に駐車場がないので、家の前の道路に縦列駐車できることが条件になります。そこで、コンパクトで居住空間の広いCセグメントが必然的に選ばれるようです。となると、シエンタのサイズならOKのはずですから、輸出すれば需要があるかもしれません。

日本で激戦区になっているのは、もう少し大きなクラスのミニバンです。トヨタのノア/ヴォクシー、トヨタ・エスクァイア、日産セレナ、ホンダ・ステップワゴンなどがあります。5ナンバーサイズながら車高が高くてスペースは十分。シートアレンジが多彩で、収納もよく考えられています。多目的で万能なクルマが求められているのでしょう。

幅広いユーザー層のニーズにこたえるための、多彩なバリエーションも日本のミニバンの特徴。例えばトヨタは、箱形5ナンバークラスだけでもノア、ヴォクシー、エスクァイアと、3種類のモデルを取りそろえています。

背が高いので走行安定性が悪いと思うかもしれませんが、心配ありません。確かに商用車をベースに作られていた初期のミニバンは、決して運転しやすいクルマではありませんでした。乗り心地もあまりよくなかった記憶があります。でも、乗用車として専用設計されるようになってからは、見違えるように性能が向上しました。今のミニバンは、山道だってストレスなく走れます。

ミニバンの中でも大型のクラスは、重厚でどっしりした存在感があります。トヨタのアルファード/ヴェルファイアは、“大空間高級サルーン”と名乗っているだけあって、迫力があります。2列目のキャプテンシートは広い上に至れり尽くせりの快適装備が付いていて、居心地のよさは最上級。VIPの送迎は高級セダンが通り相場でしたが、今では大型ミニバンが取って代わりつつあります。

トヨタ・アルファード/ヴェルファイアには、仕様によっては写真のようにゴージャスな2列目シートが! これならファミリーユースだけでなく、大事な人の送迎にも使えます。​

ところで、“ミニ”バンというからには、基になったバンがあるはずです。アメリカではビジネスユースなどで活躍するフルサイズのバンがあり、その小型版ということでミニバンが生まれました。ダッジ・キャラバンやシボレー・アストロなどがその始まりです。日本では日産プレーリーや三菱シャリオが早い時期に登場しています。

日本でも人気を博したGM製ミニバンのシボレー・アストロ(右から2番目)と、フルサイズバンとの比較。日本では持て余すサイズのアストロが小さく見えるのだから、驚きです。

1990年に“天才タマゴ”というキャッチコピーで発売されたトヨタ・エスティマは、新世代のミニバン像を見せてくれました。1994年にはホンダ・オデッセイが登場して、乗用車的な運転感覚で人気となります。2000年にはステーションワゴンのように背が低いホンダ・ストリームが、2001年には箱型5ナンバーのトヨタ・ノア/ヴォクシーがデビューします。アメリカとはまったく違う独自の進化を遂げて、ミニバンは日本の主流になっていったのです。

★用語解説★

トヨタ・ノア/ヴォクシー
日本のミニバン市場における最激戦区といえば、ズバリ箱型の5ナンバークラス。そこで戦うトヨタのミニバンがノア/ヴォクシーです。デビューは2001年のことで、それ以前は商用車ベースのタウンエース・ノア、ライトエース・ノアが販売されていました。

ダッジ・キャラバン
日本での知名度は今イチですが、元祖ミニバンといえばこのクルマ。1983年に初代が登場するやいなや、FFプラットフォームを生かした低床設計と小柄なサイズが女性から高評価を得て、一代にしてミニバンというジャンルを築き上げるほどの人気を博しました。

日産プレーリー
1982年がデビューの年で、その頃はまだミニバンという言葉はありませんでした。センターピラーレスで両側スライドドアという画期的なボディー構造でしたが、登場が早すぎたのか、真価が理解されずに販売は伸び悩みました。

トヨタ・エスティマ
キャッチコピー通りのタマゴ型で、新鮮なスタイルでしたね。しかし、外観以上にユニークだったのがメカニズム。初代はエンジンを寝かせて床下に搭載し、アンダーフロア型ミドシップレイアウトを実現していました。

★ここがポイント★

2014年のカー・オブ・ザ・イヤーの選考で、私はトヨタ・ノア/ヴォクシーを10ベストに入れました。そうしたら、まわりから驚かれたんです。

スポーツカーやクーペ好きの私がミニバンを選ぶのは意外に思われたようです。確かに、今のところ私が自分の愛車にミニバンを選ぶ理由はありません。だけど、自分が乗らなくても素晴らしい部分はちゃんと評価しなければならないと思うんです。

日本はミニバンばかりでつまらない、という声をよく聞きます。しかし、これだけ普及しているということは、日本人のライフスタイルに合っているということなのでしょう。

それに、この10年くらいでミニバンの性能は本当によくなったと思います。使い勝手に加えて、走行性能もバカにできません。素直に感心しますし、誇るべきことだと思います。

(文=吉田由美/写真=小林俊樹、田村 弥、郡大二郎)

[ガズー編集部]

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