第3回 自動運転は本当に実現するの? | プロフェッサー由美の自動車トレンド講座

自動車って、乗るのは楽しいけど最新技術はムズカシイ?
そんなアナタも大丈夫。どんな疑問にもプロフェッサー吉田由美が答えちゃいます!

第3回 自動運転は本当に実現するの?

どうやってまわりの状況を感知するの? 技術以外にも解決すべき問題がある?

★今回のテーマ★

自動運転の話題は、最近では新聞やテレビでも取り上げられていますね。自動車がホントに“自動”で目的地まで走ってくれるなんてSF映画みたいだけど、この何年かで急激に研究が進んで、結構現実味が増してきました。それどころか、その技術の一部はすでに販売されているクルマにも使われているんですよ! もしかすると、次にあなたが買うクルマは自動運転カーかもしれませんね!

予防安全や運転支援の技術が進むと自動運転が実現する?

今年1月にラスベガスで行われた国際家電見本市で、メルセデス・ベンツが自動運転のコンセプトカー「F015ラグジュアリー・イン・モーション」を発表しました。いかにも未来のクルマというフォルムで、すぐに製品化されそうには見えませんでした。

2015年1月に米ラスベガスで行われた国際家電見本市で発表された「メルセデス・ベンツF015ラグジュアリー・イン・モーション」。
プラグインハイブリッドシステムと自動運転技術を搭載したコンセプトカーです。

でも、実はもうすでに自動運転は始まっているんです!……というのはちょっと言いすぎかもしれませんが、自動運転につながる技術が今のクルマにどんどん装備されているのは、まぎれもない事実。今日乗ってきたメルセデス・ベンツSクラスも、最新のテクノロジー満載のクルマなんです。

メルセデス・ベンツに搭載される「ディストロニックプラス」は、2種類のミリ波レーダーで前走車との距離を計測。前走車が止まれば自動でこちらも停車するので、普通に走っている分には、ほとんどブレーキを踏む必要がありません。

今のところ自動車は人間が運転していますが、昔に比べるとイージードライブになってきていますよね。これは、運転操作の一部を、クルマが代わりにやってくれるようになったからだといえます。今やほとんどのクルマがオートマチックトランスミッションですが、あれだって変速の操作を自動化したものです。電子制御の技術が進んだおかげで、アンチロックブレーキシステムや横滑り防止装置が、クルマの動きを自動的に制御して、危険な状態に陥るのを防いでくれるようになりました。

さらに進んだものが運転支援システムで、最近のクルマにどんどん取り入れられています。一番有名なのが「自動ブレーキ」ですね。前を走るクルマや飛び出してきた歩行者を感知して、ぶつかりそうだと判断すると自動的にブレーキをかけるシステムです。予防安全装備の一環として以前から衝突軽減ブレーキがありましたが、今では一定の速度以下なら、完全に停止するものもあるのです! これらが普及されていくことに伴って、価格の低下が進み、今では軽自動車にも採用されています。

トヨタの予防安全システム「Toyota Safety Sense P」では、センサーにミリ波レーダーとカメラを利用しています。ちなみにコンパクト車用の「Toyota Safety Sense C」では赤外線レーザーとカメラを使用。車種によって最適なものを使い分けているのですね。

また、速度を自動で制御するレーダークルーズコントロールというシステムもあります。「そんなの昔からあったよ!」と思ったあなた! 確かに。速度を一定に保つだけのクルーズコントロールなら珍しくないですね。しかし、レーダークルーズコントロールには前を走るクルマと一定の車間距離を保ったまま走る機能もついているのです。前のクルマが減速したら、こちらも自動で減速。アクセルだけじゃなくて、ブレーキを踏む必要もありません。

さらにレーンキーピング機能も普及してきました。車線からはみ出しそうになるとドライバーに警告を発して、車線にとどまろうとするドライバーの操作をアシストしてくれるものです。自動操舵(そうだ)技術を使った自動駐車システムも、かなり実用的なものになってきましたね。

つまりアクセル、ブレーキ、ハンドルの操作は、ここまで自動化されているわけです。こういう機能を実現するためには、クルマがまわりの状況をちゃんと認識していないといけません。だから、センサーが大事なのです。カメラ、ミリ波レーダー、赤外線レーザー、超音波センサーなどがありますが、用途や価格などで使い分けられています。

「自動運転」というのは、要するにスピードと進路を自動的に操作すること。こうして見ると、ここまでに紹介してきた運転支援システムを組み合わせていけば、もう実現しそうですよね。あるメーカーのエンジニアさんに聞いたら「高速道路で東京から大阪に行くぐらいならすぐにでもできる」ということでした。GPSや3Dマップでクルマの位置を正確にとらえる研究も進んでいます。

トヨタによる自動運転のテストの様子。今後はソフトウエアの改善などといった技術的課題の解決に加え、自動運転に関する法律の整備なども必要となるかもしれません。

しかし、まだまだ解決しなくてはならない問題はたくさんあるのです。高速道路と違って市街地には障害物も多く、歩行者が急に飛び出してくるかもしれません。不測の事態に対応するためには、もっと多くのデータを集める必要があり、またシステムの情報処理速度を今よりずっと高める必要があります。つまりソフトウエアが重要になっているということ。最近ではIT企業の「グーグル」も自動運転のクルマを開発しています。アップルが参入するという話も聞こえてきましたね。

それと共に、クルマ自体の運転技術を磨くことも課題です。人間が同乗者を気遣って優しい運転を心がけるように、自動運転のシステムも、ハンドルやアクセルの操作をスムーズに行ってくれないと困ります。とはいえ、ハイヤーの運転手さんみたいなおもてなしの心を持つのは、簡単ではないとは思いますが。

さらに大切なのが、技術的な問題だけではなく、法律や行政の体制を整備すること。自動運転中に万一事故が起きてしまった場合、責任が問われるのはドライバーなのか自動車メーカーなのか……。

考えなくてはいけないことは山ほどありますが、時代は着実に自動運転に向かっています。今は、どれだけ魅力的なビジョンを見せられるかが、メーカーの力や個性の見せドコロかもしれません。

★用語解説★

メルセデス・ベンツF015ラグジュアリー・イン・モーション
燃料電池とバッテリーを組み合わせたプラグインハイブリッドカーで、航続距離は1100km。車内はまるでラウンジのようで、自動運転によって移動中も自由な時間を得られるのだそう。これは乗ってみたいですね。

自動ブレーキ
2003年にホンダ・インスパイアに追突軽減ブレーキが搭載されたのが世界初とされています。ただし、完全に車両を停止させるようになったのは2008年のボルボXC60から。それ以来、日本でも急速に普及していきました。

ミリ波レーダー
電波の反射を利用して、対象物の距離や速度、方向を測定する装置のこと。中長距離では特に有効ですが、「これは人なの? クルマなの?」といった種別の判断が苦手なので、今は光学カメラと併用されることが多いようです。

グーグルの自動運転車
IT企業のグーグルは、当初トヨタ・プリウスなどを改造して自動運転の実験をしていましたが、2014年に自主開発のオリジナルモデルを発表しました。早ければ2017年には実用化したいとのこと。

★ここがポイント★

私もいろんなクルマで運転支援システムを試していますが、自動ブレーキやレーンキーピング機能は、すごく進化していますね! レーダークルーズコントロールも便利ですが、こちらは速度設定などの操作の仕方を、もう少し工夫してほしいかな。

……ただ、完全な自動運転のクルマに関しては、気持ちはちょっと複雑。確かに、センサーは人間の目で見えないものも感知するので、交通事故を減らせる可能性があります。私としては、クルマに乗っての移動時間中にメイクができるようになるのは大きなメリットかもしれません。しかし、やっぱり運転するのが好きなので、もしクルマからハンドルがなくなってしまうとしたら、やっぱり悲しい。

渋滞時や疲れている時はクルマにおまかせ。ワインディングロードでは、自動運転をオフにして思いっきり楽しむ。そんな使い分けができるとしたら最高!(笑)

(文=吉田由美/写真=郡大二郎、向後一宏)

[ガズー編集部]