【マツダ6 新型試乗】熟成の裏に見える限界、完成の域に達した“最後の”マツダ6…中村孝仁
しかし、グローバルマーケットでは元々「マツダ6」を名乗っていたから、昨年が20周年なのである。単にアニバーサリーモデルとして誕生したわけではなく、マツダお得意の商品改良もちゃんと施されている。
◆まさに完熟果実の様相
まずエンジンパワーは従来の190psから10psアップされて200psとなった。同時にトルクも高回転時のトルクを増強して息切れ感を防いでいる。他にも既に『CX-5』などで導入されたアクセルペダルの最適化と称する踏み込んだ時の感触を少しだけ重くする改良が施された。エンジンのパワーアップもCX-5ですでに行われていたから、要するにCX-5に施した改良点をすべてマツダ6にぶち込んだというものだ。加えて電動パワステのアシスト量変更やらADAS系のさらなる充実等々、正直やり尽くした感がこのクルマではぷんぷんする。
だから結果どうかというと、その走りはまさに完熟果実の様相で、アテンザ以来基本的にはプラットフォームが変更されておらず、最新の横置きスモールプラットフォームに変更されているわけでもないから、恐らくこれ以上はやりようがないというのが正直なところ。細かな改良を積み重ねて完成の域に達したクルマである。
インテリアの質感は元々十分に高いものだったが、この20周年車はダッシュボードにレガーヌと名付けられたスウェード調の生地をあしらい、シートもナッパレザーとこのレガーヌのコンビシートとされ、仕上がりは非常に美しい。このレザーとレガーヌという生地はいわゆるタンと呼ばれるキャメルカラーとでも言おうか、黄色がかった茶色で、それ以外の部分を黒で締めていて、カラーコーディネートも実にうまい。
外装色もアーティザンレッドプレミアムという20周年記念車専用の新色である。色合いとしてはバーガンディーより少し濃いめのメタリックという感じ。因みに特別色のお値段7万7000円(税込み)である。
◆熟成の裏で限界を迎えた乗り心地
2.2リットルのディーゼルも熟成の極みと言って過言ではなく、音振対策も万全。走り出してしまえば静粛性はすこぶる高いし、独特のトルク感もパーシャルから加速した際などは明らかにガソリン車より1枚も2枚も上手の加速感を示してくれる。盛り上がるトルク感は今でこそ慣れてしまったから大きな感動はないが、出た当時は惚れ惚れしたものである。
ただ、これが限界だと感じるのが乗り心地だ。マツダ車は多くの場合とりわけリアからの突き上げ感が大きな乗り心地のものが多く、乗り味全体をスポイルしていて、このクルマもだいぶ落ち着いているとはいえ、大きな入力が入った時の跳ね感が抑えられない。
また、日常的な乗り味でも全体的なフラット感に乏しく、よく言えばスポーティー、悪く言えば落ち着きのない乗り心地となっているのは残念だ。これ以上を求めようとしたら、恐らくはプラットフォームを改良しサスペンションの取り付け剛性をあげるなど根本的な施術が必要になると思われる。
◆これが最後のマツダ6となるのか
では、マツダ6がそこまで踏み込んだ改良がされるのだろうか?セダン市場が世界的にシュリンクしている現在、最新モデルを投入するだけ市場の広がるがあるかという点である。最盛期は北米市場で年間5万台以上。日本市場でも2万台以上を売り上げていたアテンザ/マツダ6だが、2021年は北米で1万6千台ほど。日本市場は2350台と大きく落ち込んでいる。おまけに北米市場はすでに販売を取りやめているし、オーストラリアやカナダでも同様。頼みの綱は中国市場だが、それとて最盛期の北米市場をカバーできるほどの販売量ではない。
となると見えてくるのはこの世代が最後…ということである。ジェネレーションによる感覚の違いは如何ともし難いようで、昭和生まれの旧式な人間は今もセダンこそ究極の自動車であるという認識を持つのだが、ジェネレーションが進めば進むほどその感覚は異なり、今はきっとSUVこそ究極の自動車であると考える人がほとんどなのだろう。もしそうなら、フォードではないけれど「もうセダンは作りません」というメーカーの考えは至極真っ当なのである。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。
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