【トヨタ アルファード/ヴェルファイア 新型試乗】2列目シートで乗り比べ!その素性は予想以上に違っていた…西村直人
通常、新型車の試乗会ではドライバーとして取材時間の大半を費やす。しかし今回の2車ではレスポンス編集部協力のもと、2列目シートでの乗り比べを主体に取材を行った。アルファードとヴェルファイアは引き続き日本のミニバン市場をけん引し、この先は世界市場で戦うトヨタの主力モデルになることから、ミニバン評価として譲れない居住性能をどうしても確認したかったからだ。
比較試乗はアルファード/ヴェルファイアともに直列4気筒2.5リットルハイブリッドモデル(システム出力/250sp)とし、駆動方式は4輪駆動のE-Four(後輪モーター出力/54ps)を選択。後述するが2車では乗り味に関係する部分に大きな違いが設けられていることから、運転の仕方や試乗ルートにもこだわり可能な限り、同じ状況で比較した。
ドライブモードは2車とも「ノーマル」モードとし、乗車人数やガソリン残量、バッテリーのSOCもほぼ揃えた。2列目シートは各種の電動調整機構がセールスポイントだが、今回は素の乗り味を比較したかったので「リヤマルチオペレーションパネル」にある標準設定位置を選択している。
比較車両のグレードとスペックは次の通り。
・アルファード:Executive Lounge
オプション込みの車両重量:2310kg
タイヤサイズ:225/65R17 102H(PCD120/ナット締結の5穴)
・ヴェルファイア:Executive Lounge
オプション込みの車両重量:2330kg
タイヤサイズ:225/55R19 103H XL(同)。
◆アルファードの2列目試乗、速度をあげるとわかる素性とは
最初にアルファードから2列目試乗を開始する。スタートは石畳路面の駐車場。アクセル操作と共に自動リリースを行う「EPB」の制御がさらにきめ細やかになり2列目シートにも不快な振動を伝えてこない。そこを10km/hほどのゆったりとした速度で走らせるのだが、エンジンを停止させたEV走行モードだから静粛性はひときわ高く、電動駆動モーターやインバーターが発する音すら耳にほとんど届かない。また、エアボリュームの大きい17インチタイヤの効果を存分に感じられる領域とあり、身体へと伝わる振動はほぼ皆無だ。
その2列目にはプレミアムナッパ本革シート表皮を採用した「エグゼクティブラウンジシート」が標準装備(ヴェルファイアも同じ)。先代のふかふかヘッドレストレイントは、コシのある超ふかふかタイプに進化した。「ブラック」と選べる内装色のうち、試乗モデルは明るい「ニュートラルベージュ」だったので開放感もひときわ高かった。
駐車場から公道へ。歩道から車道へおりる際に段差(車両乗り入れ部分なので約5cm)を通過する。「タン、タン」という小さな衝撃音とともに、足元にはごくわずかな振動が感じられ車道に出たことを意識した。ショーファードリブンにも十分活用できる乗り味だ。
信号待ちからの発進。じんわりと身体がシートバックに沈み込む。座面に分散型のウレタン、背もたれに低反発フォームパッドと部材を使い分けた。快適性はとても高いが、身長170cm/体重67kgの筆者には若干ながら座面の減衰特性が高いように感じられる。
取材日は外気温35度以上の猛暑日だったが、豊かな風量をもつエアコンはわずかな作動音(前後エアコン稼働/AUTOモード/23度設定)を伴い終始安定。丁寧なアクセルワークでは40km/hを超えたあたりからエンジンが始動する。しかし、ゆるゆる稼働するエアコンの作動音(ファンノイズ)にエンジン音は見事にかき消され2列目シートにはほとんど届かない。
速度を上げていくと徐々に素性が明らかになる。路面の起伏や橋のジョイント部分を通過した際、身体に伝わるわずかな振動を意識し始めた。もっともシート座面は広くじんわり身体が沈み込むし、振動といっても振幅そのものもは小さいから気にならない人も多いだろう。ただし、凹凸が大きい(深い)と鉛直方向に伝わる振動が一発で収まらないこともあった。「ぶわん」と乗り越えるのだが、そのあとに小さな揺れが身体に伝わる。
流れの速い国道に入る。巡航時の静粛性も高い……。が、前走車を追い越す際など、アクセルペダルを踏み込むとエンジン回転数が2000回転中盤までスッと高まる。そうなると、中音域以上のわりと高めのエンジンノイズが耳についた。
開発責任者である吉岡憲一さん(トヨタ自動車チーフエンジニア)曰く、「会話明瞭度を高めるため、その妨げとなる低音域は押さえ込みました」との発言通り、運転席との会話明瞭度は高いままだが、それだけにエンジン透過音が耳に残る。
◆19インチ、ダンパーの違いが2列目でも感じられるヴェルファイア
続いてヴェルファイアに乗り換える。スタートは同じく石畳路面の駐車場だが、早くも徐行速度領域から違いを実感。ちゃんと路面状況を身体へと伝えてくるのだ。これは19インチ化はもとより、ダンパー減衰力を高めたこと(バネレートはアルファードと同じ)や、ラジエーターサポートとサイドメンバーをつなぐ「フロントパフォーマンスブレース」の追加によるもの。
ただ、アルファードとの共通項目として、シートフレームに防振ゴムブッシュを用いフレームの振動を減衰したり、振動の強さなどに応じて減衰特性を変化させる周波数感応型ショックアブソーバーを採用したりすることで、いわゆるゴツゴツ感は一切ない。
「ニュートラルベージュ」に対し試乗したヴェルファイアの内装色は「ブラック」。筆者ならヴェルファイア専用の内装色「サンセットブラウン」を選ぶが、ブラックの内装色は精悍だし、外装のグリルやヘッドライトカバーのガンメタ塗装、グリルモールのスモークメッキ塗装との相性も良い。そのぶん車内は暗くなりがちだが、それだけに外光が採り入れられる電動シェード機能が付き「左右独立ムーンルーフ」との相性は高かった。
駐車場から公道へ。歩道から車道へおりる際の段差では、割と大きな振動を感じる。加えて周期も短め(≒ダンパー減衰力高め)だからソフトな乗り味を期待している人には「おっ、硬めだね」と感じられるほど。
ただ、乗り味に角がなく、振動はグッと身体に響くけど一発でそれが収束するから心地良い。筆者がヴェルファイアの乗り味を高く評価した最大の理由はここにある。不思議なことにアルファードで意識したフロアの微振動はヴェルファイアでは感じられなかった。
信号待ちからの発進。シートと身体の強い一体感が心地良い。ヴェルファイア専用の乗り味と、アルファードでは若干高めに感じたシートの減衰特性が見事にマッチしていて、ここでもヴェルファイアのしっかり/すっきりとした乗り味が光った。
◆静粛性、車体の動きに違いはあるのか?
静粛性については大きな違いがなかった。19インチタイヤを履くぶん、ヴェルファイアが不利になると予想していたが、ロードノイズに限っていえば「若干、大きいかな」程度。アルファードと同じ楽曲を同ボリュームで聴いていても車内に15個あるスピーカーから耳に届く明瞭度は変わらなかった。ここでは、人が不快に感じる“こもり音”の逆位相にあたる制御音をスピーカーから出して打ち消す「アクティブノイズコントロール」(アルファードにも付く)が効果的に働いているようだ。
一方で、路面の起伏や橋のジョイント部分では車体の動きや体感レベルに大きな違いがある。明らかに振動は大きくなり、いわゆる突き上げとして認識するレベルも高まる。ただ、一発で揺れが収束すること/凹凸の大きさに関係なくその周期が一定であること/乗り味に角がないことなどから、身体との一体感は終始保たれる。
加えて、2列目シート→3列目シートへと後方になるに従い着座位置が高くなるシアターシート形状が採られ、さらに視界そのものも前方/側方それぞれに広い。だから、たとえばカーブに入る際に、この先、身体が受けるであろうロール(車体の横揺れ)に対する身構えがスムースに行える。さらに目線が安定するからクルマ酔いにしても、ヴェルファイアのほうがしにくいのではないか。
◆しっとり/滑らかなアルファード、しっかり/すっきりのヴェルファイア
ここまで2列目シートに限定したロードインプレッションを行った。2車に共通しているのは専用設計とした「GA-Kプラットフォーム」の高い剛性と、1~3列目に座る人すべての快適性を考えた乗り味だ。
トヨタ初採用の「スーパーロングオーバーヘッドコンソール」も便利だ。2列目の左右席どちらに座っていても、左右のスライドドア/ウインド/シェードの開閉(昇降)スイッチにアクセスできる。腕を上げて操作するギミック(一部は音声コマンドでも操作可)は令和の時代、却って新鮮に映るか!? また、2列目に座っていながら窓側にちょっと振り返るだけで、3列目のシェードを単独で操作するスイッチに手が届く。こうした細やかな配慮もありがたい。
筆者はしっかり/すっきりとした乗り味を好むのでヴェルファイア推しだが、しっとり/滑らかな乗り味が好みで、しかも高速道路での移動が少ないのであればアルファードの乗り味が良いと感じられるだろう。走行するシーンや乗る人の好みよっても逆転する要素はたくさんある。そこにはドライバーの運転操作スキルも大いに関係する。
今回は最上級グレード(アルファード/872万円、ヴェルファイア/892万円)での比較を行ったが、アルファードには2.5リットルNAエンジンを搭載した「Z」グレードが540万円~、ヴェルファイアには2.4リットルターボエンジンを搭載した「Z Premier」グレードが655万円~でそれぞれ用意され、いずれも4WDモデルを19万8000円高でラインアップする。
その2.5リットルNAエンジンを搭載したアルファード「Z/4WD」(559万8000円)にも短時間試乗できたが、スペック(182ps/235Nmで車両重量2120kg、トランスミッションはCVT)以上に良く走ることも確認できた。単なるボトムグレードではなく、しっかり実力派であることも個人的には良き発見だった。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★
西村直人|交通コメンテーター
クルマとバイク、ふたつの社会の架け橋となることを目指す。専門分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためにWRカーやF1、さらには2輪界のF1と言われるMotoGPマシンでのサーキット走行をこなしつつ、4&2輪の草レースにも精力的に参戦中。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も積極的に行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席したほか、東京都交通局のバスモニター役も務めた。大型第二種免許/けん引免許/大型二輪免許、2級小型船舶免許所有。日本自動車ジャーナリスト協会(A.J.A.J)理事。2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会・東京二輪車安全運転推進委員会指導員。日本イラストレーション協会(JILLA)監事。
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