【ホンダ N-VAN e: 新型試乗】軽バンとは思えない質感、EVの世界観を広げてくれる一台…島崎七生人
試乗会場での試乗車の選定は抽選方式で、もっともプレーンなタフホワイトIIIのL4があてがわれた。本当は他の色(ソニックグレー・パール、ボタニカルグリーン・パール、オータムイエロー・パール)で、色のニュアンスを味わいながら試乗と撮影……と行きたかったが、オトナなので(笑)、色と同じように潔く“白”で早速、試乗に繰り出す。すると、走り出した瞬間に色のことなどとうに忘れ、試乗に専念したのだった。
◆プロにも不安を抱かせない安定感
というのも、とにかく軽1BOX(しかも4ナンバー車)としては異例なほどの乗り味のよさ、走りの質感の高さをまず実感したから。もちろんそれはBEV化によるもので当然ではあるが、とにかく静かでパワーフィールも実に自然でスムースなのがいい。
ICE車の軽1BOXでは不可避な、登坂路やフル加速のエンジンの唸りがなく別世界。天井や前席足元のフロア部分が内装材で覆われるなどして、室内の静粛性のレベルも高い。「EVのトルクフルなトルク特性は、軽のガソリン車と較べるとリニアな加速感などは圧倒的な違い。加速性能もガソリン車の1.5リットルターボと同等。コンポーネント、パッケージングでもN-VAN e:との親和性が高い。1回乗るとやめられなくなるという話もよく聞く」とBEV完成車開発統括部・担当のチーフエンジニア掘田英智さんも言う。
また荷重(試乗車L4の最大積載量は300kg)に対応しつつエアボリュームの大きい13インチタイヤを指定空気圧前:300/後:350kPaで使いながら、路面からのショックがキチンと受け止め、ボディの揺れも想像以上の小ささ。快適でフラットな乗り味を実現している。ステアリングの座りもよく、切る/戻すの感触も安心感の高い操舵感としている。今回は終始1名乗車での試乗だったが、いわば空荷状態でも決してクルマがハネるような素振りはなく、チューニングし直されたという足回りのセッティングに懐の深さも感じられた。
バッテリー分の重量増は200kg弱だそうだが、床下に搭載することでクルマの重心高が下げられ、このこともクルマそのものの安定感に寄与している。「商用車に毎日乗るプロのドライバーは運転の上手い方が多い。そういう方々にも不安を与えないよう心がけた」(堀田さん)ともいう。
◆ガソリンの『N-VAN』当時とは働き方が変わった
一方で内装はコンテナをイメージして縦のビードが入ったトリムを使い徹底的にシンプルさにこだわりながらも、実に機能的に仕上げられている。「配送業の方はガソリンのN-VANの時とは働き方が変わっていて、仕事用のアプリを入れたスマホを使っていたり、ナビ用のタブレットも使っている。そういう使われ方を徹底的に調べた」(インテリアデザイン担当・大森啓雄さん)のだそう。なるほど実車をつぶさに観察すると、USBはタイプCとタイプAの2口が用意されていたり、アシスタント側に備わるクリップ状のパーツは、ケーブルを束ねたり、メモや伝票を差して使うのに便利そうだ。
ボタン式のシフトスイッチは張り出し量が抑えられ、ウォークスルー(時には助手席側のドアからの乗降もある)にも対応している。室内全体のシートアレンジ、フォーメーションはグレードごとに異なるが、ガソリンのN-VAN譲りのスマートな仕組みやピラーレス構造はそのままに、トリム類が驚くほどスッキリとしており、理屈抜きでどんな使い方にも対応してくれそう……と見ただけでも想像できる。試乗会場には各グレードの“使用例”も展示されていた。
またオプションで充電口(普通)に挿して使うコネクターも用意され、これを利用すれば最大1500Wまでの家電が使える。レジャーや緊急的なシーンで活用でき心強い。心強いといえば245kmの一充電走行距離は245kmもそうだ。ちなみにN-VAN e:の場合、ECONスイッチは、最後の走行距離をあと少し伸ばしたい時にオンにして使う考え方だ。
「ガソリン車同様にこのN-BAN e:も目下の実績はL4と半々というよりFUNグレードが若干多い売れ方になっている。想定以上に趣味ユースの方に受け入れられている」(商品ブランド部・商品企画課・岡田優大さん)という。ビジネスユースはもちろん、一般ユースでも軽のBEVの世界観を広げてくれるに違いない……そんな期待感を膨らませてくれるクルマだ。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★
島崎七生人|AJAJ会員/モータージャーナリスト
1958年・東京生まれ。大学卒業後、編集制作会社に9年余勤務。雑誌・単行本の編集/執筆/撮影を経験後、1991年よりフリーランスとして活動を開始。以来自動車専門誌ほか、ウェブなどで執筆活動を展開、現在に至る。便宜上ジャーナリストを名乗るも、一般ユーザーの視点でクルマと接し、レポートするスタンスをとっている。
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