きっかけはモリゾウ選手。トヨタのWRC挑戦は「新城ラリー」から始まった

11月18日(日)、WRC(世界ラリー選手権)の第13戦「ラリー・オーストラリア」にて「TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team」のヤリ-マティ・ラトバラ/ミーカ・アンティラ組が優勝、エサペッカ・ラッピ/ヤンネ・フェルム組が4位でフィニッシュし、チームはマニュファクチャラーズタイトルを獲得しました。1999年に活動を休止したトヨタが、2017年に再びWRCに参戦して2年目の快挙です。

実はこのWRC復帰のきっかけとなったのが、2012年に新城で行われた「TRDラリーチャレンジ(現 TGRラリーチャレンジ)」へのモリゾウ選手(豊田章男トヨタ自動車社長)の参戦だったそうです。モリゾウ選手は、社長就任前からレースへの参戦経験は豊富だったもののラリーは未経験。

2012年に当時の全日本ラリー選手権チャンピオン 勝田範彦選手、足立さやか選手のデモランや、ラリー中に選手自身が車を直して走り続けるレースでは見られないシーンに感動すると、その年の秋には自分自身でラリーに参戦します。その舞台が新城で、全日本ラリー選手権と併催されていたTRDラリーチャレンジだったのです。トップ画像の86は、そのときのもの。

2012年、TRDラリーチャレンジ(現 TGRラリーチャレンジ)に初参戦したモリゾウ選手。ほかの選手と盛り上がるシーンもしばしば見られた

そんな経緯もあってトヨタ自動車は、この年より新城ラリーへの支援をスタートします。そして、それにともない新城ラリーでは、トヨタにまつわる珍しい車のデモランが多く見られるようになりました。今回はそんな車のホンの一部をご紹介しましょう。

1980年代グループBマシンから発売前のC-HRまで

まずは2012/2013年にデモランを行った「セリカ ツインカムターボ(TA64型)」です。

かつてWRCがグループB規定の車両で競われていた時代のトヨタのワークスマシンで、1980年代にこのマシンでトヨタに多くの勝利をもたらしたビョルン・ワルデガルド氏が来日し、ドライバーを務めています。

特に2012年は、敷地内でのデモランにとどまらず、SS(スペシャルステージ)でも使用された林道の一部での走行や、夜間の走行もあり、その臨場感は格別でした。

デモランで使用されたマシンは1986年「アイボリーコーストラリー」での優勝車両
デモランで使用されたマシンは1986年「アイボリーコーストラリー」での優勝車両

2013年には、デモランを行なったセリカ ツインカムターボと同じ時代のグループBマシン「日産240RS」が全日本ラリーのオープンクラスに出場し、期せずして新城に2台のグループBマシンが揃いました。

ラリーのメイン会場が県営新城総合公園に移った2013年は、会場内の特設コースでのデモランとなった
ラリーのメイン会場が県営新城総合公園に移った2013年は、会場内の特設コースでのデモランとなった
こちらが日産240RS。デモランのトヨタセリカとともに、奇しくも2台のグループBマシンが新城に揃った
こちらが日産240RS。デモランのトヨタセリカとともに、奇しくも2台のグループBマシンが新城に揃った

TA64型セリカ ツインカムターボ登場の翌年、2014年には、なんとトヨタ86の4WDマシン「GR86x(クロス)」が登場。デモランのドライバーは、現在TOYOTA GAZOO Racing World Rally Teamの代表を務めるトミ・マキネン氏です。ラリー競技の運営には欠かせない00カーには、トヨタミライが使用され、こちらも話題になりました。初日にドライバーを務めたのは、なんとトヨタ自動車社長 豊田章男社長でした。

トミ・マキネンがドライブするトヨタ86の4WDマシン”GR86x(クロス)”
トミ・マキネンがドライブするトヨタ86の4WDマシン”GR86x(クロス)”
4度のWRCチャンピオンを獲得しているトミ・マキネンと、メイン会場に展示されていた三菱ランサーエボリューション。かつて何度もトヨタの勝利を阻んだコンビだ
4度のWRCチャンピオンを獲得しているトミ・マキネンと、メイン会場に展示されていた三菱ランサーエボリューション。かつて何度もトヨタの勝利を阻んだコンビだ
2014年、新城ラリーで00カーに使用されたのはトヨタ ミライ。初日には豊田章男トヨタ自動車社長がドライブするなどサプライズだらけの年だった
2014年、新城ラリーで00カーに使用されたのはトヨタ ミライ。初日には豊田章男トヨタ自動車社長がドライブするなどサプライズだらけの年だった

2015年には、新城総合公園の特設コースにニュルブルクリンク24時間レースに参戦したLFAが登場し、デモランを披露。さらに2016年には当時、発売前だったトヨタC-HRが、マッドガードなどを装着したラリー仕様で登場します。このC-HRは、よく見るとその後も日本では発売されずに現在にいたるマニュアル車でした。

2015年にはまさかのニュルブルクリンク24時間レース参戦マシン
2015年にはまさかのニュルブルクリンク24時間レース参戦マシン
2016年には発売前のトヨタ CH-R。なんとマニュアルトランスミッションのラリー仕様
2016年には発売前のトヨタ CH-R。なんとマニュアルトランスミッションのラリー仕様

そして2018年にはついに現在のWRCマシン「ヤリスWRC」がデモランを行い、会場を沸かせます。2017年には車両展示にとどまったヤリスWRCですが、今年は2017年にTOYOTA GAZOO Racing World Rally Teamで戦ったユホ・ハンニネン選手が来日し、ドライバーを務めました。

2018年はユホ・ハンニネン選手がドライブするヤリスWRCでのデモラン
2018年はユホ・ハンニネン選手がドライブするヤリスWRCでのデモラン

新城ラリーがなければトヨタのWRC参戦はなかった?

ラリーの世界で頂点を目指すトヨタは、WRC復帰わずか2年目で見事にマニュファクチャラーズタイトルを獲得しますが、そのきっかけは、ここ新城での社長の参戦だったのです。2018年の新城ラリー閉会式では、トヨタ自動車 副社長でGAZOO Racingカンパニー プレジデントでもある友山茂樹氏が、「この新城ラリーがなければトヨタ自動車のWRC参戦もなかった」と語っています。

今や世界中のWRCの会場でトヨタファンを目にしますが、その第一歩はあのTRDチャレンジであり、大会社の社長でありながら1人の自動車ファンとして、ラリー参戦に踏み切ったモリゾウ選手の走りを見てみたいと集まった新城のファンが、その原点なのかもしれません。

今や多くのトヨタファンを見かけるWRCの会場
今や多くのトヨタファンを見かけるWRCの会場
会場でのモリゾウ選手の人気は高いが、実はここからトヨタのWRC参戦がはじまっていた
会場でのモリゾウ選手の人気は高いが、実はここからトヨタのWRC参戦がはじまっていた

現在わが国では、2020年のWRC開催に向けた招致活動が行われていて、新城ラリーにも多くのFIA関係者が視察にきていました。2020年にはぜひ生のWRCをこの新城で観戦してみたいものです。

(取材・文・写真:高橋学 編集:木谷宗義+ノオト)

[ガズー編集部]

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