「いたわり」「さわやか」に「鹿」も!全国にある交通安全対策「ゾーン」

これまでも交通安全対策として「スクールゾーン」「シルバーゾーン」など、道路のある一定の範囲を指定して車両通行禁止や速度指定を設ける「ゾーン(区域)」がありました。2011年からは警視庁が「ゾーン30」を整備することを定め、全国にその動きが広がっています。

しかし、それだけではありません。交通事故の発生抑止に効果を見せている「ゾーン30」のほかにも全国にはさまざまなゾーンがあります。

そもそも「ゾーン30」って何?

警視庁が2011年から整備を進めている「ゾーン30」は、歩行者の安全を守るため通学路や子ども・老人が利用する公共施設などが含まれる、生活道路の区域に指定されるものです。歩行者の多い観光施設の付近などにも、指定されることがあります。

  • 「ゾーン30」の区域の始まりを表示する標識

    「ゾーン30」の区域の始まりを表示する標識

「ゾーン30」内では最高速度は時速30㎞とし、中央線をなくして路側帯を広げて道路自体を狭くする、路面を凸状にするハンプを設けるなど、クルマのスピードを抑えるための対策が取られています。当初、全国に3,000カ所の整備を目標としていましたが、2019年度末までに3,864カ所の整備が完了しています。

各地に存在する独自の「ゾーン」

「ゾーン30」は全国的に展開され定着しつつありますが、地域で独自に指定・整備されている「ゾーン」もいくつか存在します。たとえば、静岡県内には「いたわりゾーン」と呼ばれるゾーンがあります。

1999年にゾーン指定が始まった「いたわりゾーン」は、高齢者施設の周辺や高齢者が特に多く生活する地域で事故を防止するために設けられたもの。信号機の設置や交通規制とともに、高齢者にやさしい道路改良やドライバーへの注意喚起を行います。静岡県内でも、先に紹介した「ゾーン30」の整備により交通安全対策が進んではいますが、「いたわりゾーン」は特に高齢者が多い地域を指定しているそうです。

愛知県名古屋市内に設定されている「ユニバーサルゾーン」は、ユニバーサルデザインの見地に立って、障害者施設などの半径500mの地域に整備されるもの。障害の有無や年齢に関わらず安全に道路を通行できるよう、歩道を整備したり段差をなくしたり、視覚障害者誘導用ブロックの整備をするなどして、その区域の環境を整えています。

  • (写真:名古屋市役所健康福祉局障害福祉部障害企画課)

    (写真:名古屋市役所健康福祉局障害福祉部障害企画課)

この取り組みは1982年から始まっており、当初は「ハンディキャップゾーン」と呼ばれていたそう。2003年からは「ユニバーサルゾーン」と名称を変え、現在、名古屋市内の30地区に整備されています。

新潟県柏崎市にあるのが「さわやかゾーン」です。子どもや高齢者、障害者など交通弱者と呼ばれる人たちが安全に安心して通行できる地域を目指し、警察及び道路管理者において、1999年に指定されました。

市内のみなとまち海浜公園を含む海岸道路周辺や柏崎市立図書館ソフィアセンター付近、商店街周辺と、公園や温泉、学校、スポーツ施設、寺院などが集中し、多くの人たちが行き交う地域の広範囲で指定されています。これらの施設を利用する人たちや周辺の住民が安心して通行できるよう、速度制限や大型車両の通行規制を実施。信号機や街路灯の設置、視覚障害者誘導用ブロックの整備なども集中的に進め、現在に至っています。

今後の注目は「キッズゾーン」

2019年11月に内閣府・厚生労働省により新たに創設されたのが、「キッズゾーン」です。きっかけは、2019年5月に滋賀県大津市で起きた保育所外での移動中の園児が亡くなった事故をはじめとする、小さな子どもたちが巻き込まれる交通事故の発生にあります。

散歩などの園外活動を行う子どもたちを守る目的で、保育所などの半径約500mを設定範囲とし、一方通行、大型車両通行規制、路側帯の設置の強化などを推奨するとともに、ドライバーへの注意喚起をはかります。これまで設定されていた「スクールゾーン」は、登下校の時間帯のみが対象となっている場合もあり、園児たちが移動する日中にも安心して通行できる環境の整備を目指すものです。各自治体での設定の動きも続々と見られ、今後、より注目していきたいゾーンのひとつといえるでしょう。

守られるのは人間だけじゃない!「鹿ゾーン」

交通事故に遭うのは人間ばかりではありません。奈良県の奈良公園周辺では、観光シーズンを中心にクルマが増えるため渋滞も多く、それに伴い奈良公園の鹿が巻き込まれる交通事故が多発。なんと、年間で約100頭もの鹿が死亡していたそうです。そこで、国の天然記念物にも指定されている奈良公園の鹿の保護と、クルマの安全走行、渋滞の緩和のために設定されたのが、奈良公園の「鹿ゾーン」です。

2014年に始まったこの試みでは、鹿飛び出しの注意喚起看板の設置、公園内の道路への鹿のイラストをデザインしたカラー舗装などとともに、鹿の飛び出し防止柵も設置されました。その後の調査によると、鹿の死亡事故は減少傾向にあり、「鹿ゾーン」は鹿にもクルマにもやさしいゾーンとなっているようです。

子どもや高齢者、障害者などの安全を守るさまざまなゾーン。普段から安全運転を心がけるのはもちろんですが、運転中にこうした表示を見かけたら、より一層注意深く、歩行者を見守る気持ちを持ちたいものです。

<取材協力>
静岡県警察本部交通部交通規制課
名古屋市役所健康福祉局障害福祉部障害企画課
柏崎市市民活動支援課

(取材・文:わたなべひろみ 編集:木谷宗義+ノオト)

[ガズー編集部]

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