エアバッグ、ABS、3点シートベルト…今、当たり前の安全装備はいつからある?

シートベルトやエアバッグをはじめ、現代のクルマにはさまざまな安全装備が搭載されています。では、これらの安全装備は、いつから搭載されるようになったのでしょうか? 調べてみると、その多くがスウェーデンのボルボと、ドイツのメルセデス・ベンツから始まっていることがわかりました。今回は、この2社によって普及が進んだ安全装備と、その歴史を紹介します。

1959年:3点シートベルト(ボルボ)

クルマに乗って発進する前に、まず行うのがシートベルトを締めること。肩の部分1点と、腰の部分2点の計3点で支持することから「3点式シートベルト」と呼ばれるこの安全装備は、ボルボにいたエンジニア、ニルス・ボーリンが1958年に開発したもの。

もともとスウェーデンの航空技師だった彼は、緊急時にパイロットを機外に放出させる脱出シートを設計していましたが、エンジニアとしての関心は「減速時にいかに身体を安全に保持するか」に向いていました。そして、1958年にボルボに移った彼は、その理想を形にした3点式シートベルトを発案。それまでも「2点式シートベルト」や「Y字型シートベルト」は存在していましたが、この時に今日まで続く3点式シートベルトが誕生したのです。翌1959年にボルボ「P120」、「PV544」に装備され、市販車に採用されました。

  • 「PV544」は、「世界で初めて3点式シートベルトを標準装備」としてトヨタ博物館にも収蔵されている

ボルボは、この3点式シートベルトで特許を取得しますが、「安全は独占されるべきではない」と、誰もがこの技術の恩恵を受けられるよう、特許を無償公開。その結果3点式シートベルトは全世界に広まりました。ボルボは、この技術によって「これまでに100万人以上の命を救った」としています。

1959年:衝撃吸収ボディ・クラッシャブルゾーン(メルセデス・ベンツ)

クラッシャブルゾーンを設けることで、衝突時に車体を意図的に潰して衝撃を吸収する「衝突吸収ボディ」は、1951年にダイムラー・ベンツ(当時)から特許が申請され、翌年に認許されています。

車体を潰して衝突を吸収するという設計思想は、ベラ・バレニーという技術者が発案したもの。クラッシャブルゾーンの考えを取り入れた市販車は、セミモノコック構造を採用した1953年のメルセデス・ベンツ「180シリーズ(W120)」で登場。1959年には、現代の衝撃吸収ボディの基本となるフルモノコック構造の「220シリーズ(W111)」が、誕生しています。
同年、メルセデス・ベンツは実車を使用した衝突実験を開始。設計だけでなく、実証実験の面でも時代をリードしていたことがわかります。

  • 180シリーズ(W120)

なお、ベラ・バレニーは、ダイムラー・ベンツに在籍した34年間で安全に関する特許を約2500件も取得し、のちに「ミスター・セーフティ」と呼ばれ、ボルボの3点式シートベルトと同じように、特許を無償公開しています。

1972年:後ろ向きチャイルドシート(ボルボ)

現在、日本では6歳未満の乳幼児の乗車時に装着が義務付けられているチャイルドシート。お子さんのいる方なら、生後間もなくはチャイルドシートを「後ろ向き」に取り付けることをご存知でしょう。この「後ろ向きチャイルドシート(ベビーシート)」は、1972年、ボルボによって開発されました。それまでもチャイルドシートは存在しましたが、1960年代から子どもの安全性を研究していたボルボは、幼い子供は後ろ向きのシートに座らせることが特に重要という答えを見出したのです。

正面衝突の場合、前方を向いて座っているドライバーや同乗者の頭部は、非常に大きな力で前方へ投げ出されます。その頭をつなぎとめているのが首です。しかし、幼い子どもの首では、大きな力に耐えることができません。このような理由から、後ろ向きチャイルドシートが誕生しました。

また、スウェーデン最大の保険会社Folksamの行った調査によると、前向きチャイルドシートの場合、幼い子どもが死亡または重傷を負う確率は、後ろ向きチャイルドシートの場合の5倍も高いという結果が出ています。ボルボでは4歳ごろまで後ろ向きチャイルドシートを使用することを推奨しているそう。現在、乳児に後ろ向きチャイルドシートを使用することが当たり前となった背景には、こうした研究や調査があったのですね。

さらに、4歳以上の子どもの座高を上げ、シートベルトやヘッドレストが適正に機能することを目的とした「ブースタークッション(ジュニアシート)」も、1978年にボルボが初めて製品化。1990年には、ブースタークッションをシートに内蔵した、インテグレーテッド・ブースタークッションも開発・採用しています。

1978年:ABS「アンチロック・ブレーキ・システム」(メルセデス・ベンツ)

ハードなブレーキをした際にタイヤがロックするのを防ぐ「ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)」。タイヤがロックしてしまうと、ステアリングが効かなくなり制動距離も大幅に長くなります。タイヤがロックしなければ、減速しながらの回避操作をより安全に行うことが可能となり、ドライバーはロックを気にせずに躊躇なくブレーキを踏むことができます。

このABSは、メルセデス・ベンツとドイツの自動車部品メーカー・ボッシュと共同開発により誕生。1978年にメルセデス・ベンツ「Sクラス(W 116)」が、市販車で初めて採用しました。1992年には、メルセデス・ベンツ全車に標準装備され、今日では日本で生産される自動車には装着が義務付けられています。

1981年:SRSエアバック(メルセデス・ベンツ)

大きな衝撃を感知すると瞬時に膨らみ、衝撃から乗員を保護するSRSエアバック。シートベルトの補助装置として効果を発揮するこの装備は、メルセデス・ベンツが13年の歳月をかけて開発しました。1981年に登場した「Sクラス(W 126)」で初めて市販車に採用されて以来、その優位性が広く認められ、現在では装着が義務付けられるようになっています。
  • Sクラス(W126)

エアバッグは当初、運転席のみでしたが、1987年には助手席用エアバッグをやはりメルセデス・ベンツが世界で初めて装着。その後、サイドエアバッグやウインドウエアバッグなど、さまざまな種類のエアバッグが登場し、衝突時の乗員保護性能が大きく向上しました。

これらの安全装備がスタンダードとなった理由

ここまで紹介してきた安全装備の数々を作り出してきたメルセデス・ベンツとボルボは、昔から安全装備のパイオニアと称されています。もちろん、これらを開発してきたこと自体が大きな功績ですが、申請した特許を無償で公開したことが、自動車の安全性向上に大きく貢献したことは間違いありません。
これは「安全に関する技術は独占すべきでない」という、交通死亡事故ゼロを願う企業哲学が現れた形とも言えます。

今後もセンサーや映像解析技術などの発達により、さらにクルマの安全性は進化していくことでしょう。

取材・文:西川昇吾/取材協力・写真:メルセデス・ベンツ日本、ボルボ・カー・ジャパン/編集:木谷宗義+ノオト)

[ガズー編集部]

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