キッチンカーってどうやって造るの? 製作現場に行ってみた

近頃、さまざまな場所でおいしいものを提供することで大人気なのがキッチンカーです。全国各地で新たなキッチンカーが続々と登場していますが、これらのキッチンカーはどのように造られているのでしょうか。北海道札幌市でFRP(繊維強化プラスチック)を素材としてキッチンカーを製作している北新化工有限会社 代表取締役 栢谷隆司さんにお話を聞きました。

キッチンカーでの8年間の販売経験を生かして

――栢谷さんはどのようないきさつでキッチンカーを造り始めたのですか?

もともとこの工場では父がFRPの製造業を営んでおり、牛の配合飼料タンクから始まり、水産加工場で数の子を洗浄する水槽や鮭マスの養殖用の水槽などを造ってきました。私自身は、以前、関東で8年間ほどキッチンカーによる移動販売をしていました。関東方面でもFRP製のキッチンカーが増えてきていたことから、今後、需要が増えるのではないかと北海道に戻り、これまでの工場の業務とともにケータリング事業部としてキッチンカーの製作を開始しました。

私にはキッチンカーの経営のノウハウがありますので、ただ、キッチンカーを造って引き渡して終わりではなく、メンテナンスや車検、出店場所の紹介、故障した場合には替わりのキッチンカーのレンタル、もし営業を辞めるのであれば車両の買取の手配まで、トータルで支えていけたらと考えています。弊社のキッチンカー以外も含めて、北海道のキッチンカーを盛り上げていくためのサポートをしていけたらというのが目標です。

――これまでにどのくらいの台数を造ってきましたか?

2015年から始めて、これまでに40台ほどです。昨年2020年はかなり多かったですね。今年もすでに7台待ちの状況です。

パネル式の型で流線形のFRP車体を組み上げる

――車体のタイプは何種類あるのですか?

軽トラックタイプと1.5tトラックタイプとがありまして、現在、1tトラックタイプの型を造っているところです。

――型を造るとは?

FRP製のキッチンカーの車体はパネル式の型をまず造り、そこにFRPを貼りこんでいって組み上げていきます。実際に造っているところを見に行きましょう。

まず、型となるパネルにゲルコートを塗り、固まったらFRPガラスマットを貼り、その上から樹脂を塗ります。最初のゲルコートは車体の表面となる部分で、繊維が表から見えないようにするために塗るのですが、削りやすく仕上げの塗料も乗りやすい素材となっています。

  • 車体後方部分のパネルにゲルコートを塗っているところ。真ん中に長方形で開けているのはドアが取り付けられる開口部分

  • ゲルコートの上に貼りこむFRPガラスマット

  • 側面、天井、底面、頭部とバラバラのパネル。奥にあるのが頭部のパネル

  • 扉部分のパネルに貼ったガラスマットが固まったところ

すべて貼り終わったら、車体の形に組み上げて、パネル同士のつなぎ目にもFRPを貼り、固まったところでパネルをはがすとボックス本体ができあがります。キッチンカーはアルミのボディーで角ばった印象のものが多いのですが、FRPは流線形のデザインを造形しやすいため、丸みを帯びたかわいいキッチンカーを造ることができます。

  • 型パネルをはずしたところ。

  • バリ(ガラスマットのはみ出た部分)はサンドペーパーで取って滑らかに

内部は木材とアルミの角パイプで補強し、壁には結露を防ぐために3cm厚さの断熱材とアルミ複合板を、床は板を敷いた上にフロアマットを貼って仕上げていきます。強度を保ちつつ、できる限りの軽量化を心がけています。この後、冷蔵庫なども設置しますし、営業が始まると食材などの荷物も積みこみますのでかなりの重みになります。全体に重くなってしまうとクルマに負担がかかりますし、坂道などの移動が大変ですから。

  • カウンターの開口部から内部を見る。仕上げはこれから

積み込む機材は何を販売するかによってカスタマイズ

――内部の設備は決まっているのですか?

販売用のカウンター、2層シンク、換気扇、照明、外部とつなぐ電源プラグにコンセントの差込口、給水タンク・排水タンクなどがまずは標準装備です。いわゆる、保健所申請のときに必要な設備が中心ですね。そこから、冷蔵庫、冷凍庫、コンロ、戸棚などお客さまが販売したいものによってカスタマイズしていきます。レイアウトも自由に変えることができます。

  • 1台1台カスタマイズされる車内

  • 2層シンク、給水タンク・排水タンクは必須アイテム

――店舗の厨房を造るのと一緒なんですね。

基本的には一緒です。しかし、保健所の許可の関係で、キッチンカーの中では調理の2工程しかできないことになっています。例えば、焼いて盛りつけるとか、揚げてソースをかけるとかですね。ですから、仕込み準備を別の厨房でしっかりして、いかに手際よく仕上げをして売るかというのが大切になりますので、その流れを効率的にできる設備をそろえる必要があります。

キッチンカーばかりでなく移動店舗として広がる可能性

――キッチンカーの車検はどのように受けるのですか?

通常、軽トラックとして車検が通るのは高さ2mまでです。キッチンカーにボックスを載せると高さは2m45cmになってしまいます。そこで、車検のときはボックスを下ろして軽トラックとして車検に出すのが方法の一つです。

――このボックスは下ろすことができるのですか?

下ろせます。荷台に4点ボルトで止めているだけですから。ただし、ボックスの中から、シンクや冷蔵庫など機材を外に出して軽い状態にしてから吊り上げて下ろさなければなりません。そして、車検が終わったら、また設置して機材を入れ固定してという作業がありますから、非常に手間がかかります。

もう一つは、加工車として構造変更をし、8ナンバーとして登録をする方法です。初期費用や重量税などでコストはかかりますが、そのまま車検を受けることができます。車検は2年に1回ありますし、ボックスの上げ下ろしにも手間と費用がかかりますので、お客さまにはどちらがいいか選んでもらっています。

  • 販売カウンター部分の上部とサイドには横断幕やタペストリーを掲げるための伸縮物干しざおを通す部品も

――今後はどのように展開していきたいですか?

やはり、せっかくキッチンカーのオーナーになったからには、繁盛してもらいたいですね。ですから、営業をする上でのサポートにも力を入れていきたいと思っています。それから、このFRP製のボックスは移動する部屋という考え方でいろいろな形で利用することができます。移動マッサージカーとかネイルサロンカーとか。スマートフォンの販売を移動で行ってもいいかもしれません。さまざまな○○カーのお店が並ぶ可能性を感じていますね。

キッチンカーばかりではなく、さまざまな移動店舗がたくさん並ぶ様子を想像するとワクワクしてきます。特にお店の少ない地域に、必要なものを届けられる店舗として多様な○○カーが増えると暮らしが豊かになりそうです。キッチンカーと新たな移動店舗の未来が楽しみです。

<取材協力>
北新化工有限会社
https://hokushincatering.jp
https://hokushinkakou.jp

(取材・文・写真:わたなべひろみ/編集:奥村みよ+ノオト)

[ガズー編集部]

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