発祥は日本!? 「ウルトラスエード」の開発会社にその歴史を聞いてみた
本革(レザー)とともに高級車のシート素材に用いられる、「ウルトラスエード」。その名前から海外発祥の素材に思われがちですが、実は日本の東レが開発した素材です。今回はこのウルトラスエードにフォーカスして、素材の特徴や開発の背景などを探ってみました。お話を伺ったのは、東レ株式会社 ウルトラスエード事業部長 安東克彦さんです。
――そもそも、ウルトラスエードはどういった素材なのでしょうか?
1970年に弊社で開発したスエードのような柔らかな手触りの起毛を持たせた人工皮革です。
素材の特徴としては、軽量ながら優れた耐久性や発色性、適度な通気性といった機能性の高さと、水拭きでも汚れが落ちやすいというメンテナンス性を持ち合わせていることにあります。
――もともと自動車用の素材として開発したのでしょうか?
当初は自動車の内装用ではなく、ファッション用の素材として開発しました。そのため、この素材の初登場の場として選ばれたのはパリコレ(パリ・コレクション)でした。ここで、「アダムとイヴのイチジクの葉以来、世に出たもっとも画期的な素材」と絶賛をいただき、1970年にアメリカで『ウルトラスエード』の名前で販売します。
このウルトラスエードは、ニューヨークのトップデザイナーたちに採用され、その服をハリウッドセレブたちが愛用したことで、注目されるようになりました。日本では、同じころに『エクセーヌ』という名前で発売しました。
――ウルトラスエードとアルカンターラは、同じものなのでしょうか?
ウルトラスエードとエクセーヌ、アルカンターラの3つは基本的な構造は同じ人工皮革ですが、それぞれが市場のニーズに合わせて長い年月をかけて個別に進化を遂げたため、現在では風合いや機能性に大きな違いがあります。販売当初は、イタリアで生産・販売するものをアルカンターラ、日本で生産・販売するものをエクセーヌ、日本で生産してアメリカで販売するものをウルトラスエードと呼んでいました。
2002年からは、自動車用途の製品をアルカンターラとしていましたが、2013年からは日本の技術による多彩な商品バリエーションを特徴とするウルトラスエード、機能性とイタリアの感性の融合を特徴とするアルカンターラとして、それぞれのアイデンティを明確に分けて展開するブランド戦略を取ってきました。
――人工皮革が自動車の内装に使われ始めたのはいつごろですか?
初めて量産車の自動車内装に使われたのは、1988年に改良が行われたイタリアのセダン、ランチア「テーマ」でした。
自動車での採用に時間がかかったのは、自動車内装用途に求められる耐久性が非常に高く、クリアすることが困難だったためです。自動車内装に採用するには、独特のソフトな肌触りを実現しながら紫外線や摩擦、発色に対しての耐久性を上げる必要がありました。テーマは内装に手が込んでいて、例えばイタリアの高級ファッションブランドである「エルメネジルド・ゼニア」の生地も採用していました。
その後、日本国内では1989年の日産「セフィーロ」等の当時の人気車種に採用されたことにより、自動車シート材におけるスエード調人工皮革の認知度が上がりました。なお、こちらはエクセーヌのブランドでの採用となりました。以降、ヨーロッパ車や日本車を中心に、自動車内装での採用が広がっていきました。
――自動車への採用から30年以上が経ちますが、それからの変化や進化を教えてください。
当初、ウルトラスエードの自動車内装での採用はシートが中心だったのですが、日本の技術力で薄くしたり、成形性を向上させたりしてきました。これによりインストルメントパネルや天井にも使われるようになりました。また、シート用素材については昔に比べて耐久性も向上しています。見た目の部分に関して言えば、ウルトラスエードを形成する糸をより細くすることで、今までなかった光沢や質感を高めたり、パンチング加工やレーザー加工を施すことにより、生地のデザイン表現の幅を広げたりしています。
自動車内装素材としてより身近な存在に
当初は高級車向けの素材として使われ始めたウルトラスエードは、軽量で機能性が高く、また植物由来の素材を使用したタイプも展開するなど環境への配慮という面もあり、EV(電気自動車)への採用例も増えているそう。環境への配慮やサステナビリティという観点から、さらにウルトラスエードへの注目度は高まっていきそうです。
(取材・文:西川昇吾/写真:西川昇吾、トヨタ自動車、レクサス、ランチア、日産自動車/編集:木谷宗義+ノオト)
[ガズー編集部]
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