いくつ知っている?! タクシー業界の専門用語を調査してみた!

ある職業の業界内や同業者の間で使われる業界用語。一般の人には通じない言葉や名称の由来が気になる用語が多いですよね。今回は私たちの生活を支えているタクシーの業界用語をリサーチしました。

取材をしたのは、名古屋市内を中心に約400台のタクシーを走らせる宝グループ。タクシー事業部・伊藤さん、乗務員研修やドライバーの管理業務も行う現役タクシードライバーの池田さんとグループ広報・兼氏さんにお話を伺いました。

「流し」専門のタクシードライバー=「マグロ」!?

1951年に創業し、本社を名古屋市熱田区に構える宝交通株式会社。マンション関連部門、自動車関連部門、ホテル・レジャー部門の3部門で構成されている宝グループの中で、宝タクシーは基幹的な役割を担っています。
名古屋市内で5カ所の営業所と約400台のタクシーを有しており、名古屋の人を中心に利用されているタクシー会社です。

同社のホームページに掲載されている業界用語をタクシー業界の一例として、宝タクシーで使われている言葉、かつて使っていた用語を教えてもらいました。まずは、タクシーの営業スタイルにまつわる用語です。

『流し(ながし)』
走行してお客さまを探す方法

『付け待ち(つけまち)』
駅、ホテル、公共施設などに設置されたタクシー乗り場で客待ちする状態。「駅付け」と同じ意味

宝タクシーで好成績をあげているのは「付け待ち」ではなく、流し営業をしているドライバー。どのような方法で営業するかはドライバー次第なのだとか。

「営業方法は、ドライバー自身が決めています。売上をきちんと上げたいドライバーは流しを中心に、時間帯や曜日などを踏まえて付け待ちをしています。

それに加えて、最近ではアプリによる配車が好調です。“GO”という配車サービスアプリがあり、そのアプリを通じた配車の仕事がドライバーの売上の主軸になりつつあります。そのため、付け待ちするドライバーは減っている状態です」(伊藤さん)

稼ぐドライバーになればなるほど、独自の営業ルートを計画して、周辺のイベントなど多くの情報を入手して稼働しているのだとか。それぞれの営業スタイルがあるのも興味深いポイントです。

「流し専門のドライバーを“マグロ”と呼んでいました。一説によれば、マグロは泳いでいないと窒息することから、流し専門のドライバーをマグロに見立ててこのように呼ぶようになったようです。

名古屋市内だと錦地区、岐阜市内だと柳ケ瀬地区といった繁華街をグルグル回り続けているドライバーのことを“回遊魚”と呼ぶこともありました」(ドライバー・池田さん)

ちなみに、タクシー営業の売上高に「水揚げ」という用語があるのだとか。これはベテランのドライバーの間では今でも使っているそうです。

「一昔前は、一匹狼のような営業スタイルの人が多かったのですが、最近では目標の近いドライバー同士でチームを組んで情報を共有したり、お客さまの対応をしたり、新しい戦略で営業成績を伸ばしています。時代とともに営業スタイルも変化しています」(伊藤さん)

「倒す」「圏外」など、タクシー営業にまつわるルールと用語

続いては、タクシーのクルマの仕組みや営業ルールにまつわる用語についてお聞きしました。

『行灯(あんどん)』
タクシーの車上に付いているサイン。タクシーには行灯の装着義務があり、これがついていないと営業はできない。宝タクシーは横長の行灯

『倒す(たおす)』
お客さまを乗せた回数のこと。昔のメーターはお客さまを乗せた際に倒すタイプだったため、そこからきている言葉だと考えられている
使用例:「今日は○○本しか倒せなかった」

『着発(ちゃくはつ)』
お客さまを降ろした地点で、また別のお客さまに乗ってもらえたときに使う言葉
使用例:「今日は着発が2回あった」

『現着(げんちゃく)』
現場到着の略。お客さまに呼ばれた場所に到着した際は、「いま現着しました」というように無線配車センターに一報を入れる

『圏外(けんがい)』
タクシー会社には営業圏が決められおり、圏外の営業は禁止。ただし、乗車される場所、または降車される地域のどちらかが営業圏内であればOKとされている

上記のように営業圏のルールがあるのをご存知でしょうか? タクシー会社の営業は「営業区域」と呼ばれる指定された区域内に限られており、この外で営業することは禁じられています。

宝タクシーの営業圏である「名古屋タクシー交通圏」の場合は、例えば名古屋駅から乗車し、岐阜市まで輸送する場合は問題ありません。しかし、営業圏外の岐阜市内で乗せたお客さまを岐阜県内の場所に輸送するのはNGです。

タクシーの乗客を表す業界用語と時代の変化

次に、タクシーに乗車するお客さまに対する用語についてです。業界用語に対する変化を通じて、タクシー業界の状況が垣間見えます。

『コロ』
近距離のお客さまの呼称。一説によれば「タイヤがコロコロと動いたくらいのお客さま」という意味なのだとか。もちろん、近距離でタクシーを利用されるお客さまも大歓迎とのこと。
例:「今日は、コロが多かった」

『オバケ』
ドライバーがビックリするくらいの長距離(メーター料金で10,000円超えが目安)のお客さまのこと

宝タクシーの皆さんもなぜ長距離のお客さまを「オバケ」と呼ぶようになったのか、その由来は定かではないとのこと。しかし、これらの業界用語は使うことが少なくなっているそうです。

「弊社の考え方としては、この他の業界用語の中にはお客さまの例えとして相応しくない表現もあり、業界用語自体が時代遅れになっている部分もあると感じています」(伊藤さん)

ドライブレコーダーの搭載で生まれた変化とは

現在はすべてのタクシーの車内にドライブレコーダーが搭載され、乗車状況は映像で記録されています。これが、さまざまな業務改善につながっているそうです。

過去には、目的地に着いた際に乗務員が「うっかりしてメーターを倒すのを忘れていました。○○円でいいですよ」と乗客に伝え、頂いた料金を着服する不正行為も発生していたことも。これらの行為は、業界用語で「エントツ」と呼ばれていたそうです。

宝タクシーにおいても、以前はこれらの不正を防ぐためにドライバーが乗務日の営業記録をつける「日報」を管理者がチェックし、ドライバー本人に確認していたそうです。現在は、その役割をドライブレコーダーが果たしてくれています。

ちなみに、お客さまからのクレームについてもドライブレコーダーで確認できるようになり、その対応が変わりつつあるようです。

「現在も“いつもより運賃が高い”、“わざと遠回りをした”といった言葉を投げかけられることはありますが、ドライブレコーダーがあるため、お客さまのおっしゃっている内容が事実かどうかは一目瞭然です。そういう意味では、この映像がドライバーを守ることにもつながっています」(伊藤さん)

また、ドライブレコーダーだけではなく配車アプリなど業界のIT化が進み、乗客の声が届きやすくなっている側面もあるようです。

「お客さまからの声が配車アプリを通じて届くようになり、社内の上層部にまできちんと共有されるようになりました。良い感想はドライバーたちのモチベーションにつながり、適切に評価されるようにもなりました。逆にお客さまからのご意見に対しては、ドライブレコーダーの映像をドライバー本人と検証した上で研修や教育に生かしています。会社全体で接客サービスの質の向上に取り組んでいます」(兼氏さん)

若い世代のドライバー採用が急増。宝タクシーの現状とは

業界用語を通じて、タクシードライバーの営業スタイルやルールについて知ることができました。
しかし現状としては、業界用語が馴染みの薄いものになりつつあるとのこと。その背景とは?

「当社のホームページに業界用語を掲載したのは、ずいぶん前のことです。最近では、未経験者を多く採用し、新たに入社するドライバーの大半が20代、30代です。

ドライバーの年齢層の若年化が進み、業界用語を掲載した当時とは社員構成がガラリと変わっています。そういった背景からタクシーの業界用語を使う風習がなくなりつつあります」(伊藤さん)

数年前までは、50代、60代のセカンドキャリアとしての採用がほとんどだった宝タクシー。しかし、新卒採用や社員の待遇面に力を入れてタクシードライバーの若年化に成功しているそうです。

「社会貢献がしたい、お年寄りの役に立ちたいなどの思いで入社する人も多いです。働き方も自分次第、休みが自由に取りやすいのも魅力に感じられるのではないでしょうか。女性の入社も増えています。今年の採用者も、半分近くは女性です」(兼氏さん)

配車アプリやドライブレコーダー搭載など業務のIT化に加えて、ドライバーの多様化が進む宝タクシー。また、コロナ禍をきっかけにドラッグストアと連携した買い物代行サービスや、名古屋の人も知らない地元の魅力を案内する「名古屋トリビア観光タクシー」など、さまざまなサービスを手掛け、進化し続けています。

皆さんの知っているタクシー業界用語はありましたか? タクシーの業界用語を調査すると、由来やルールの学びだけではなく、時代の流れとともに進化し続けるタクシー業界の側面を知ることができました。

(取材・文:笹田理恵/写真提供:宝交通株式会社/編集:奥村みよ+ノオト)

[ガズー編集部]

<取材協力>
宝交通株式会社

コラムトップ