【折原弘之の目】富士SUPER TEC24時間耐久に見るスーパー耐久の「脱」偉大なる草レース
5年目を迎えた富士24時間耐久
かつて「偉大なる草レース」と呼ばれたスーパー耐久シリーズ。 以前のスーパー耐久シリーズは、チューニングショップが市販車をレースに耐えうる 車に仕上げ、レースを行っていた。
また、レース自体の雰囲気もどこか呑気で緩いものだった。それはレース自体の格式が、全日本格式ではないことにも起因していたのかもしれない。
いずれにしてもジェントルマンドライバー(プロではないドライバーの総称)が知り合いのショップに車の製作を依頼し、レースを楽しむ参加型のレースだった。そんな草野球的なレースが、ここ数年で大きく変貌を遂げている。
ST-Qクラスの新設で大きく変貌を遂げたスーパー耐久
スーパー耐久は細かくクラス分けがされている。
GT-3(スーパーGTで言う300クラスのマシン)が出走する「ST-Xクラス」。生粋のレーシングマシンを走らせるために、コーチ的な役割でプロドライバーの必要性が出てきた。とはいえGT-3車両自体のエントリーが少なかったため、プロドライバーの出場はドライバー全体の1割にも達していなかった。
ところが「ST-TCRクラス」や「ST-Z」と言ったレース専用車両のクラスが新設されるようになると、レース車両の増加に伴いプロドライバーの出場比率も比例して増えてきた。この頃から次第に参加型のレースから、観客を集められるイベントへと成長し始めた。そしてST-Qクラスが新たに設定された事で、レース自体の性格がガラリと変貌することになった。
カーボンニュートラルの選択肢、そのチャレンジの場としてST-Qクラスに参戦
何度かご紹介しているように、ST-Qクラスは改造範囲を設けていない。そのため現在では、カーボンニュートラル車両の開発の場となっている。新設された当初はORC Rookie RacingのGRヤリスだけだったが、現在では多くのメーカーがカーボンニュートラルマシンの開発を始めた。
そして先日行われた富士SUPER TEC24時間レースには、ORC ROOKIE RacingがカローラスポーツとTOYOTA GR86の2台をエントリー。NISMOとMax RacingがNissan Z Racing Conceptの2台でエントリー。MATZDA SPIRIT RACINGはMAZDA 2で、Team SDA EngineeringはSUBARU BRZでカーボンニュートラル車両にトライしてきた。
ガソリンの代わりに、水素やカーボンニュートラル燃料を使用するマシンは、メーカー以外が手を出す領域ではない。つまり24時間耐久には4メーカーがワークスマシンとして、エントリーしてきたわけだ。全く新しいエンジンと燃料を使用したトライの為、バックアップ体制も重要になってくる。
かつてはマシンを運ぶラダー車も、ほとんどが外装のないスケルトンの車が多かった。ところが24時間耐久のパドックにはNISMOやGR Racing、HRCと書かれた大きなトレーラーが軒を連ねている。
まさに「走る実験室」といった表現がしっくりとくる光景となった。もちろん変わったのは、パドックの裏側だけではない。メーカーの進出と共に、国内のトップドライバーが続々と出場してきた。先日の富士24時間耐久には、ロニー・クインタレッリや石浦宏明を筆頭に、GT500、300のトップドライバーたちがこぞって出場している。
豊田章男氏が、「10年後のレースシーンに、内燃機関を使ったレーシングマシンを残したい」「エキゾーストサウンドのあるレースを残していきたい」と、呼応した。その結果、スーパー耐久シリーズは国内トップレベルのレースへと変貌したのだ。
“参加するレース”から“見るに値するトップカテゴリー”になったと言っても過言ではないだろう。24時間レースは観る側にとってイベント性も高く、キャンプ流行りも後押しする形でメジャーイベントとなるレースになった。技術的面では、新技術の開発を掲げ、メーカーが参入することで国内最高峰のレースになったとも言えるのではないだろうか。
メーカーの参入やトップドライバーの出場による相乗効果で、スーパー耐久シリーズは過去に類を見ないほどの人気レースとなった。それ自体は素晴らしい事だし、未来のモータースポーツにとっても有意義なトライだ。
ただ少し気になるのは、昔から出場しているエントラント達と新規参入を目指すジェントルマンドライバーだ。レースのレベルがグンと上がってしまったため、エントリーレースとしての役割が薄くなっている。しかもスーパー耐久に出場しているマシンの性能差、ドライバーのレベル差も大きい。
トップドライバーの乗るGT3車両と、ジェントルマンドライバーが乗るヴィッツ、フィットや86 が混走するのだからそのスピード差は言うまでも無いだろう。エントリーカテゴリーだった頃とは違い、今後スーパー耐久に出場するジェントルマンドライバーはワンメイクレースなどで経験を積む必要がありそうだ。
(文、写真:折原弘之)
折原弘之 プロカメラマン
自転車、バイク、クルマなどレース、ほかにもスポーツに関わるものを対象に撮影活動を行っている。MotoGP、 F1の撮影で活躍し、国内の主なレースも活動の場としており、スーパー耐久も撮影の場として活動している。また、レース記事だけでなく、自ら企画取材して記事を執筆するなどライティングも行っている。
作品は、こちらのウェブで公開中
https://www.hiroyukiorihara.com/
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