第2回 ダウンサイジングってなに? | プロフェッサー由美の自動車トレンド講座
自動車って、乗るのは楽しいけど最新技術はムズカシイ?
そんなアナタも大丈夫。どんな疑問にもプロフェッサー吉田由美が答えちゃいます!
第2回 ダウンサイジングってなに?
オーリスが注目を集めるのはなぜ? ターボエンジンが“エコ”って本当?
★今回のテーマ★
第2回のお題は、「ダウンサイジング」。なんとなく聞いたことのある言葉ですよね。文字通り「小型化」を意味しますが、自動車の分野では、大きなクルマから小さなクルマに乗り換える動きについて使うこともあります。でも、今回取り上げるのはエンジンのダウンサイジング。排気量は小さくなっているのにパワーはアップ、それなのに燃費はよくなって一石二鳥という、夢のような話なのです!
ヨーロッパで新世代ターボが主流になった理由とは……?
今年の4月にマイナーチェンジされたトヨタ・オーリスは、クルマ業界で話題を集めました。外観が大きく変わったわけではありません。話題の的は、新開発のエンジン。1.2リッター直噴ターボエンジンを搭載したグレードが登場しました!
- 新型の1.2リッターターボエンジンを搭載したトヨタ・オーリス120T。1.5リッター自然吸気モデルを、燃費でも、最高出力でも、最大トルクでも上回っています。恐るべしダウンサイジングターボ!
1.2リッターエンジンのほかに、1.5リッターと1.8リッターエンジンがありますが、1.2リッターエンジンだと当然のことですが、0.3~0.6リッターも排気量は小さいです。普通、排気量の大きいエンジンの方がパワーも出るし、なんだか“エラい”感じがしますよね? 逆に、排気量の小さなエンジンだと格下な感じがしたり、力不足という感じがしたりするかもしれませんが、オーリスの1.2リッター、それは逆。燃費がいいのはもちろんですが、パワーは1.5リッター以上、トルクにいたっては、排気量が1.5倍もある1.8リッターエンジンさえ超えています。これを指して、トヨタでは「1.8リッター並みの走りと1.5リッター並みの低燃費を実現した」と説明しています。
とは言いつつ、トヨタがこうしたターボエンジンを採用したのはオーリスが初めてではありません。トヨタブランドのクルマではありませんが、昨年7月に発売されたレクサスNXこそが、トヨタグループの新世代ターボを搭載した初のモデルでした。ハイブリッド車に加え、2リッター直噴ターボエンジン搭載車もラインナップされています。
- 昨年7月に登場したレクサスNXには、2リッター直噴ターボエンジンを搭載した200tというグレードが存在します。
オーリスの1.2リッターターボやNXの2リッターターボが注目されているのは、これがヨーロッパでは王道のエンジンだということもあります。フォルクスワーゲンのほかにも、ルノー、プジョーなどが採用していて、欧州ではもはや主流になっています。こうしたエンジンは「ダウンサイジングターボ」と呼ばれています。
2005年にフォルクスワーゲンがゴルフに採用した1.4 TSIエンジンが、新世代ターボの草分け的存在です。これはターボチャージャーとスーパーチャージャーの両方を使っていましたが、すぐにターボだけのバージョンも登場しました。さらに、より排気量の小さな1.2リッターターボエンジンも加わって、フォルクスワーゲンのエンジンはすっかりダウンサイジングターボが主流になっています。
- ターボ車の草分け的存在であるBMW 2002ターボ(1973)と、新世代ターボの先駆けとして登場したフォルクスワーゲン・ゴルフGT TSI(2006)。30年余りで、ターボエンジンのあり方はずいぶんと変わりました……。
他メーカーでも同じコンセプトのターボエンジンが作られるようになって、ヨーロッパではダウンサイジングターボが花盛り。ディーゼルエンジンと並んで、エコなエンジンの代表的存在になっています。
でも、ターボエンジンというと、エコというよりはむしろハイパワーでスポーティーというイメージでしたよね。クルマ好きにとって永遠のアイドルであるポルシェ911ターボは、パワフルな高性能スポーツカーですし、日本でも1980年代には、ターボ車のパワー競争が繰り広げられていました。
しかし、あの頃のターボには弱点がありました。まずは、燃費が悪いこと。パワーを出すために、ガソリンをバンバン燃やしていたんです。そして、“どっかんターボ”と呼ばれる問題もありましたね。低回転のうちはおとなしいのに、回転が上がるといきなりパワーが爆発的に上がるので、とても運転しにくかった! ターボチャージャーは、排ガスの勢いを利用してタービンを回し、その力でエンジンに採り入れる空気を圧縮する仕組みです。だから、タービンが勢いよく回り始めないと効果が発揮できません。アクセルを踏んでから実際にパワーが出るまでの時間を「ターボラグ」といって、これを短くするのにみんな苦労していました。
新世代ターボは、あの頃のターボとは発想が全然違います。ピークパワーを求めるのではなくて、全回転域で効率を向上させようとしているのです。複数のターボチャージャーを積んでみたり、ウェイストゲートバルブを電動化したり、可変バルブ機構と組み合わせてみたり……技術の進歩によってターボの利きを細やかにコントロールできるようになりました。“どっかんターボ”問題も今や昔の話。タービンの小径化などで低回転域からターボの効果が発揮され、1000回転を超えたあたりからぐいぐいとトルクが出るようになりました。しかもフラットトルクだから、運転もしやすい! ターボラグという言葉は、すっかり死語になってしまいましたね。
燃費がよくって力強くて運転もしやすい。ダウンサイジングターボは、今注目のエンジン技術なのです。
- お台場から芝公園までレクサスNX 200tでドライブ。2リッター4気筒というコンパクトなエンジンが、プレミアムSUVのボディーをぐいぐい加速させます。
★用語解説★
スーパーチャージャー
エンジンの回転を直接利用して、空気を圧縮する装置のこと。「エンジンに高圧の空気を送り込む」という効果はターボチャージャーも同じですが、ターボチャージャーは風車みたいに排気の流れを利用して圧縮機を回しています。
可変バルブ機構
エンジンに採り入れる空気の量やタイミング、燃焼ガスを排出するタイミングは、バルブの開閉によって決まります。可変バルブ機構は、エンジンの回転数に応じてバルブ開閉の動きを変化させる機構のこと。高効率のエンジンには欠かせない技術です。
ウェイストゲートバルブ
ターボエンジンでは加給圧が高まるとパワーが向上しますが、限界を超えるとタービンやエンジンが壊れてしまいます。タービンの前に設けられたウェイストゲートバルブを開閉することで、過剰な圧力を逃がすことができます。
フラットトルク
オーリスのスペック表には、最大トルクは185N・m(18.9kgf・m)/1500~4000r.p.m.と表記されています。このように、幅広い回転域で大きなトルクを保つエンジンの特性を、フラットトルクといいます。トルクに急激な変動がないので、運転しやすいんですよ。
★ここがポイント★
エンジンのダウンサイジングは排気量だけではありません。最近のトレンドは、レスシリンダー。つまり、気筒数を減らすこと。
アウディA1やフォード・フィエスタには1リッター3気筒直噴ターボエンジンが搭載されているし、BMWも2シリーズやMINIに3気筒エンジンを搭載しています。
フィアットには、さらに過激な0.9リッター2気筒ツインエアエンジンがありますね。忘れてはいけないのが、日本の軽自動車。0.66リッター3気筒ターボは、世界的に見ても優秀なエンジンです。
昔は排気量が大きくて、シリンダーの数が多いエンジンほどエラいと思われていたけど、今ドキは無駄に大きいのはむしろカッコ悪い。小さくても効率の高いダウンサイジングが時代の流れだし、スマートですよね。
(文=吉田由美/写真=郡大二郎)
[ガズー編集部]
これまでの連載
第1回 EV、PHV、FCV?
第2回 ダウンサイジングってなに?
第3回 自動運転は本当に実現するの?
第4回 トレンドカラーってどう決まる?
第5回 スポーツカー復活の流れはホンモノ?
第6回 フロントグリルはもっと大きくなる?
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