第5回 スポーツカー復活の流れはホンモノ? | プロフェッサー由美の自動車トレンド講座
自動車って、乗るのは楽しいけど最新技術はムズカシイ?そんなアナタでも大丈夫。どんな疑問にもプロフェッサー吉田由美がお答えします!
第5回 スポーツカー復活の流れはホンモノ?
昔はスポーツカーが憧れだった? これで“若者のクルマ離れ”を止められる?
★今回のテーマ★
今年5月に発売された新型マツダ・ロードスターが大評判ですね! 10年ぶりのフルモデルチェンジで、待ち焦がれていた人も多いのではないでしょうか?ここ1年ほどで、ダイハツ・コペン、ホンダS660と2台の軽オープンスポーツが立て続けに発売されていますし、ちょっと流れが変わってきたのかもしれません。今、“スポーツカー復活”の新しいトレンドが生まれているのかもしれませんね。
マツダ・ロードスターやトヨタ86が運転する楽しさをよみがえらせる?
トヨタ86とスバルBRZが発売されたのは2012年のこと。トヨタの直噴技術とスバルの水平対向エンジンを組み合わせた、低重心のFRスポーツカー。価格も抑えられていて、誰でも気軽にクルマを操る楽しみを味わえることがコンセプトにかかげられていました。
“若者のクルマ離れ”を防ぐということが自動車メーカーの大きな課題とされていますから、私もスポーツカーに乗る快感を知ってもらいたいと考えています。86とBRZは運転するとFRらしい素直なハンドリングが特徴で、ファン・トゥ・ドライブを存分に味わえます。私はこのクルマでレースに出場しましたが、サーキットでも楽しいですよ。
- 気軽に楽しめるFRのスポーツカーとして登場したトヨタ86とスバルBRZ。スポーツカーとしてはお手ごろな価格ですが、水平対向エンジンを搭載して低重心化を図るなど、その造りはかなりの本格派です。
しかし、評判は上々でよかったよかった……と言いたいところですが、肝心の若い人を引きつけたかというと、そうでもないようです。というのも、街で見かけるオーナーの方は大半が昔の若者……つまりオジサン世代。元祖ハチロクのレビンやトレノに乗っていた方々ですね。正直言って、若者のためというより、オジサンの「カムバック青春!」的なクルマになってしまったようです。それはそれですばらしいことなのですが。
- トヨタ86の大先輩である、元祖「ハチロク」ことトヨタ・カローラレビン(左)とスプリンタートレノ(右)。3ドアハッチバックの印象が強いですが、ノッチバックの2ドアクーペもありました。
昔はスポーツカーが憧れの存在でしたが、今は必ずしもそうとは言えません。なかには、狭いし乗り込みにくいし……と、ネガティブなイメージを持つ人もいるほど。そもそも、いわゆる“ゆとり世代”やそれ以下の若者は、あまりクルマに興味がない人が多いような気がします。FFとかFRとかの言葉も知りませんから、私たちがいくら「FRがスポーティー」などと言っても、伝わるはずがありませんよね。
むしろ、雪の多い地域の人たちには4WDのことはよく知られていて、そうした地域では「アウディやスバルは安全で、しかもスポーティー」というイメージが強いようです。それでも、単純にスポーツカーといって皆が思い浮かべるのは、やっぱりフェラーリやポルシェなどのモデルになるのでしょう。いずれにせよ、私などは見ただけで文句なく「カッコいい!」と思ってしまうのですが、それも私たちクルマ好きだけの感想なのかもしれません。
- 4WD車を数多く取りそろえるアウディとスバル。人によっては、必ずしも「スポーティーなクルマ=スポーツカー」ではないようです。
高度成長期にモータリゼーションが進んでいた頃は、スポーツカーに乗ることはステータスでした。それが、80年代になると高級セダンの人気が高まり、90年代以降は、ミニバンと軽自動車のハイトワゴンが売れ行きを伸ばしました。実用的なクルマが必要とされる時代になったのです。
それにつれて、「スポーツカーに乗るのは余裕のある富裕層」というイメージが定着してしまいました。確かに、いくらお手ごろな価格のモデルが出たとしても、たくさん人が乗れるわけでも大荷物が積めるわけでもありませんから、スポーツカーがある種のぜいたく品であることは事実です。例えば、ホンダS660はエントリーグレードで200万円を切る価格設定ですが、荷物スペースは皆無という「実質的には1人乗り」のクルマ。間違いなく、趣味のためのぜいたく品なのです。
- 軽規格のミドシップスポーツカーであるホンダS660。走りが痛快なクルマなのですが、取り外したホロをしまうためのラゲッジスペースを除くと、収納は皆無。車内には手提げカバンを置く場所すらありません。うーむ……。
また最近では、ゴルフやテニスをするのと同じように、クルマに乗ることをスポーツだととらえる感覚はほとんどなくなりました。この間発売されたトヨタのコンパクトミニバン、シエンタのキャッチコピーは、「TOYOTAがつくったスポーツバッグ。」 クルマでスポーツをするのではなく、スポーツをしにいくために乗るクルマという意味です。
室内空間が広くて使い勝手がいいクルマが今の主流なのは間違いありません。それでも、私自身は運転して楽しいスポーツカーが大好きです。若い人には、ちょっと無理をしてもぜひスポーツカーに乗ってほしいな、と思います。新しい世界がひらける……はず!?
★用語解説★
マツダ・ロードスター
1989年にユーノス・ロードスターとしてデビューして、私たちにオープン2シーターの魅力を再確認させてくれた名車です。それこそ世界中にファンがいます。4代目となった新型は、徹底的な軽量化のおかげで、初代に匹敵する軽さを実現しています。
ホンダS660
ホンダがリリースした軽規格のオープンスポーツカー。開発のリーダーが26歳の若者だったことも話題になりました。ミドシップならではの軽快なハンドリングが最大の特徴。確かに荷物は乗せられませんが、コーナリングの気持ちよさは抜群!
ダイハツ・コペン
初代は丸っこくてかわいらしいモデルでしたが、2代目はスポーティーな外観にイメチェン。今のところ、ボディータイプが3種類用意されていますが、それらの外板パネルを交換できるDRESS-FORMATIONと呼ばれるシステムが斬新です。
トヨタ86
1983年に発売されたカローラレビンとスプリンタートレノは、型式のAE86から「ハチロク」と呼ばれていました。新しいトヨタ86は、その名を受け継ぐFRスポーツ。毎年改良が行われ、常に「もっといいクルマ」に進化しているところもステキです。スバルBRZは兄弟車。
FR
フロントエンジン・リアドライブを略してFR。エンジンが前にあって後輪を駆動するクルマですね。駆動輪と操舵(そうだ)輪が別々なのでハンドリングがよく、コーナーでアクセルオンのまま曲がれることからスポーティーだといわれています。
★ここがポイント★
国内最高峰の自動車レースであるSUPER GTには、毎回たくさんのお客さんが詰めかけています。モータースポーツへの関心は、今も根強いものがありますね。
レースのように全開で走らなくても、クルマでドライブすることにはスポーツの要素が必ず含まれています。路面状況やコーナーの形状を見極めながら運転するには、全力で体と頭を働かさなければいけません。
それをピュアに追求しているのがスポーツカーです。多少の不便はあっても、意のままにクルマをコントロールする喜びが最優先されているんですね。
これから先、スポーツカーがクルマの主流になるのは難しいかもしれません。しかし、操る楽しみは自動車の本質ですから、スポーツカーはこれからもずっと作り続けられていくと思いますよ。
(文=吉田由美/写真=小林俊樹、田村 弥)
[ガズー編集部]
これまでの連載
第1回 EV、PHV、FCV?
第2回 ダウンサイジングってなに?
第3回 自動運転は本当に実現するの?
第4回 トレンドカラーってどう決まる?
第5回 スポーツカー復活の流れはホンモノ?
第6回 フロントグリルはもっと大きくなる?
第7回 ディーゼル車は環境にやさしいの?
第8回 日本でミニバンが人気なのはなぜ?
第9回 コンパクトSUVが流行している理由は?
第10回 「ITS Connect」ってどこがすごいの?
第11回 日本カー・オブ・ザ・イヤーで見えたトレンドとは?
第12回 4WDにはどんなメリットがあるの?
第13回 軽自動車はこれからどうなる?
第14回 モジュール化ってなに?
第15回 4ドアクーペは何が新しい?
第16回 シートアレンジの進化は止まらない?
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