第6回 フロントグリルはもっと大きくなる? | プロフェッサー由美の自動車トレンド講座
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第6回 フロントグリルはもっと大きくなる?
トレンドを作ったのはアウディA6? グリルを大型化する以外の工夫は?
★今回のテーマ★
新型トヨタ・アルファードのフロントグリルは、大きくてすごい迫力! マッチョでいかついギラギラの顔つきが人気で、販売も絶好調だそうです。最近ではこのように、大きなグリルを採用したものがたくさんあります。フロントマスクのトレンドは、立派で目立つデザインのようです。これからはさらにもっと大きくてゴージャスなグリルが登場するのでしょうか。
グリルの大型化に加え、エンブレムやヘッドライトで個性をアピールする流れも
立派な“パルテノングリル”が伝統のロールス・ロイスを例に挙げるまでもなく、大きなフロントグリルは高級車の威厳を表現するものです。少し前まで、一般的なセダンはもう少しおとなしめの優しい顔つきでしたが、流れを変えたクルマがあります。それは、2004年に登場した3代目アウディA6です。
- 「フロントグリル巨大化」というトレンドの急先鋒(きゅうせんぽう)となった、3代目アウディA6。日本人デザイナーの和田 智さんがデザインを手がけました。
それまでのA6のグリルは、バンパーをはさんで上下2段になっていましたが、それをつなげて大きなひとつのグリルにしてしまったのが斬新! これは、日本人デザイナーの和田 智さんがスタイリングを担当したモデルということでも、注目されました。
最初見た時は、驚きましたね! 「泥棒ヒゲみたい」と表現した人もいましたが、私は魚眼レンズで撮影された「鼻デカ犬」の写真みたいだと思いました。
ちょうど同じ頃、イギリスのローバー75というクルマも同じようなグリルを採用。もっとも、このクルマについてはグリルが巨大化した直後にメーカーが経営危機に陥り、生産が中止されてしまいましたが……。いずれにしても、2000年代の半ばに、自動車デザインの歴史の中に大きなグリルというトレンドが登場。私もしばらくはこうしたデザインに違和感がありましたが、気が付いたら慣れていました(笑)。
アウディはこれを「シングルフレームグリル」と呼んで、ブランドアイデンティティーに育てました。今では一番小さいモデルのA1にも使われていますね。その影響は大きく、ほかのメーカーのモデルもだんだんグリルが大きくなっていきました。
- コンパクトカーのA1からスーパーカーのR8まで、今ではアウディの全ラインナップに採用されているシングルフレームグリル。ちなみにR8は、LED技術を用いた個性的なデザインのヘッドランプも特徴です。
今日の自動車において、フロントマスクのデザインでほかのモデルとの差別化を図るのは、一般的な傾向といえます。それはグリルの巨大化だけに限った話ではありません。例えばメルセデス・ベンツ、フォルクスワーゲン、プジョーなどは、大きなエンブレムを装着して、顔立ちを目立たせる手法をとっています。またフランス車では、ヘッドライトをツリ目にして強い表情を演出しています。最近ではデザインの自由度が高いLED式ヘッドランプが普及してきたので、BMWやアウディは独特の造形で目ヂカラを強調し、その光だけでブランドや車種が認識できるように工夫しています。
- プジョー最新のCセグメントハッチバックモデルである308。一時よりややおとなしくなりましたが、“ツリ目”状のヘッドランプは今でも健在。フロントを飾るライオンのエンブレムも特徴です。
これらのメーカーの本拠地であるヨーロッパでは、高速道路で前走車に車線を譲ってもらえるよう、バックミラーに映る姿で「後ろから速いクルマが迫っている」と感じさせることが重視されます。プレミアムブランドがフロントマスクでわかりやすく存在感を主張するのには、理由があるのです。
日本の自動車メーカーのクルマも、フロントまわりのデザインはだんだんインパクトのある造形になってきました。中でも、2012年にGSから導入が始まったレクサスの「スピンドルグリル」は、かなり衝撃的でした。レクサスのブランドイメージが、あれで明確になったような気がします。
- 今やすっかり「レクサスの顔」となったスピンドルグリル。初めて採用したのは、2012年に登場した現行モデルのレクサスGSでした。
同じ年に登場したトヨタ・クラウンの王冠型グリルにも驚きました。おとなしくて保守的なイメージのあるクルマだったからこそ、アグレッシブなスタイルが斬新。今では、あれが普通に見えてしまうから不思議です。
セダンよりも構造的に有利なのがミニバンです。前面の面積がはるかに大きいので、グリルもより大きくすることができます。冒頭で述べた新型アルファードなどは、ほとんど限界までグリルの面積を増やしています。今では大型ミニバンは高級車ですから、それにふさわしい貫禄といえるでしょう。
近年では、5ナンバーサイズの箱型ミニバンにも、大きなグリルのエスクァイアが加わりました。クルマに堂々とした高級感のある姿を求めるのは、今では一般的な傾向といえるのかもしれませんね。
★用語解説★
パルテノングリル
ロールス・ロイスといえば、縦にスリットが入った立派なグリルと、その上に立っているマスコットの「スピリット・オブ・エクスタシー」が有名です。アテネのパルテノン神殿に似ていて、高級感を表すお手本のようなグリルです。
アウディA6
往年のアウディ100から発展したモデルで、A4とA8の中間という位置づけです。アウディはシングルフレームグリルを採用したことで、プレミアムブランドとしてのイメージが定着しました。特に中国で大人気だとか。
スピンドルグリル
「スピンドル」というのは紡績機の回転軸を意味する言葉で、台形と逆台形を組み合わせた形は確かに糸巻きに似ています。現在ではレクサスのすべてのモデルに採用されていますが、少しずつ違ったデザインになっています。
トヨタ・エスクァイア
扱いやすい5ナンバーサイズのボディーと、上質な内外装を併せ持った高級ミニバン。大きなT字グリルが特徴ですが、寸法の制約がある中で立体的に見せるため、加飾バーのパターンを変えるなどの工夫をしているそうです。
★ここがポイント★
フロントグリルの大型化は極限まできた感があるので、この後は反動があるかもしれません。実際に、フォルクスワーゲンはゴルフに一度大きなグリルを採用しましたが、後で元に戻しています。
ただ、一度刺激に慣れてしまうと、なかなか後には引けないもの。デザイナーはこれまでとは別な手法で豪華さを形にすることを考えていくでしょう。
アルファードですら、次のモデルではもっとゴージャスな造形を追求してくるはず。これ以上グリルを大きくするのは非現実的だと思われるので、きっと新しい方法を試してくることでしょう。まさかミラーボールは付けないとは思いますが、「光るグリル」などはありえるかも!?
一方で、FCVのMIRAI(ミライ)は、ガソリン車とは明らかに違うデザインを採用しています。テクノロジーはデザインに影響を与えます。これからは想像もつかない斬新なスタイルが登場するかもしれませんよ!
(文=吉田由美/写真=小林俊樹、田村 弥)
[ガズー編集部]
これまでの連載
第1回 EV、PHV、FCV?
第2回 ダウンサイジングってなに?
第3回 自動運転は本当に実現するの?
第4回 トレンドカラーってどう決まる?
第5回 スポーツカー復活の流れはホンモノ?
第6回 フロントグリルはもっと大きくなる?
第7回 ディーゼル車は環境にやさしいの?
第8回 日本でミニバンが人気なのはなぜ?
第9回 コンパクトSUVが流行している理由は?
第10回 「ITS Connect」ってどこがすごいの?
第11回 日本カー・オブ・ザ・イヤーで見えたトレンドとは?
第12回 4WDにはどんなメリットがあるの?
第13回 軽自動車はこれからどうなる?
第14回 モジュール化ってなに?
第15回 4ドアクーペは何が新しい?
第16回 シートアレンジの進化は止まらない?
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