第7回 ディーゼル車は環境にやさしいの? | プロフェッサー由美の自動車トレンド講座

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第7回 ディーゼル車は環境にやさしいの?

​​​​​​​​​​PMやNOxの問題は解決したの? 走りもいいって本当?

★今回のテーマ★

​​この7月、ボルボが主要5車種に一挙にクリーンディーゼルモデルを導入したのには驚きました!日本では長い間ディーゼル乗用車不遇の時代が続いていましたが、やっと魅力が認知されるようになりましたね。このようにディーゼルが見直されるようになった理由は、実はエコ性能が評価され始めたから。少し前までは“大気汚染の素”のように言われていたのに、評価が逆転したのはなぜなのでしょう。

たゆまぬ技術革新によって、クリーンで力強いエンジンに進化

ディーゼルのイメージが悪くなったきっかけは、1999年に東京都知事だった石原慎太郎氏が行った記者会見でした。東京では一日に500ccのペットボトル12万本分の粉じんが排出されていると訴えたんです。真っ黒なススが詰まったペットボトルを使ったパフォーマンスは衝撃的でしたね。

東京都では環境確保条例が制定され、粒子状物質(PM)の排出基準に適合しないディーゼル車は、新車登録後7年を経過すると走行が禁止されることになりました。この条例はトラックやバスだけでなく乗用車にも適用されたので、ディーゼルのクロスカントリー車に乗っている人の中には、泣く泣く愛車を手放す人もいたそうです。

ディーゼル車を規制する条例は、東京都や神奈川県、大阪府などで施行され、古いディーゼル車の持ち主は買い換えを迫られました。写真はかつて人気を博した三菱パジェロと、同車のディーゼルエンジン。

確かに、当時は大気汚染が深刻でした。路肩に駐車したダンプカーからはひどい匂いがしていましたし、トラックやバスが黒煙を噴いて走っている光景も珍しくありませんでした。排ガス規制が強化され、違法改造や整備不良のクルマが一掃されたのは、明らかに“石原会見”の功績だったと思います。

ただ、実はこの頃からディーゼルエンジンの飛躍的な進化は始まっていました。ヨーロッパでは加速のよさと燃費性能が評価され、プレミアムブランドのディーゼルモデルが人気を博すようになります。排出ガスについても、尿素SCRといった“後処理システム”や、コモンレール式燃料噴射装置などの研究が進み、窒素酸化物(NOx)やPMを劇的に減らすことができました。これらの技術を得たディーゼル車は、ユーロ4という厳しい排ガス規制をクリアし、一気にエコカーとしての存在感を高めていったのです。

コモンレール式燃料噴射装置とは、あらかじめ燃料に圧力をかけておき、200MPaといった超高圧で燃焼室に噴射するシステムのこと。最新のクリーンディーゼルエンジンに不可欠の技術で、最初に量産化したのは日本のデンソーでした。

ところが、これらのディーゼル乗用車は日本にはなかなか導入されませんでした。というのは、日本ではディーゼルのイメージが悪すぎて、とても売れそうになかったからです。それでも、一部のメーカーはディーゼルの価値を訴え続け、2006年にはメルセデス・ベンツがディーゼル車の導入を開始しましたが、盛り上がったのは私たちのような一部のクルマ好きだけで、残念ですが、一般的にはあまり効果はありませんでした。

状況を変えたのは、2012年にデビューしたクロスオーバーSUVのマツダCX-5です。注目を集めたのは、SKYACTIV-Dと呼ばれる新開発のクリーンディーゼルエンジンでした。ガソリンエンジンモデルもありますが、購入者の8割がディーゼルを選んだそうです。トルクの厚い走りは、最新のディーゼルに触れていなかった日本のユーザーにとって新鮮だったのでしょう。“排ガスが汚くて、うるさくて、パワーが出ない”というイメージは、完全に過去のものになりました。

マツダCX-5と、同車に積まれたSKYACTIV-D 2.2。マツダのディーゼルは、大きなトルクや燃費性能だけでなく、高価な後処理装置なしで日欧の排出ガス規制をクリアするクリーンな排気も特長となっています。

私もいろいろなディーゼル乗用車に乗りますが、いまや昔の悪いイメージはまったくありません。今日乗ったボルボXC60も、言われなければディーゼルだと気づかないでしょう。いわゆる“ガラガラ音”なんて聞こえませんから。メルセデス・ベンツはマフラーに白い布を当てるパフォーマンスでクリーンさをアピールしているくらいで、排ガスもきれいです。しかも、日本では軽油はガソリンよりリッター40円近く安いわけですから!

また、ディーゼルは高回転まで回せないから面白くないという人もいますが、私たちのクルマの使い方を考えたら、むしろ逆。ディーゼルは低回転でも力強くて、どこからでも加速できます。エンジン回転数が低く抑えられているので、長距離運転で疲れないのもいいですね。遠くまで走ることが多いヨーロッパで人気なのもうなずけます。

エンジンを一生懸命回さなくても十分なトルクが発生し、ゆったりと走れるのが最新のディーゼル車の魅力。一度に何百kmも走るようなロングドライブでも、疲れ知らずです。

最近はガソリンのダウンサイジングターボも性能がよくなりました。ハイブリッド車も、さらに進化を続けています。そこにディーゼル車が新たな選択肢として加わったことは、間違いなく素晴らしいことです。原油からは必ずガソリンと軽油が作られますから、ガソリン車とディーゼル車が適切なバランスで普及するのはエネルギー消費の観点からも理想的なことといえると思います。

★用語解説★

粒子状物質(PM)
少し前に、中国から飛来するPM2.5が問題になりましたね。PMとはParticulate matterの略語で、ススや粉じんなどの粒子状物質を指します。ディーゼルエンジンの排ガスにも含まれていて、呼吸器疾患などの原因になるので対策が重要です。

窒素酸化物(NOx)
一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO2)といった窒素酸化物の総称がNOxです。光化学スモッグの原因になるので、厳しく規制されていますが、先述のPMを減らすために燃焼温度を上げるとNOxが増えるという性質があるのが厄介なところです。

コモンレール式燃料噴射装置
ディーゼルエンジンには点火装置がなく、圧縮されて高温になった空気に燃料を噴射して自己着火させる仕組みです。高圧燃料を電子制御インジェクターで噴射するコモンレール式は、噴射タイミングを細かく操作することが可能で、高効率で排ガスもクリーンな燃焼を実現しました。

尿素SCRシステム
SCRとはSelective Catalytic Reduction(選択的触媒還元)の略。尿素を排ガスに噴射することでアンモニアを発生させ、NOxと反応させるのが尿素SCRの仕組みです。化学反応で窒素と水になるので、汚染物質を減らせるわけです。

SKYACTIV-D
ディーゼルエンジンはガソリンエンジンに比べて圧縮比が高いのが特徴ですが、SKYACTIV-Dでは常識はずれの低圧縮比を採用。ピストンやシリンダーブロックを軽量化することで低燃費を実現しました。尿素SCRなどの後処理システムを必要としない、クリーンな排気も魅力です。

★ここがポイント★

​​ディーゼル車に乗っていると、運転の主導権を自分が握っている気分になれます。いかにも内燃機関という感じがあるんですね。電気自動車はデジタルっぽくてクルマが主役という感覚ですが、ディーゼル車はアナログ感があって荒削りなところが魅力です。

外にいるとさすがにディーゼルらしい音が聞こえますが、運転席では本当に静か。イヤな振動もありません。しかも、いまや大きなクルマでも燃費はふた桁というのが普通。ガソリンスタンドに行く回数も減るし、満タンにしてもガソリンよりはるかに安く済むのもうれしいところです。今のディーゼル車には、ネガティブな要素はまったくありませんね。

ガソリン車に比べると車両価格はちょっと高いんですが、長く乗るならランニングコストで元がとれるはず。偏見を持たずに、とにかく一度乗ってみることをオススメします!

(文=吉田由美/写真=小林俊樹)

[ガズー編集部]