第10回 「ITS Connect」ってどこがすごいの? | プロフェッサー由美の自動車トレンド講座

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第10回 「ITS Connect」ってどこがすごいの?

路車間通信、車車間通信ってなに? 普及のためには何が必要なの?

★今回のテーマ★

近ごろは、自動運転の話題が新聞やテレビで紹介されることが多くなりましたね。新しい運転支援システムに関心が集まる中、トヨタが発表したのがITS Connectです。協調型安全技術だということですが、それはどういう仕組みで、これまでのシステムとは何が違うのでしょうか?

路上のセンサーがドライバーから見えないところを監視

ITSはIntelligent Transport Systemsの略称で、高度道路交通システムのこと。ITを活用して交通環境を整えるシステムやサービスを意味しています。というわけで、実は私たちがすでにお世話になっているカーナビゲーションシステムのVICSや、高速道路の自動料金収受システムのETCなどもITS。民間企業と国土交通省などの官庁が関わっていて、毎年国際会議も開かれています。

今回紹介するITS Connectは、ITS専用周波数として与えられている760MHz帯を使って通信を行い、運転を支援する技術です。

ITS Connectとは、通信技術を使った運転支援システム。現段階では、道路などに備えられた通信ユニットから情報を受け取る路車間通信(左)と、クルマ同士で情報をやり取りする車車間通信(右)があります。

「運転を支援する」と聞くと真っ先に思い浮かぶのは、だんだん普及しつつある自動ブレーキやレーンキーピング機能などですが、それらは自律型のシステム。自動車にカメラやミリ波レーダーなどのセンサーが装備されていて、ドライバーのミスをカバーくれます。しかし、事故を減らすためにはそれだけでは十分ではありません。センサーはドライバーよりも視野が広くて正確に状況を把握してくれますが、死角になる部分があるのは人間と同じです。通信技術を使って見えないところの情報が受け取れるようになれば、より安全性が高まりますよね。

そこでITS Connectでは、路車間通信と車車間通信を使って協調型の安全システムを実現します。路車間通信というのは、道路とクルマが通信して情報を交換するシステム。交差点に設置された通信装置が交通状況を監視して、危険を察知するとドライバーに知らせるというものです。

例えば、交差点で右折する時は対向してくる直進車がいないことを確認しなければなりませんが、場合によっては見えにくくて確認しづらいことがありますよね。そこでITS Connectでは、道路に設置されたカメラが直進車を監視していて、直進車が接近しているのにドライバーがブレーキペダルから足を離すと車載のディスプレイの表示とブザーで注意を喚起。横断歩道も監視していて、歩行者がいることも知らせてくれるんですよ。

トヨタ・クラウンのマルチインフォメーションディスプレイに表示される、ITS Connectの警告表示。ドライバーが歩行者や対向直進車両を見落としている可能性がある場合には、この警告が表示されます。

また、赤信号なのにドライバーがアクセルを踏み続けていると、見落としている可能性があると判断してやはり警告を発します。停車中に赤信号が青に変わるまでの時間を表示する機能もあります。ただ、当然ながらこういった機能が使えるのは専用のカメラや通信ユニットが装備された交差点だけ。2015年の時点では、ITS Connectに対応している場所は数えるほどで、東京都と愛知県にしかありません。

危険とされる交差点は日本全国で約2200カ所もあるとのことで、整備には時間がかかりそう。取りあえずは、危険度の高い交差点から順に装置が取り付けられていくことになるそうです。年間約4100人の交通事故死亡者数の中で、交差点での事故の割合は約45%。整備が進めば交通事故で亡くなる方を大幅に減らすことができるでしょう。

東京都江東区の青海1丁目の交差点に設けられたITS Connectの装置。人の目よりはるかに高い位置から交差点を監視するので死角が少なく、遠くまで見渡すことができます。

一方の車車間通信では、クルマ同士でデータをやり取りします。これで可能になるのが、通信利用型レーダークルーズコントロール。自律型のレーダークルーズコントロールも性能が向上していますが、センサーで前のクルマを認識してから制御をするのでどうしても操作に遅れが生じます。通信利用型ならリアルタイムに情報が伝わりますから、前のクルマとほぼ同時に加減速を行うことができます。

ただ、現時点ではこの機能を使う場面は少ないでしょう。ITS Connectはトヨタ・クラウンに装備されたのが最初で、次がトヨタ・プリウス。対応しているモデルが少ない現状では、ITS Connectに対応した車両同士が路上で出会う機会というのは、なかなかありません。

今のところ、ITS Connectは2015年10月にマイナーチェンジされたトヨタ・クラウン(左)と、同年12月に発売された4代目トヨタ・プリウスにオプションで用意されるのみ。まだまだ、普及には時間がかかりそう……。

ITS Connectが普及するためには、通信ユニットを装備した交差点とクルマが増えることが絶対の条件です。交差点に関しては行政の役割ですが、クルマに関してはインフラを充実させるのはユーザー自身。ITSユニットにお金を支払うことが社会貢献につながります。

ただ、誰もが簡単に出せる金額ではありません。最初はオプションだったABSやDSCが標準装備になっていったように、ITS Connectがどのクルマにも装着されるようになれば一気に普及が進むでしょう。

★用語解説★

VICS
Vehicle Information and Communication Systemの略称で、道路交通情報システムのこと。私たちが普段使っているカーナビに渋滞や事故の情報が表示されるのは、このVICSのおかげ。ビーコンやFMの電波でさまざまな情報を伝えます。

ETC
ETCとはElectronic Toll Collection Systemの略称。その名称は電子料金収受システムを指していますが、ETC2.0になって運転支援システムに進化しました。ITSスポットと双方向通信を行って、渋滞回避や災害などの情報を提供してくれます。

760MHz
ITS Connectで使われる760MHzという周波数は、2011年で終了したアナログテレビ放送で使われていたものです。プラチナバンドと呼ばれている周波数帯で、これをITSに与えたというのは、行政が普及に意欲的なことの表れでしょう。

交通事故死亡者数
交通戦争という言葉が使われていた昭和30~40年代には、交通事故死亡者数は年間1万人を超えていました。2014年まで14年連続で死亡者数が減少していますが、まだ年間で4000人もの方が亡くなっています。

★ここがポイント★

「東京オリンピックの2020年には自動運転が実現する」なんて言う人もいますが、まだまだ解決しなければならない課題は山ほど残っています。法律の整備が必要なのはもちろん、倫理面でも考えなければならないことがたくさんあります。

私は運転するのが大好きなので、すべてを自動運転に任せるつもりはありませんが、交通安全を考えた場合、クルマやインフラの側がドライバーをアシストする技術の進化は必須。すでに自律型制御についてはどんどん進化しています。自動ブレーキは装備されているのが当たり前という時代になりつつあり、レーンキーピング機能も付いていると安心感がぐっと増します。

同じように、ドライバーからは見えないところをチェックしてくれるITS Connectは、安全運転のためのありがたいシステムだといえるでしょう。

交通事故死亡者数ゼロに向けて、インフラをもっと充実させていってほしいですね。

(文=吉田由美/写真=小林俊樹、田村 弥)

[ガズー編集部]