第11回 日本カー・オブ・ザ・イヤーで見えたトレンドとは? | プロフェッサー由美の自動車トレンド講座

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第11回 日本カー・オブ・ザ・イヤーで見えたトレンドとは?

今年はオープンスポーツカー対決! 歴代イヤーカーを見れば、時代の流れがわかる?

★今回のテーマ★

日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)2015-2016は、マツダ・ロードスターに決定! 昨年のデミオに続き、2年連続でマツダが栄冠を獲得しました。COTY規約には「年間を通じて最も優秀なクルマを選定」すると書いてあり、選ばれるのはとても名誉なこと。そして、選考結果は時代を反映するものでもあります。今年のイヤーカーからは、どんなトレンドが読み取れたでしょうか?

2016年はスポーツカーと軽自動車と電気自動車の年?

ロードスターの受賞は大方の予想通り。私も10点を入れましたよ。COTYでは選考委員が25点の持ち点を5台のクルマに振り分けて投票するきまりで、特にイチオシのクルマ1台には、必ず10点を入れなければいけません。今回は60人の選考委員の中でロードスターに10点を入れた人が私を含めて25人もいて、最終的にこのクルマは442点を獲得し、イヤーカーに輝きました。

惜しくも2位となったのは、401点のホンダS660。私は2番目の7点を入れています。10点を入れた選考委員は23人でした。このように、今年のCOTYは“ロードスター vs S660”というオープンスポーツカー対決となったのが一番の特徴でしたね。

東京・台場の東京国際交流館で開催された表彰式の様子。マツダの常務執行役員、藤原清志さん(写真中央右)が、COTY実行委員長の荒川雅之さん(同中央左)から表彰状を受け取ります。

第5回の講座で触れましたが、2012年のトヨタ86、スバルBRZの発売以来、一時期元気がなかったはずのスポーツカーが、存在感を増してきました。今年のCOTYもその流れの中にあったような気がします。昔から「景気がよくなると赤いクルマとスポーツカーが売れる」とは言われますから、これも世の中的に明るい兆しなのかもしれません。これをきっかけに、運転の楽しいスポーツカーがもっと出てくるとうれしいですね。

今年のもうひとつの特徴は、軽自動車が活躍したことです。私はアルト/アルト ターボRS/アルト ラパンに5点を入れました。このクルマが75点を得て6位となったのは大健闘。スモールモビリティ部門賞を獲得しています。とはいえ、個人的にはもう少し票を伸ばしてもいいかな、と思いましたが。S660も含め、やはり軽自動車が注目を集めているのは確かでしょう。

私は、自分のクルマを選ぶ時は「I(自分)」で考えますが、COTYのクルマを選ぶときは「We(私たち)」で考えます。ロードスターを1位にしたのは、2人しっかり乗れるから。S660は軽自動車でも風を切って走ったり自分で操るのが楽しいクルマ。しかし荷物を置く場所が無いので、実質的に1人乗りなんです。そう考えると、自分だけしか楽しめないな、と。そして、アルト/アルト ターボRS/アルト ラパンはファミリーで乗れて、しかも手の届くクルマ。スタイルもステキだし、燃費もいいんですよ。

そして、コンパクトミニバンのトヨタ・シエンタには2点を投票しました。選考委員はクルマ好きなので、どうしてもスポーツカーに人気が偏りがちです。でも、乗り味以外の評価軸もあっていいと思うんですよ。シエンタはシートアレンジが見事で便利だし、大胆なイメチェンをしたエクステリアデザインにはビックリ。ボディーカラーによってまったく違う印象になるのも面白いですね。販売も好調みたいで、街でよく見かけるようになりました。このクルマは「売れていること」自体や、多くの人が支持している理由というものも考慮しました。

表彰されるのはスポーツカーや高級車ばかり、というわけではありません。今回のCOTYではコンパクトミニバンのトヨタ・シエンタ(左)や、軽乗用車のスズキ・アルト/アルト ターボRS/アルト ラパン(右)なども高く評価されました。

最後は、テスラの電気自動車(EV)、モデルS P85Dに1点。EVでありながらプレミアムでラグジュアリーというのが新しいですね。もう、次世代環境車だからといってガマンしなくていいというのがすばらしい。選考委員の中には、ほかのクルマを差し置いてテスラに10点を入れた方もいました。まだいろいろ課題はあるにせよ、このクルマには未来感を感じます。大手の自動車メーカーも、うかうかしていられませんよ?

さて、今年のCOTYの復習はここまでにして、ここからは少し、その歴史を振り返ってみましょう。COTYは1964年にヨーロッパで初めて開催され、その後世界に広まっていきました。日本で初めて行われたのは1980年のことで、第1回の受賞車はマツダ・ファミリア。フォルクスワーゲン・ゴルフをお手本にしたFFの小型ハッチバック車で、シンプルな直線で構成されたスタイルが新鮮でした。その人気は、同クラスの定番モデルだったトヨタ・カローラや日産サニーを月販台数で上回ることもあったほど。受賞は妥当といえるでしょう。

1980年にイヤーカーに選ばれた4代目マツダ・ファミリア。若々しいイメージとシンプルなスタイリング、ハッチバック車ならではの高い利便性などで人気を博しました。

第2回はトヨタ・ソアラが受賞。80年代を代表するデートカーであり、ハイソカーブームの立役者でもあります。間違いなく当時のトレンドを体現したクルマでした。その後は、第3回がマツダ・カペラ/フォード・デルスター、第4回ホンダ・シビック、第5回トヨタMR2と続いていきます。こうして並べると、その頃の気分が伝わってきます。1989年にトヨタ・セルシオ、1997年にトヨタ・プリウスが受賞しているのも、振り返ってみると納得ですね。

ただ、中には今振り返って見ると「?」と首をかしげてしまうクルマが選ばれていることや、逆に重要な意味を持つクルマが賞を取り逃がしたこともありました。1990年のトヨタ・エスティマや1994年のホンダ・オデッセイは、今から見るとイヤーカーになっていても不思議ではないように思えます。村上春樹が芥川賞を受賞していないように、「無冠のヒーロー」もいるんですね。

1990年にデビューした初代トヨタ・エスティマ(左)と、1994年にデビューした初代ホンダ・オデッセイ。ミニバン創成期の名車として高く評価されている2台ですが、ともにイヤーカーには選ばれませんでした。

★用語解説★

マツダ・カペラ
1970年にデビューした乗用車で、最初はロータリーエンジンを積んだモデルもありました。受賞したのは4代目で、駆動方式が初めてFFになっています。同時に受賞したテルスターは、当時マツダが提携していたフォードの“姉妹モデル”にあたります。

ホンダ・シビック
アメリカの厳しい排ガス規制を世界で初めてクリアしたCVCCエンジンで知られるのが、1972年に登場した初代ホンダ・シビックです。ワンダーシビックの愛称で親しまれた3代目が1983年にCOTYを受賞して以来、実に4度にわたりイヤーカーに選ばれています。

トヨタ MR2
市販車としては日本で初めてのミッドシップ車です。コンパクトなボディーで俊敏に走るので、クルマ好きの間で大人気となりました。日本では“エムアールツー”と呼びますが、アメリカでは“ミスターツー”と発音したそうですよ。

村上春樹
日本を代表する小説家ですが、なぜか芥川賞には縁がありません。1979年と80年に候補になったものの、受賞できませんでした。今では「ノーベル文学賞に最も近い作家」ともいわれたりしていますが、当時はなかなか理解されなかったようです。

★ここがポイント★

今回はインポート・カー・オブ・ザ・イヤーにBMW 2シリーズ アクティブ ツアラー/グラン ツアラー、イノベーション部門賞にモデルS P85Dが選ばれました。100周年を迎えたヤナセには、実行委員会特別賞が送られています。

もうひとつ、実行委員会特別賞にはトヨタ・ミライが輝きました。実はミライはCOTYにノミネートされていなかったんですね。世界初の量産型燃料電池車なのだから資格は十分のように思われますが、対象となるには年間販売台数が500台なければいけません。ミライは400台なので、残念ながらこの条件に達しませんでした。ちなみに、「ミライ」は前回も実行委員長特別賞を受賞していますが、前回と今回とでは受賞理由が違います。前回は「燃料電池車の取り組みに対して」で、今回は「世界で初めて一般発売された燃料電池車」とのことです。

私はロードスターを1位にした理由として「“自動車が人々に夢を与えるものであってほしい”という願いと、“未来に車の夢をつなぐ”という意味」を込めたと答えました。これからも自動車には夢を求めたいものです。

イヤーカーは時代を映す鏡のようなもの。その年を代表するクルマとして後々まで残りますから、選ぶほうも真剣です。来年はどんなステキなクルマが登場するのか、今から楽しみですね。

(文=吉田由美/写真=小林俊樹、田村 弥)

[ガズー編集部]