第15回 4ドアクーペは何が新しい? | プロフェッサー由美の自動車トレンド講座
自動車って、乗るのは楽しいけど最新技術はムズカシイ?そんなアナタでも大丈夫。どんな疑問にもプロフェッサー吉田由美がお答えします!
第15回 4ドアクーペは何が新しい?
20年前からあったってホント? さらに進化したモデルも登場!
★今回のテーマ★
クーペというとスポーティーでスタイリッシュなイメージ。車高が低い2ドアモデルで、実用性より見た目を優先した作りをしているというのが一般的な見方ではないかと思います。でも、最近は「4ドアクーペ」を名乗るクルマがたくさんあります。両方のモデル形の“いいとこ取り”をしたこれらのクルマは、ある意味「セダンとクーペのハイブリッド」ともいえるかもしれません。実際にはどんなクルマなのか、ちょっと見てみましょう。
メルセデス・ベンツCLSの人気で、ドイツから続々と新モデルが登場
2004年に誕生したメルセデス・ベンツCLSは、かなり衝撃的なクルマでした。ベンツといえば「高級車だけどオジサンたちのもの」というイメージだったところに、これまでに見たことのないオシャレなフォルムのモデルが現れたのですから。
最初はこんな“見かけ優先”のクルマがメルセデス・ベンツの名前で売られていいものか、なんて疑問符を付ける人もいました。でも、ユーザーはもろ手を挙げて受け入れたのです。当時は日本でも「ちょい悪オヤジ」が人気でしたし、「普通の高級車」に飽きてしまっていたのかもしれませんね。
メルセデス・ベンツには、伝統的にSECやCLといったフラッグシップクーペがラインナップされていました。でも、CLSはまったく異質なモデルでした。実はベースとなっているのは最上級モデルのSクラスではなくて、一回り小さなEクラス。それなのに堂々としていて存在感があり、安っぽさはありません。「このクルマは何?」と思わせる驚きがあり、値段以上の価値を感じさせました。
- 2004年に誕生した4ドアクーペのメルセデス・ベンツCLS。Eクラスのプラットフォームをベースに開発されたもので、日本市場へは2005年に導入されました。
メルセデス・ベンツが大きく変わるきっかけとなったのがこのモデルです。「偉い人が会社で使うクルマ」という感じだったのが、一気にスタイリッシュなブランドイメージに変わりました。このクルマの影響で、ほかのドイツメーカーも似たようなコンセプトのモデルを開発します。アウディからはA5やA7、BMWからは4シリーズや6シリーズが発売されました。
それぐらいインパクトが強かったわけですが、クーペライクなセダンというコンセプトはCLSが元祖というわけではありません。今をさかのぼること20年以上も前に発売されていた4ドアクーペ、トヨタ・カリーナEDです。セリカのプラットフォームを使った兄弟車で、センターピラーのないハードトップに仕立てられていました。EDというのは、Exciting Dressyの略称なんだそうです。
若々しいイメージがウケたのか、このクルマが異例の大ヒット! もちろん他社も黙っていません。マツダ・ペルソナ、三菱エメロード、日産プレセアなどが続々とこれに続きました。トヨタ自身も、もう少し小さなカローラ セレス/スプリンター マリノを投入します。
- 元祖4ドアクーペともいえるトヨタ・カリーナED。2ドアクーペのように低められた車高や、大きく傾斜したフロントウィンドウが特徴でした。このクルマが人気を得たことで、多くのフォロワーが生まれました。
しかし、1990年代になるとこのジャンルのクルマは急激に失速します。当然ながら室内は狭くて乗り降りがしにくく、荷物も多くは積めません。バブル景気が終わって世の中はすっかり実質志向。そんな風潮の中で、代わってもてはやされたのはミニバンです。カッコよりも実用性を求める時代になっていました。
ただ、それは日本でのお話。海外ではやや様子が違って、2000年にはアルファ・ロメオが156スポーツワゴンを発売します。ワゴンなのになぜかメーカーはクーペだと言い張っていました。そして、2004年に先ほど述べたメルセデス・ベンツCLSが登場したわけです。
それから10年以上が経過して、CLSも新鮮味は薄れてきました。“王道グルマ”の時代が続くと刺激的なコンセプトが現れ、それが飽きられるとまた別のコンセプトが人気を博すというループです。最近のトレンドは、4ドアクーペのコンセプトをさらに進めたシューティングブレーク。もともとは狩猟用の馬車のことですが、今ではスポーティーなワゴンを指す言葉になりました。実は、私の現在の愛車はメルセデス・ベンツCLAシューティングブレーク。4ドアのCLAクーペより、個人的にはこちらの方が今ドキでステキなフォルムだと思っています。ちなみに、CLSにもシューティングブレークがありますよ。
- 低く、なだらかにリアへとつながるルーフラインが特徴的なメルセデス・ベンツCLAシューティングブレーク。クーペとステーションワゴンのクロスオーバーといった趣でしょうか。他のジャンルのクルマにはないデザインが魅力です。
もうひとつの新しい流れは、クーペの要素を持ったSUVです。レンジローバー イヴォークやBMW X6、MINIペースマンなどがあります。メルセデス・ベンツも、Mクラスから名前が変わったGLEにクーペをラインナップしました。SUVもすっかり街の風景になじみましたから、新機軸が求められるようになったのでしょう。
「クルマといえばセダン」という時代はずいぶん前に終わって、今ではさまざまな形のクルマが街を走っています。これまでにも、2つのジャンルを融合させるクロスオーバーの手法で、新たなスタイルのクルマが生み出されてきました。4ドアクーペもそのひとつ。次のトレンドも、今あるモデルが組み合わさることで作られるのかもしれません。
- SUVと4ドアクーペの両方の特徴を併せ持つモデルとして登場したBMW X6。まだこのジャンルのクルマが少ないこともあり、街中で見かけるとスーパーカー並みの存在感を放っています。
★用語解説★
メルセデス・ベンツSEC
メルセデス・ベンツの最上級モデル、Sクラスの2代目となるW126は、まずはセダンだけのラインナップで発売されましたが、1981年に2ドアクーペのSECが加わりました。セダンは運転手付きで後席に座るイメージでしたが、SECはドライバーズカー。1996年からはCLクラスという別の車種として独立しました。
マツダ・ペルソナ
カペラをベースとした4ドアピラーレスハードトップで、1988年に登場。カリーナEDから3年遅れてしまったので、ちょっと苦戦したようです。姉妹車としてユーノス300も作られましたが、当時マツダが進めていた多チャンネル化の中で、埋もれてしまった感じでした。
アルファ・ロメオ156スポーツワゴン
1997年に登場したアルファ・ロメオの中型モデルである156に、2000年に追加されたのがスポーツワゴンです。とてもカッコいいクルマでしたが、荷室の狭さには驚きました。普通のセダンと比べてもまったく荷物が入れられなかったことを覚えています。
レンジローバー イヴォーク
イギリスのレンジローバーといえば、本格的な高級SUVの代表格。同ブランドのコンパクトモデルであるレンジローバー イヴォークは、性能の高さを受け継ぎながら、都会的なフォルムをまとったクロスオーバーSUVに仕立てられました。今年からはオープンモデルも登場するそうですよ。
★ここがポイント★
メルセデス・ベンツCLSが登場した時、カリーナEDと同じ発想のクルマだとは気づきませんでした。まったく新しいコンセプトのクルマに見えたんですね。同じようなアイデアでも、時代が変われば新しい鉱脈につながったりします。日本の4ドアクーペは、デビューが早すぎたのかもしれません。
スタイリッシュなクルマという意味では、2ドアのメルセデス・ベンツCLもそうだったのですが、CLSはドアが4枚。実用面だけでなく、デザイン的にもそれで重厚感がぐっと増しているのが不思議ですね。実際には、CLよりCLSの方が一回り小さなクルマなのですけど。
もっとも、CLより小さいとはいえCLSは十分に大柄なクルマです。屋根がリアに向かって下がっているので、室内空間の確保には不利な形ですが、そのボディーサイズのおかげで、車内は狭苦しいというほどではありません。今回試乗・撮影したアウディA7スポーツバックも、全長が5mに迫る堂々としたボディーの持ち主。20年前の日本のモデルとはそこが違います。
一方で、私が今乗っているCLAシューティングブレークは、日本で乗るにはちょうどいいボディーサイズの持ち主。しかも、CLSと同じ方向性のデザインなのに、お値段はぐんとリーズナブル! 最先端のトレンドにそったクルマでもありますし、とても気に入っています。
(文=吉田由美/写真=小林俊樹)
[ガズー編集部]
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第1回 EV、PHV、FCV?
第2回 ダウンサイジングってなに?
第3回 自動運転は本当に実現するの?
第4回 トレンドカラーってどう決まる?
第5回 スポーツカー復活の流れはホンモノ?
第6回 フロントグリルはもっと大きくなる?
第7回 ディーゼル車は環境にやさしいの?
第8回 日本でミニバンが人気なのはなぜ?
第9回 コンパクトSUVが流行している理由は?
第10回 「ITS Connect」ってどこがすごいの?
第11回 日本カー・オブ・ザ・イヤーで見えたトレンドとは?
第12回 4WDにはどんなメリットがあるの?
第13回 軽自動車はこれからどうなる?
第14回 モジュール化ってなに?
第15回 4ドアクーペは何が新しい?
第16回 シートアレンジの進化は止まらない?
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