今に続くハイブリッドカーのパイオニア 初代「トヨタ・プリウス」を振り返る・・・懐かしの名車をプレイバック
自動車の世界では主流といっていいほど当たり前の存在となったハイブリッドカー。その大きな流れの始まりは、およそ30年前に生まれたこの一台にあった。地球環境に配慮しつつ、クルマの楽しさも追求した初代「プリウス」について、清水草一が熱く語る。
初代から「究極かつ無敵」
初代プリウス。それは自動車史にさんぜんと輝くクルマである。
まず1995年の東京モーターショーに参考出品車として展示され、その約2年後、1997年10月に誕生した。「21世紀に間にあいました。」というキャッチコピーは、それが革命であることをわかりやすく表現していた。
このクルマを振り返って、何が一番すごかったのかを考えると、世界初の量産ハイブリッドカーでありながら、最初から極限のエネルギー効率を実現するトヨタ・ハイブリッド・システム(THS)を搭載していたことだと断言できる。
初代プリウスの現役時代は、ついにライバルが出現しなかったので比較できなかったが、後に登場したライバルたちは、燃費において、なかなか初代プリウスの壁を破れなかった。
ミラーサイクル方式の1NZ-FXE型ガソリンエンジンと、1CM型永久磁石式同期モーターを併用して動力を発生するそのシステムは、エンジンとふたつのモーター/ジェネレーターの連接に、プラネタリーギアを使っている。当時、プリウスの開発陣は、80種類ものハイブリッドシステムを検討した末、この方式を最善と判断したという。
なぜなら性能目標が、「燃費でカソリン車の2倍」だったからだ。1.5倍なら比較的簡単だが、2倍にするには究極の方式を選ぶ必要がある。結果的にこの選択は正しく、ライバルたちは現在に至るまでTHSに追いつくことができていない。プリウスは初代から究極かつ無敵の存在だったのである。あまりにも無敵すぎて、多くの海外メーカーはハイブリッドカー市場に参入することを諦めるほどだった。
価値観を変えてしまうすごさ
デザインは、当時まだメインストリームだった5ナンバーの4ドアセダンが選ばれた。ただ、そのフォルムは、ずんぐりとしたユニークなもので、空気抵抗が小さいにもかかわらず、まったく速そうには見えず、スピードとは真逆の価値観、つまり「遅いことは素晴らしい!」とうたっているように思えた。
その走りはまさしく、速さという呪縛からの脱却だった。加えて、ガソリンエンジンと電気モーターの絶妙なハーモニーに、それまで感じたことのない面白さがあった。
しかし、初代プリウスのすごさを世間が認識するまでには、多少時間が必要だった。特にクルマ好きと呼ばれる層には「敵」と認識され、言葉の迫害(?)を受けた。クルマ好きほどプリウスを、「あんなつまらないクルマ」扱いしたのである。
実を言えば、私自身、初代プリウスのすごさを本当の意味で実感したのは、登場の11年後に中古で購入してからのことである。
その頃すでにプリウスは、3代目にバトンタッチしようとしていた。プリウスは2代目が大ヒットし、ハイブリッドカーは完全に市民権を得ていた。だからこそあえて、その原点である初代に乗るべきだと考えたのである。
まるで男女の会話のように
プリウスとの生活は、遅まきながらカーライフの革命だった。スピードを捨てて燃費を追求して走ることがこんなに楽しいとは! それは日常のモータースポーツであり、平凡な一日を金メダル争いに変える刺激性を持っていた。
その頃になっても、まだ多くのクルマ好きは「ハイブリッドカーなど何が面白いんだ」と言い放っていたものだが、彼らに私はこう答えた。「燃費だよ!」と。彼らはけげんな顔をして「燃費が面白いんですか?」と問い返す。私は畳みかける。「燃費ほど面白いものはないよ!」
毎日プリウスに乗っていると、エンジンとモーターが「男と女」に思えてきた。男と女の関係は実に深淵(しんえん)かつ微妙で、単純化は不可能。初代プリウスのTHSを動かしていると、男女の会話を聞いているようで、「いま男は何と言ったのか」「それに女はなんと答えたのか」と推しはかるようになった。
初代プリウスのTHSは、まだ制御に粗さがあり、男女の会話がはっきり聞こえたが、2代目以降はぐっと滑らかになり、何を言っているのかわからなくなった。そういう意味でも、初代プリウスは、アクセル操作のしがいがあるクルマだった。
それ以外にも、初代プリウスには多くの美点があった。ふんわりした足まわりはハイドロニューマチックサスペンションのシトロエンを思わせたし、風船のように膨らんだフォルムは居住性にすぐれていた。初代プリウスはデザイン的にも、2代目・3代目よりはるかに哲学的で深淵だった。
走行6万km台で購入した私の初代プリウス(後期型)は、「スカイラインGT-R」のガンメタリックに全塗装されて「大和」と名づけられ、10万kmまで無敵を誇った後に、ハイブリッドバッテリーが息絶えて廃車となった。それは感動的な完全燃焼であった。
(文=清水草一)
初代トヨタ・プリウス(1997年~2003年)解説
プリウスは1997年10月にデビューした、世界初の量産ハイブリッドカー。20世紀型のクルマづくりとは全く異なる価値観をコンセプトに生かし、それを先進技術によって実現した、まさに21世紀のクルマの先駆けであった。
ハイブリッドシステムは新開発のハイブリッド専用1.5リッターエンジンに電気モーター、ニッケル水素バッテリーを組み合わせたもので、発売当初のカタログ燃費(10・15モード)は28.0km/リッター。従来のガソリンエンジン搭載のAT車に対し約2倍の燃費性能を実現し、CO2の排出量を約2分の1にまで削減した。
環境性能のみならず、ドライブフィールのほか、メーターパネルの“カメ”型インジケーターなどで独特の世界観もアピール。デビューイヤーの1997年には、1997-1998日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞している。
初代トヨタ・プリウス諸元
乗車定員:5人
車両型式: HK-NHW10
重量:1,240kg
全長:4,275mm
全幅:1,695mm
全高:1,490mm
ホイールベース:2,550mm
エンジン型式:1NZ-FXE
エンジン種類:直列4気筒+モーター
排気量:1,496cc
最高出力:58PS/4000rpm
最大トルク:10.4kgf·m/4000rpm
サスペンション形式: (前)ストラット式、(後)イータビーム
(GAZOO編集部)
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