【ラリージャパンを1000倍楽しもう!】WRCドライバー勝田貴元選手が見た『世界のラリー観戦の楽しみ方』

世界ラリー選手権(WRC)で戦う日本人ドライバー勝田貴元選手。トヨタの若手ラリードライバー育成プログラム、TOYOTA GAZOO Racing WRCチャレンジプログラムで今シーズンはWRCフル参戦が決定!! すでに2戦を終えてランキング7位と健闘中です。

GAZOO.comではそんな勝田選手に以前も何度かお話を伺ってきましたが、今回は「世界各国のラリーファンはどんな感じで観戦を楽しんでいるのか?」についてリモートインタビューで伺ってみました!  
インタビュアーは、WRCでの取材経験も豊富なモータースポーツジャーナリスト、古賀敬介(こがけいすけ)さんです。

WRCフル参戦の2021年、2戦を終えて総合7位!!

――WRC第2戦アークティック・ラリー・フィンランド、お疲れさまでした。開幕戦ラリー・モンテカルロ、そして今回のアークティックと、2戦連続で雪の上を走るラリーでしたが、モンテカルロではWRC自己最高位となる総合6位でフィニッシュしましたね。

勝田:はい。今年からタイヤのサプライヤーがミシュランからピレリに変わったのですが、開幕戦モンテカルロでは新しいピレリのターマック(舗装路)用タイヤをテストできないまま最初のステージに臨み、なおかつ朝早く暗い中でスタートするのも難しかったのですが、全部のステージを走りきることができました。
ステージによっては4、5番手タイムでしたし、区間タイムも速かったのはポジティブな部分ですが、やはりドライバーなので総合6位という結果には心からは満足していません。それでも、次回に向けて大きな手応えを感じましたし、改善点も明確になりました。

――続く第2戦アークティック・ラリー・フィンランドはWRC初開催でしたが、勝田選手は以前にその前身イベントである「アークティック・ラップランド・ラリー」に3回出たことがありましたよね?

勝田:2016年にスバルWRX STIで、2017年と2018年にはフォード・フィエスタR5で出ました。それなりに経験があるラリーですし、僕自身ハイスピードなスノーラリーには自信を持っていたので、正直なところ総合6位という結果には不満が残ります。もっと速く走れたはずですし、いいタイムを出せたとも思うので、残念に思う部分もあります。それでも、いろいろなことを学びながら、最後まで走りきれたのは良かったですが。

――今回はワークスチームのクルマも含めヤリスWRCのセッティングが全体的に完璧ではなく、勝田選手だけでなく、昨年スノーラリーのWRCスウェーデンで優勝したエルフィン・エバンス選手や、世界王者のセバスチャン・オジエ選手も表彰台争いに加わることができませんでした。そう考えれば、総合5位エバンス選手と約36秒差の総合6位は、決して悪くない結果だと思うのですが?

勝田:そう思ってもらえるのは嬉しいですが、でも、同じクルマで出場したカッレ(ロバンペラ)は総合2位だったので、自分に足りていないものはあったと思います。もっと経験を積んで、走りを改善しなければならないと実感しました。

――ロバンペラ選手は8才くらいから凍った湖の上でドリフトをして腕を磨いていたようですね。まだ20才ですが、凍った道での経験値は非常に高いし、スノーラリーでは1、2を競う速さがあります。勝田選手はそんなロバンペラ選手と普段から仲がいいんですよね?

勝田:はい。今回のラリーの前にも凍った湖の上で一緒にドリフトのトレーニングをしました。開幕戦もそうでしたが、今回のアークティックも新型コロナ禍で無観客大会となり、フィンランドのファンの人たちはみんな本当に残念がっていました。凍った湖は個人の私有地で、僕らはちゃんと許可を得て走ったのですが、その情報をつかんだカッレのファンが、遠くから何時間も走って会いに来ていました。
「今年はラリーをステージで観戦できず、寂しいから来た」と。

世界のラリー観戦スタイルとクルマ事情

――フィンランドでラリーは国民的なスポーツですからね。夏にはグラベル(未舗装路)のラリー・フィンランドが毎年開催されていますが、冬のラリー・フィンランドもさぞかし生で見たかったでしょうね。

勝田:北欧では、生活の中に普通にラリーがありますし、みんな本当によく見ています。一方で、南ヨーロッパや南米では1年に1回のお祭り的な雰囲気ですね。ファンはとても熱狂的ですし、スポーツ観戦というよりも、お祭りに参加している感覚だと思います。
バーベキューをやりながら、そのついでにクルマの走りを見るとか、いろいろな楽しみ方をしていますね。ステージを全開で走っていると、クルマの中にバーベキューのいい匂いが入ってきたりもします(笑)。
ポルトガルでクルマが止まってしまった時は、観戦していた人にバーベキューをご馳走になったりもしました。とにかく皆さんラリーを楽しんでいて、こういう文化が日本にもあったらいいし、当たり前になったらいいなあと思います。

――海外では本当にさまざまな観戦スタイルがあって、それぞれの楽しみ方をしていますよね。高い木の上にイスを固定するグッズが販売されているのも見たことがありますよ。

――勝田選手は今、フィンランドに住んでいますよね。雪はどれくらいの期間降るのですか?

勝田:僕が住んでいる中部のユバスキュラは、11月頃から降り始め、12月に入ると本格的に降り、3月いっぱいまで雪は残っています。でも、アークティック・ラリー・フィンランドが行われたもっと北のほうは5月でも雪が降ります。今回テストをした時はマイナス30度で、北欧に住んでいるのに「北欧にいるなあ」という感じがしました(笑)。

――日常生活の足はクルマになるわけですよね? お年を召した方もクルマで雪道を走っていたりするのでしょうか?

勝田:はい。冬は道が全面的に凍っているので、高齢の方も普通にクルマで買い物に行ったりしています。もう凄いですよ。横滑りの制御をバリバリに使って走っているし、制御のない古い車でもアンダーを出しながらも上手く姿勢をコントロールしている。それが当たり前のことなんですよね。若い頃からずっとそういう道で走ってきたから、滑るのが普通なんです。
僕は数年前からフィンランドに住んでいますが「こういう環境だからこそ、速いラリードライバーがたくさん生まれるんだな」と実感しました。

――フィンランドでは、やはりWRC に出ているメーカーのクルマは人気があるのでしょうか?

勝田:そうですね。今はトヨタがWRCで活躍しているので、トヨタのクルマが増えているように感じます。あまりにも多いので、街中を走っていても「あっ、トヨタ車だ」とか意識しないくらい普通に馴染んでいます。でも、フィンランドだけでなく、他のヨーロッパの国々でもWRCに出ているメーカーのクルマは人気がありますね。

――古いスバルや三菱を大事に乗っている人も多いですし、シュコダなんかもWRCに出て活躍するようになってからは、街中で見る機会が劇的に増えたように思います。やはり皆さん、ラリーカーの姿を自分のクルマに重ねているのでしょうね。

勝田選手が考える「ラリー観戦の楽しみ方」とは

――勝田選手は、ラリーのどのような部分が人を惹きつけるのだと思いますか?

勝田:『非日常を味わえること』だと思います。普段自分のクルマで走っている一般道を、競技車両が全開で走っていく。50mくらいジャンプしたりもするし、そのギャップが魅力なんだと思います。実際に自分がその場にいて『現実』なんだけれど、ラリーカーが走ると『非現実的なシーン』になる。サーキットは道が広く観客席とも距離があるので、走りの凄さが分かりにくい部分もあります。でも、ラリーは普通の人にも凄さが伝わりやすいんです。
2019年にセントラルラリー愛知岐阜にトヨタヤリスWRC で出た時も、地元の人たちが「あの道で190km/h以上出すのかよ」と驚いていました。普段自分が慣れ親しんでいる道だからこそ、衝撃も大きいし、凄さを感じやすいのだと思います。

――しかし、ヨーロッパでラリー以外の時にそういった道を走っても、飛ばしているクルマは見かけないですよね?

勝田:はい。80km/h制限の道を83km/hで走っても違反をとられるくらいスピード制限がとても厳しいですし、みんなちゃんとルールを守っています。モータースポーツをやっているかやっていないか関係なく、みんなマナーがよくて大きな事故も少ないと思います。
フィンランドでラリーじゃない時に林道を飛ばしている人を、僕は1度も見たことがありません。そういった人はみんな競技者としてラリーに参加しますし、それが可能な環境が整っています。
僕個人としては、日本でも峠道に走りに行くのではなく、ラリードライバーになって競技に出ようと思ってもらえるようになったら嬉しいですね。そういう意識が強まれば、事故も少なくなるだろうし、モータースポーツをすることが安全運転にも繋がるんじゃないかと思います。

――話しを今シーズンのWRCに戻しますが、今年勝田選手はヤリスWRCで全12戦に出ることになりました。WRCにフル参戦する日本人選手は、恐らく勝田選手が初めてだと思いますが?

勝田:とても貴重な機会を与えてもらい、本当に感謝しています。全戦に出る中で、自分のスピードや、持っているものを見せなければいけないと思っています。
このラリーでは結果を求めてプッシュする、サバイバル色が強いラリーでは経験を得ることを重視して走るなど、メリハリをつけて戦い、特に北欧のハイスピードラリーでは速さを見せ、皆さんに良い結果を報告できるように戦いたいと思っています。
それだけにアークティックの結果には満足できませんが、この先ラリー・エストニアや、夏のラリー・フィンランドなど、自分が得意な高速グラベルラリーが控えているので、そこでは結果を出しにいきます。
そして、最終戦のラリー・ジャパンに関しては、日本のファンの方々、そしてラリーをあまり知らない皆さんにファンになってもらうためにも、ただただ結果を求めて全開で戦います。今から気合いが入っていますし、とても楽しみです。

――ラリー・ジャパンでは、ファンの皆さんにどのようにラリーを楽しんでほしいですか?

勝田:ラリーにはいろいろな観戦スタイルがあります。まず、ステージに行けば全開で走る競技車両を目の前で見ることができますし、クルマとの距離がとても近いので、その迫力を満喫することができます。また、タイムアタックで1台ずつ走ってくるので、それぞれのドライバーの走りかたの違いを比較することもできます。でも、ステージに行かなくとも楽しめるのがラリーなんです。

――サービスパークでもクルマや選手を近いところで見ることができますし、移動区間のロードセクションでもラリーカーを見たり応援することができますよね。

勝田:はい。移動区間は僕らも一般道を交通ルールに従ってゆっくり走るので、たまたまラリーカーが横に並ぶこともあります。また、僕らはステージとステージの間に、どこかのパーキングスペースにクルマを止めてタイヤを交換することもあります。そういうシーンに遭遇する可能性が高い競技なので、それを見るもの面白いと思います。
もし、時間や気持ちに余裕があれば、ドライバーも写真撮影やサインなどファンサービスをしてくれるはずです。今はコロナ禍なので、終息するまではちょっと難しいかもしれませんが、どのラリードライバーも基本的にはとてもフレンドリーなので。
僕も、スタート前に時間待ちをしている時などは、よく話しかけられますし、一緒に写真を撮ったりサインをしたりしています。ラリーではごく普通のことですね。

――今年こそラリー・ジャパンが開催されることを心から願っていますが、今から楽しみにしているファンの皆さんに、メッセージをお願いします。

勝田:僕にとっては初めて経験する母国での世界選手権です。日本以外のラリーに出ている時でも、母国の人の応援というのはすごく力になりますし、ましてやそれが自分の国だったり、自分が生まれ育った愛知県だったりしたら、本当に大きな力になるでしょうし、さらに頑張れるだろうと思うので、今から楽しみでしかたありません。モチベーションは半端ないです。僕は参加者ではありますけど、活躍することでいい大会にするお手伝いができたら嬉しいです。皆さん、ラリー・ジャパンでは応援よろしくお願いいたします!

<インタビュー・文:古賀敬介 写真:古賀敬介・トヨタ自動車>

 

古賀敬介(こがけいすけ)
モータースポーツジャーナリスト/フォトグラファー。
1967年東京生まれ。幼少期のスーパーカーブームでクルマに興味を持ち、大学生時代の夏休みに訪れたラリー・フィンランド(1000湖ラリー)をキッカケにWRCを中心としたモータースポーツ記者として雑誌編集部などで執筆を行う。勝田貴元選手のことは、全日本ラリー選手権の王者である父・範彦選手の子供であることで昔から知っており、祖父の照夫氏が当時中学生でレース活動をしていた貴元選手を連れてトミ・マキネン氏のファクトリーを訪れ、はじめてWRCカーの同乗体験をした瞬間も見守っていたという。コロナ禍の現在は国内でサーキット取材を行いつつ、WRCをリモートで取材。現地取材再開のタイミングを見計らっている。

[ガズー編集部]

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