【ラリージャパンを1000倍楽しもう!】前例のないイベントをたっぷりと仕込んでいきながら、WRC開催を推進する岡崎市。そのパワーの源とは!?
2021年11月11日~14日、愛知岐阜地方で開催される予定のWRCラリージャパン。そのSS(スペシャルステージ)の設定されている開催地のひとつ愛知県岡崎市は愛知県の中心に近いところに位置した人口38万人の街である。
岡崎市は、そのWRC開催に向け、当初開催予定であった2020年11月の日程を使って「ラリージャパン2021の1年前イベント」として、ラリージャパン2020での設定SSとは異なった、市の中心部を使ったイベントを開催。
このイベントでは名鉄名古屋本線・東岡崎駅から岡崎市のシンボルともなる岡崎城を有する岡崎公園までの市の中心部の広大な地域をイベント会場として設定。
「アルペンクラシックカーラリー(ACCR)」の走行ルートをその中に配し、既存の自動車関連イベント「クルまぱーく」も併せて開催するなど、さまざまな市民交流とラリー啓蒙コンテンツ満載のイベントを行なった。
特に、実際に車両を走行させるイベントとなったACCRでは、岡崎中心部を流れる乙川河川敷にSS(スペシャルステージ=競技区間)を設定。さらに岡崎城の敷地内を通るルートがリエゾン(移動区間)として設定された。
その競技の様子は大々的に配信されるなど内外に強烈なインパクトを与え、岡崎市でのラリージャパンに対する大きな期待を感じさせるものとなった。
このラリー関連のイベントは、もちろん岡崎市民の多大なる協力の下に実現しているわけだが、これを仕掛けたのが岡崎市社会文化部スポーツ振興課である。これだけのイベントを仕掛けるには、課の職員の理解と努力が欠かせなかったはずだが、そのスポーツ振興課を率いる山田能正課長に話を訊いた。
モータースポーツに理解のある岡崎市ですが、単に私が個人的にラリー好きだったんです
まずはラリーについて伺ってみると、山田課長はもともとラリーが好きだったという。
「本当のクルマ好きという方には失礼なレベルですけど、自分たちはスーパーカー世代ですからクルマは好きですね。TVでラリー番組なんかも放映されていた時代ですから、モータースポーツも好きで、中でもラリーは好きでした。カンクネンとかオリオールとかが活躍していたころくらいですかね?」
「ラリーって石畳の道路だったり雪道だったり、世界中のいろんな一般道を走ってるっていうところがやっぱり面白かったですね。ただ、その頃がラリー熱のピークで、北海道でのラリージャパン開催の時はあまり印象無いんです。でも今回は完全に自分事です。まさかあのラリーが愛知県に来るなんて、って感じですね」
スポーツ振興課は市内の主に社会体育の中でスポーツの振興をしていくという部署。
「たとえば市民体育祭であるとか市民を対象にしてスポーツを行なってきっかけづくりをしたり、他にも、スポーツの場を提供するということで、スポーツ施設の整備を行なってもいます。このラリージャパンについても『スポーツを観る』という点から我々が担当するわけです」
「ラリーといえば愛知県では以前から新城ラリーが開催されていました。本宮山のコース(鬼久保ステージ)には一部岡崎が含まれています。そこから、もっと岡崎市内のほうでラリーを展開してくれないか、とラリージャパン事務局に働き掛けをしまして、岡崎市内の額田地区と中央総合公園でのコース設定をしていただきました」
「もちろん、そのために周辺の管理する部署を集めて、誘致協力の依頼をし、実際の開催地候補の場所にも声を掛けたり、協力を仰ぎながら進めていきました」
「最初はとりあえず岡崎という名前をアピールしたかったんですよ。コースが無理だったら、給油ポイントはどうだ?とかね。それで『こういったところも使えますよ』って提案をして行く中で、担当のスタッフが柔軟にいろいろ考えてくれ、昨年11月にACCRで岡崎公園を走ったような街中SSという案が生まれてきました」
「岡崎ということが一番わかりやすい岡崎城を使っていただく分にはウエルカムで全く支障はなかったですね。この最初の提案ではコースが短くてSSが設定できないと言われましたが、SSとして成り立つくらいの長いコースを考えたり、といろいろとやり取りは続いています」
そんな事務局とのやり取り、そして地元への説明、さらに企画提案を行なっているのはスポーツ振興課のスタッフとなる。
「特に音羽と小川という2人が自主的にやってくれていて、彼らにはほぼ『放し飼い状態』で任せています(笑)。私が考えるよりいいアイデアを出してくれて、変に話を差し挟まなくても、二人が考えていったほうが良いアイデアが出てくるので」と部下に全幅の信頼を寄せる。
昨年11月はその1年前イベントとその直前に行われた『ラリーミュージアムin岡崎』などイベントが盛りだくさんとなった。
「ラリーだけじゃなく、関係する部署もいろいろと協力していただき、それぞれが違うイベントですけど、いろんな課が一緒に同じ日にイベントをやることで、街全体、エリア全体が盛り上がっていきました。ラリーを通じて、人脈も広がって、ほんとうにいい効果が生まれています」という。
「ラリージャパン本番に向けて、コロナ禍ではありますが多くの方に観戦に来ていただいて、ラリーという競技の楽しさ、イベントも楽しんでもらって、なおかつ岡崎市の良さも知ってもらいたいですね。そして、来年も見に行きたいという楽しい思い出がたくさんつながっていって、日本にラリーが定着していってくれるといいかなと思っています。そうした思いで岡崎市としてラリーの誘致活動を行なっていますし、岡崎市が日本全国、さらには世界にPRできればいいなと思っています」と語ってくれた。
「一年前イベント」と題して、市の中心部で開催されたのがACCRのラリー、そしてヤリスWRCのデモラン。多くの市民がこれを目にした。また、市民の新しいいこいの場となる桜城橋の橋上でのラリーカーの展示も行われた
ラリーウィークとして商業施設イオンモール岡崎では「ラリーミュージアムin岡崎」というラリー関連のグッズを並べた展示会も開催。子ども向けのスタンプラリーやトークショーなども行なった
市庁舎内部はもちろん外部事業者も巻き込んで、ラリージャパン事務局にも声を届ける
岡崎市役所スポーツ振興課の山田課長の下には現在16名のスタッフがいる。その中でも音羽智樹氏、小川貴之氏は、ラリージャパンに向けた準備を担当する先鋒ともいえる存在である。各種イベントを取り仕切り、山田課長の言う通り、「放牧」されて次々と新たな企画を提案している。そんなふたりにも話を聞いた。
「岡崎市民ってすごく真面目なんです。たとえば、こういったイベントをやりたいんだけどって話をしに行くと、賛成・反対といった反応だけでなく、関心を持っていろいろな意見を言っていただけるのですが、それぞれが自分の利益を考えてってよりは、他人のことを考えて意見するって方が多いんです」
「そして、それぞれが『わかった、やるよ』ってなると、今度はすごい協力してくれるんですよ。『自分の立場から言うべきことは言った』、『わかってもらったうえで、やることをやってもらった』、『だから協力もしっかりする』って感じで。勝手にどうぞっていう無責任な感じはあまりないという印象ですね」と音羽氏。
岡崎市といえば元F1ドライバー中嶋 悟選手の出身地でもあるだけに理解は早いのかもしれない。
「モータースポーツの話をしに行けばやはり中嶋ファミリーの話は出てきますし、ラリーとは違いますけど、岡崎ではモータースポーツへの理解はありますね」と語る。
令和2年時点で岡崎市内には555もの町内会があり、それぞれが9割を超える加入率を誇る。
小川氏は「町内会の総代さんや役員さんに話をすれば、町民の方にも話が伝わってくれるので、地元の方との交渉ではすごく助かっています」と岡崎の特徴を語る。
そんな感じで地元への理解を求め、WRC誘致の協力を求めていったという。
それにもまして、二人は周りを大きく巻き込んでいくタイプでもある。
「私たち2人は、もともとラリーが好きだったわけでも無く、正直この話が来るまで興味がなかった側で、逆にクルマ好きの山田課長がやっていたほうが良かったかもしれないって思うくらいです」
「でも好きな人って必ずどの地域にもいて、そういった方々といろんなタイミングで巡り合うことができて、そんな方々にはお願いした仕事以上の“無償の岡崎愛”でいろいろやっていただいていて支えられています」
小川氏は経済振興部でまちづくりの部署から昨年度スポーツ振興課に異動し、ラリーの担当となった。
「縦割りだと、あるひとつのスポーツの振興ってことだけを考えて『ラリージャパンがやって来るから観ましょう』だけのPR 活動で終わってしまいます。でもそれだけではなく、商業者が儲かる仕組みであったり、街が盛り上がる仕組みみたいなところをすごく意識して、街ぐるみでみんなで応援していこうっていう広い視点を持つようには注意しています」
音羽氏は「こうじゃないといけないってことにあまり捉われていないというのが僕らの持ち味ですね。なんか市役所の仕事っぽくないじゃないですか、この仕事。いろんなアイデアを出して、それを実現するためにどうやったらできるだろうね?って、“やれない理由探し”じゃなくて、“やれるために何をするか”ってポジティブに考える派なので、2人で風呂敷を広げてアクセル踏んでます。放牧してくれる理解のある上司にも恵まれましたしね!」
「トライアンドエラーでやっていってますけど、思ったことをカタチにするにはどうしたらいいかということを、あまり制限を設けずスピーディな仕組みの中でやっていっています。ラリージャパン事務局からしたら、あの人たちおかしいんじゃないのって話になっているみたいですけど・・・(笑)」
ラリージャパン開催まであと半年ちょっと。
「市民が期待していると思ってやっているので、その期待に応えるように、もっと言うと期待越えのものを作れたらと思います」という言葉を発している岡崎市スポーツ振興課の盛り上げにこれからも期待していきたい。
今回、撮影のために岡崎城を有する岡崎公園へ。ここでもどういう動線ならクルマがスムーズに動いていけるのか、リグループするための駐車スペースはとか、絵撮りをするならここのほうが良いからこのルートに変更したら? と次々とアイデアの提案と検討がつづく
実は、筆者は、昨年開催された1年前イベント前後から岡崎市の活動にも協力している一人、である。そこで感じていたのは、なんだか熱い。不思議に熱い。そんな印象だった。
いわゆる一般的に思われているお役所的な感じはない。
これまでいろんなイベントを取材する中で、なかには熱い担当者が居て、その人だけが空回りをしているという状況もあったりするが、この岡崎市役所スポーツ振興課はなんとなくまとまりもあり、それが好印象であるから、いろいろとお手伝いをしていたりもする。
提案力もすごいものがある。
なんだか文化祭のノリのようだが、何かぽろっと出てきたアイデアを「それは無理だよ」と片付ける大人な対応ではなく、真摯に向き合っていく。
ACCRがリエゾンとして岡崎公園内を走行したのもそういったことである。公園内をクルマが走るなんて、と普通なら思うところだけれど、管理作業車両と同じにすればいいじゃん、という柔軟な感じ。
さらに乙川という、岡崎市民が大切にする川の河川敷もヤリスWRCが激走した。まさに市の中心部、であって、ここをWRカーが走行した、というのは驚愕以外の何物でもない。
その河川敷のコースの監修はPWRC世界チャンピオン経験もあるトップラリードライバーの新井敏弘選手であるし、その際の会場実況中継は国内トップカテゴリーのレース実況アナウンサーとして有名なピエール北川氏であった。
やることが本格的なイベント屋のレベル、である。
もちろん、市役所の業務すべてにおいて、そんな突飛な感じではないだろうし、たまたまこのスポーツ振興課に、たまたまラリージャパンというコンテンツに合った「お祭り屋」的人材が居合わせたのかもしれないが、このメンバーならば、すばらしいラリージャパン岡崎SSが実現するのではないか、と思う。
(文、写真:青山義明 取材協力:岡崎市役所、岡崎公園)
[ガズー編集部]
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