[S耐クルマ好きFile/トヨタカローラ新茨城]ディーラーチームが目指す笑顔の好循環
10月31日~11月1日、岡山国際サーキットにて「ピレリスーパー耐久シリーズ」(以下 S耐)の第3戦が開催されました。
初戦富士、第2戦SUGOと天候に翻弄されたレースが続いたS耐ですが、岡山での2デイ開催は両日ともに今シーズン初のドライコンディションでのレースとなりました。
S耐でクルマを使って究極に楽しんでいる人を紹介するこの連載企画では、これまで長年参戦している「老舗チーム」を取材してきました。
今回は参戦2年目という若いチームながら、激戦必至のST-4クラスで開幕から2戦連続ポール・トゥ・ウィンを飾っている、トヨタカローラ新茨城を母体とする「C.S.I レーシング」に伺いました。
近年、86/BRZによるワンメイクレースや一般ドライバーも多く参戦するラリーチャレンジなどで、クルマの販売店チームが多数参戦しています。その流れは、参加型レースの最高峰であるS耐にも訪れていて、しかも、それは販売店としての業務の一環として行なわれています。
そこには、「クルマ好きを増やしたい」「レースで培う、より高い技術力をお客様に提供したい」「企業活動やリクルーティングに活用したい」などといった各販売店さまざまな考えがあるようです。
そんな販売店として参戦する意義やレース現場でチャレンジを続けるディーラーメカニックの方々の想いをうかがってきました。
まずはエントラント名の「C.S.Iレーシング」についてですが、実はこの名前はCOROLLA SHIN IBARAKI Racingを略したもの。つまりトヨタカローラ新茨城というディーラーが運営するチームです。
S耐参戦以前から86/BRZによるワンメイクレースやFIA F4などではすでにレース活動をしていた同社が、GR Garage水戸インターのオープンをきっかけに、今まで外部スタッフに頼っていたレース活動を全て社内に移し、メカニックやワンメイクレースのドライバーなども社員が務めているそう。さらに、GR Garageの活動をより本気で進めるにあたり、新たに自社チームを立ち上げてS耐への参戦を決意したとのこと。
チーム責任者の伊坂浩之さんは「ウチの社員がプロと一緒に本物のレースを経験することにより、技術や知識を得られるし、スタッフを育てることができると考え、アマチュアでも参戦可能なレースの最高峰であるS耐を選びました」とその参戦理由がスタッフ育成の一環だと語ってくれました。
そのS耐に参戦してみて、伊坂さんは「もうすべてが初体験です。私もメカニック出身なのですが、ディーラーでの整備では経験できない故障をすることがあります。だからモノの見方も変わってきますよね。GR Garageはサーキット走行したりするお客様も多く、そうした方のクルマの修理方法を身に付けることができてきています」と、その効果を実感しているようです。
さらに、「お客様にレースとかクルマってこんなに楽しいんですよ!とか、お客様のクルマをこういう風にすると、こういう走りができますよ!とお伝えするにはこの方法が一番真実味があると思うんです」と続けます。
確かに、経験からくる言葉って伝わることが多いですよね。
レースエンジニアを務める市毛昌平さんは、普段はGR Garage水戸インターに勤務しています
C.S.Iレーシングではプロドライバー達を支えるエンジニア、メカニックは、現在プロとディーラー社員の混合チームですが、ここでプロと一緒にレースを戦い得られる経験はとても大きな財産になるそうです。
予選と決勝の間の忙しい時間にも関わらず、レースエンジニアを務める市毛昌平さんには快くインタビューにご対応いただきました。
「今まで経験してきたワンメイクレースと比べればS耐は改造範囲がとても広いのが大きな特徴だと思います。また、今まで自分の関わってきたレースよりS耐はプロの方々の意識も、作業に求められる精度もものすごく高いと感じています」
「耐久レースはクルマにとって過酷なのでクルマが壊れてしまうこともありますし、作業の精度が甘いとすぐにトラブルに直結してしまうことも再認識しました。そんな厳しさの中から高いレベルの作業を学び、一般のお客様の整備にも生かすことができたら、と考えています。」とのこと。
これまでS耐で得られた経験は、86によるワンメイクレースなどの現場でも活かされて、なかでもタイヤの内圧や車高のノウハウに関してはすでに大きく役立っているそうです。
コロナウイルス拡大の影響からディーラーメカニックの皆さんの開幕戦への参加には慎重論があったといいますが、皆さんの熱い思いに会社も参加を許したそう
『走れるムードメーカー』がチームをプロデュース
とは言え伊坂さんも含め社内の誰もがレースに関しては素人でした。そこでプロドライバーの久保凜太郎選手に全てを託すという大胆な作戦をとることに!!
伊坂さんは「まるっきり自分は素人でレース関係の人脈もなかったのでレースに必要なモノ、コトを全て久保選手に揃えてもらいました。ホント久保選手がいなかったらスタートすらできませんでしたよ」と当時を振り返ります。
それを受けて久保選手も「僕もそう思います(笑)。ドライバーというよりチームのマネジメントをやらせてもらっています。2人のドライバーやプロのメカニック、テントからチームウェア、そもそもクルマの発注から製作の依頼までやりましたね。準備期間に一年くらいかかりましたが、このS耐に『GR Garageとして初めて参戦したい』という思いで進めてきました」と説明してくれた際の目には充実感が漂います。
さらに、昨年は筑波サーキットを貸し切って社員自ら走る機会を作ったりチームのPRまで担当するなど、まさに八面六臂の大活躍!!
ディーラーチームであるC.S.IレーシングのS耐参戦のキーマンはなんと久保選手だったのです。
しかも久保選手、キーマンなだけでなく、ムードメーカーとしても大活躍なんです!
レースマネージャー石田絵美さん。レースの運営業務はもちろん、参戦報告の作成などを通じて、レースの現場の様子や皆さんの想いを社内外に発信しています。
チームの紅一点、レースマネージャーを務める石田絵美さんも全くレースは未知の世界だったそうで久保選手にイチから教わった一人。
S耐の最初の印象は「長丁場の耐久レースは何時間もずーっと同じところを走っているのが凄い」というレース初心者からのスタートです。
そんな石田さんは久保選手について「走りはもちろん素晴らしいと思います。そして何よりもチームの空気を作るムードメーカーで、私のようなド素人にも気さくに話しかけてくれます。会社のことも社員並みに考えてくれますし、もう全てが凄いと思います」と大絶賛!!
久保選手のムードメーカーぶりについて、チームメイトの細川慎弥選手も同感だそうです。
「凜太郎の無線はピット作業の最中でも、走っている時でも他のチームには聞かせられないくらいおちゃらけていて面白い。これこそがこのチームのいいところ」と褒め讃えながらも、さらに「2019年のチーム立ち上げ時のマシンって僕は走りにくいと感じていたんだけど、凛太郎はコーナー中でもちゃらけて喋りながらちゃんとタイムを出してくる。僕としてはちょっと戸惑いましたね」と、スーパーGTのGT500クラスでの勝利経験をもつ細川選手をしてこのコメント。
また、昨年は同じST-4のライバルチームTOM'S SPIRITのドライバーとしてS耐を戦っていたチームメイトの坪井翔選手は、「昨年のチームはみんなもっと真面目な顔してレースしてました。なのにこのチームと戦って負けたこともあるんですよ。こんなにおちゃらけているのに・・・マジかよと思いました」とポロリ。
誰に聞いても久保選手の評価は『走れるムードメーカー』。結果を求められるプロドライバーの2人も、ピリピリとしたレースの中で久保選手の明るさはとても大切だと感じているようです。
あとぜひとも無線を聞いてみたい!
スタートを控えたマシンの奥で、スーパー耐久公式キャラクター「すぱーく」くんに話しかける久保選手。「人に挨拶するときにはちゃんと帽子を取りなさい」とかなんとか申しておりました(笑)
でも、決して久保選手の軽快なトークだけで明るい雰囲気を作っているわけでもなさそうです。
北は宮城から南は大分まで、全国行脚のS耐ですが毎戦ホテルとサーキットの往復するクルマの運転手は公平にじゃんけんで決めるそうです。
今回取材を行った岡山戦では伊坂さんがなんと3連敗。伊坂さんはチームの責任者で会社の執行役員という肩書をお持ちですが、部下が後席でウトウトとしているクルマの運転手を粛々と勤めたそうです。
伊坂さんは「貫禄が無いからなのかなぁ、みんな友達感覚なんですよね」と笑いながら語りますが、そんな風通しの良さもこのチームの雰囲気を作っているのだと感じました。
S耐参戦がもたらしてくれる相乗効果
将来的にはGR Garageのメンバーを増やし、社員ドライバーのシートも用意したいとのことですが、現段階ではスーパーGTのトップドライバーも多く参戦するST-4のレベルはまだまだ高く、結果を出せるチームを作り上げ、GR Garageの知名度も上げていく時期だと語る伊坂さん。
しかし、S耐参戦をきっかけにその知名度も浸透してきたようで、他県からのお客さんも増えているようです。
また、GR Garageで働きたいというクルマ好きの就職希望者が増えているそうで、昨年は富士24時間レースに新人のメカニックの5人全員を連れて行ったとのことですが、みんな喜んで作業していたそうですよ。
久保選手が種を蒔いた真剣ななかにも明るさを失わないレーシングチーム「C.S.I レーシング」。
チームの現状について久保選手は、「プロとディーラーメカニック混合の体制であってもプロチームに劣っているところはないと感じてます。ただしこの先、チームの発展を考えていくのであれば一人一人の意識などプロから見ればまだ足りないところもあります」と未来を見据えたコメント。
ただ、販売店としてS耐を通じてクルマと真剣に向き合い、そこからチームメンバーが得ている充実感は、自社のスタッフはもちろん、お店を訪れるユーザーやこれから自動車産業に飛び込みたい学生にまでジワジワと浸透しているようです。
その充実感が関わる人たちを笑顔にしていき、その笑顔の輪がどんどん広がることが販売店としての活動の源となっていく。
さらにそれが企業としての社会貢献的価値を高めることで、有形無形の利益として帰ってくる。
S耐参戦を通して、そんな笑顔の好循環が広がっていきそうな気がしました。
まだ2年目の駆け出しの状態で、限られた予算、運営体制での参戦ではあるものの、そんな「笑顔の輪」という芽が着実に育ち、今後花を咲かせる日はそう遠くないように感じられました。
ポールスタートだった岡山戦だが、ST-4クラス5位でレースを終え連勝にストップがかかったものの、マシンの速さは健在!
第3戦岡山ではもう1チーム、TEAM NOPROにもお話をうかがっていますので、その記事も近日公開いたします。
お楽しみに!
執筆 / 撮影: 高橋 学 編集: 山崎リク(編集部)
[ガズー編集部]
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