[S耐クルマ好きFile/日本自動車大学校] 学生たちが授業で参戦!ドライバーを務める現役教師とともに超実践的メカニック修行!!

11月21日~22日、ツインリンクもてぎにて開催された「ピレリスーパー耐久シリーズ」(以下S耐)第4戦。GT3マシンからホンダフィットやトヨタヴィッツなど街で見かけることも多い身近なコンパクトカーまで50台を超えるマシンが参加し賑やかながら真剣なバトルが繰り広げられました。

さて今回、S耐でクルマを楽しんでいる、クルマの楽しさを広めようとしている人を紹介すべく取材したチームは、これまでのチームとは全く違う理由から参戦しています。

それは、「学生の教育」です。
本物のレース、しかもプロドライバーも多く参戦するハイレベルなS耐を教育の場として選んだのは「日本自動車大学校」。
ST-5クラスに学生たちが製作したマツダ・ロードスターで参戦する意図と学生たちの思い、そしてこのカリキュラムを実現し、学生たちと喜びを分かち合う熱き教師にお話しをうかがいました。

NATS卒業生の現役教師がステアリングを握る!

  • ST-5にマツダロードスター『ナチュラルチューニング☆クスコ☆NATS』で参戦している日本自動車大学校(NATS)

まずは、この「日本自動車大学校」(以下 NATS)ですが、その名の通り自動車について学ぶ専門学校です。自動車整備士の養成はもちろん、カスタマイズの世界のエンジニアを養成するカスタマイズ科や、レースメカニックを養成するモータースポーツ科、開発エンジニアを目指すコースなど多くのカリキュラムが用意されています。

そんななかで、S耐に参戦しているのはもちろんモータースポーツ科のみなさんです。

  • NATSの教師であり、現役ドライバーとしての顔も持つ金井先生

まずはモータースポーツ科の金井亮忠先生にお話を伺いました。金井先生は小学生の頃からレーシングカートを始め、高校時代には全日本カート選手権の東日本地区のチャンピオンを獲得したこともあるという実力の持ち主。
そして現在でも学生たちとS耐、JAF-F4に参戦している現役のレーシングドライバーでもあります。

そんな金井先生ですが、ご本人いわく実はレーシングドライバーとして上を目指して走り続けてきたわけではないとのことです。

奮闘する学生メカニックと、作業の指示を出す金井先生

「父親の夢がレーシングドライバーだったという理由で小学校の頃からカートを始めました。その頃はジュニアクラスとか無かったので大人と走っていましたね。当時は『将来の夢は?』と聞かれて“F1ドライバーになりたい!”って言わないとハングリー精神が足りない、なんて言われてしまう時代だったから、そう答えていた時期もありましたが、実はプロのレーシングドライバーになりたいと思ったことは一度もありません」と当時を振り返ります。

「もちろん走るのは楽しくて楽しくてしょうがなかったですし、実はモノづくりが大好きだったので、夢は自分でレーシングカーを作って自分でレースに出ることでした。そして、そのカテゴリーはどこでもよかったんです」と、教師でレーシングドライバーになる素地はこの頃からあったのですね。

カート大会でチャンピオンを獲ってもその想いは変わらず、高校卒業後は当時まだモータースポーツ科がなかったNATSへ進学しますが、その理由も「学校の設備、とりわけ工作機械を見たら入りたくなった」というから筋金入りの工作好き!?
在学中にモータースポーツ科が新設され、4年生の頃にはドライバーとして参加するようになり、卒業後は出身校で先生としてデビューを果たし、現在に至るそうです。

マシン作りもレース現場もすべてが勉強!

最初はナンバー付きのヴィッツやフォーミュラーカーのFJ1600での参戦から始まったというNATSの挑戦も、現在はJAF-F4およびS耐へと引き継がれています。
ボルト1本から加工するF4マシンと比べればモノづくりは全然少ないとはいえ、S耐は学生に人気のあるハコ車で高度なクルマ作りができるレースだからこそ、授業の一環としての参戦を決めたそうです。

マシン製作からレース運営まで学生たちが行う。これも授業の一環なのです

この特別な授業に参戦する学生の皆さんにもお話をうかがいたく、金井先生のご指名を受けたのが、NATSモータースポーツ科の学生で、S耐ではメカニック班の班長を務める豊福大樹さん。

豊福さんがクルマに興味を持ったのは金井先生とおなじく小学生の頃。
「モーターショーに展示していたスーパーGTのGT500参戦マシンを見て魅了されました」とこちらはそのカッコよさに惚れてクルマに目覚めたタイプ。
それからはずっとレース好きで、NATSへの入学前からモータースポーツ科への進学も決めていたそうです。

  • メカニック班の班長を務める豊福大樹さん

1年生の頃にST-5クラスに参戦する別チームの手伝いでS耐の現場を経験したという豊福さんは、その頃からノーマル車から作り上げたマシンで戦うS耐の魅力にハマっていったそうです。

そんな豊福さんにとって現在のNATSの活動は夢のような理想のプログラムですが、その第一印象は「まあ壊れること壊れること」と笑いながら話してくれました。

しかしながら、コロナ禍により今年のS耐参戦プログラムが始まったのは例年より遅い6月。サーキットに初めて来たという仲間もいる学生チームにもかかわらず、すべてのレースで決勝のグリッドにマシンを並べることができたうえに、初戦の24時間レースが9位、その後7位、5位と着々と順位を上げてきていることには満足気。

まだたったの3戦ながら、各々が自分のパートの作業をこなすスピードが上がってきていると感じているそうで、それが結果に結びついたと分析していました。

メカニックのまとめ役として、先生とのコミュニケーションも欠かせない

レース現場での経験が学生たちを急成長させる!!

学生たちの短期間での成長について金井先生は、「最初は素人だった学生がわずかな期間で育つのは、やっぱりレースという現場で学ぶからこそなんです」と教えてくれました。

「練習をいくら繰り返しても結果は見えません。レースだからこそすぐに結果が出るし、作業にミスがあればそれだけで順位は一気に落ちてしまいます。成功すれば自信になるし、悔しい思いをすればもっと練習しようという気持ちになる。だからこそレースへの参戦は教育としての効果はかなり高いと思っています」とのこと。

タイヤ無交換で臨んだ3時間レースの第2戦、第3戦とは違い、今回はタイヤ交換が必須の5時間レースでしたが、トラブルなくピット作業をこなしました。普段はちゃんとできる作業でもレースの現場では緊張のあまりミスすることもあるそうですが、今回のもてぎ戦ではこれまでの経験が活きたのでしょう。

レースを経験するたびに作業のスピードが上がってきたという学生メカニックたち

ただし、そうは言ってもキャリアはわずか半年あまり。やっぱり細かなミスはあるそうで、金井先生はドライバーとしてヒヤッとした事も経験しているとのこと。
「いろいろあるけど、付き合いきれないと思ったらこの仕事できないですよ(笑)。結局、学生のミスって実は学生のミスじゃなくて教えている側の責任であって、学生がなにかやらかしたらそれは教え方が悪いってボクは思うんです」と、先生としての責任と覚悟も背負って走っているんですね。

  • 話を伺った醍醐さん(左)と橋本さん(右)

そんな先生を「フレンドリーで変なプレッシャーもないから話しやすいんです。座学の授業もわかりやすいですよ。先生としても整備士としても尊敬しているし金井先生に頼まれたら頑張れるんです」と口を揃え教えてくれたのは醍醐楓さんと、橋本廣壱さんの2人。
先生との仲も良さそうで、レースのためなら多少の無理はへっちゃらだそうです。

またS耐のプログラムに参加している学生たちもみんな仲良しで、レースを離れてもみんなでご飯を食べにいったりしているそうです。
例年に比べタイトなスケジュールの中、無事に開幕戦から完走を続けているのも、このようなチームの雰囲気が力になっているのでしょう。

卒業生たちもモータースポーツ業界で活躍中

最後に、学生たちからの信頼も厚い金井先生が一番嫌いだという言葉を紹介します。
それは優勝した時に学生がかけてくれる「おめでとう」の言葉だそうです。
一瞬「???」となってしまいましたが、そこに金井先生の想いが込められているのです。

「勝利は、みんなでマシンを作ってみんなでレースを頑張ったから得られたものです。ボクだけが獲ったんじゃない。だからレースを終えてピットに戻ってきてソレを言われるのは嫌なんです」

もちろん他チームや周りの人に言われるのはすごく嬉しいものの、共に頑張った学生たちには自分の事として受け止めてもらってみんなで一緒に喜びたいという、教師と生徒という枠を超え同じゴールを目指す仲間としての熱い想いがひしひしと伝わりました。

この『みんなで取り組んでみんなで喜ぶ』精神こそが日本自動車大学校、モータースポーツ科の学生によるS耐参戦の意義なんだと感じたインタビューでした。

  • すっかり日が落ちた頃撤収作業がはじまります。2日間お疲れ様でした

自分たちで作ったレーシングカーでレースに参戦するという若かりし頃の夢を叶えた金井先生。次の夢をうかがってみると、「どこのサーキットに行っても卒業生たちが活躍してくれていて、『あっちもこっちもみんなNATSの卒業生だよ』みたいな感じで、モータースポーツが卒業生で盛り上がってくれればうれしいですよね」と語ってくれました。

インタビュー中、現在は他チームでメカニックとして奮闘している卒業生たちが数多くNATSチームのテントを訪れては、気軽に金井先生に声をかけていました。

次の夢が叶う日も、そう遠くないのかもしれません。

今シーズンのS耐も残り2戦! 12/13(日)にはオートポリスで年内ラストとなる5時間レースが開催されます!!

執筆 / 撮影: 高橋 学 編集: 山崎リク(編集部)

[ガズー編集部]

 

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