バイク乗りが「生涯乗り続ける」と断言するほど惚れ込んだ“Nっころ” ホンダN360
今から50年前、当時としては珍しかった豊富なカラーバリエーションや可愛らしい見た目が話題となり“Nっころ"の愛称で親しまれたホンダ・N360。
タミヤ・1/18チャレンジャーシリーズの名作キットのモデルにもなるほど認知度が高い「ツーリングS」というグレードであることや、ホンダ・S800の純正色であるゴールデンイエローに塗られたボディが一際目を引くのか、取材中も「これ、僕が初めて乗ったクルマや!久しぶりに見たわ」、「懐かしいなぁ。Nっころやん」と話しかけられ、インタビューが進まない事態も発生するほど大人気だった。
「今日は取材中だから、話しかけられない方ですよ。サービスエリアで人だかりが出来てるなと見に行ったら、僕のクルマやったみたいなこともあるくらいですから(笑)」と話してくれたオーナーの室田さん自身も、そんなN360に魅了された1人だ。
「実は10年以上前に別のN360を所有していたんですが、英国車に浮気をしてしまったんです。でも、やっぱり乗り味が忘れられなくて、もう1度愛車として迎え入れました。別れたら良い思い出しかなくて、やっぱりN360やなって」
若い頃に20台以上のバイクを乗り継いできたというバイク好きの室田さんにとって、9000rpmまで回りきるN360の空冷エンジンは、振動やメカニカルノイズの荒々しさが、まさにバイクそのものだと感じられたのだという。
「バイクはね、まだ乗りたい気持ちはあったんやけど、夏は暑いし冬は寒いから体力的にキツくなって降りたんです。それでクルマに乗り始めたわけやけど、N360に搭載されている空冷エンジンって、水冷エンジンのようにシリンダーの周りに冷却水の通路がないから、ノイズやバイブレーションがダイレクトに出てめちゃくちゃバイクっぽいんです。走っていると、隣の人と会話できないくらいうるさいけど(笑)。ナビの音声が聞き取れなくて、スピーカー増設したくらいですから」
そんな空冷並列2気筒エンジンの乗り味は最高とのことで、車重520kgを生かした軽やかな走りや、サスペンションストロークのあるフワフワした揺れがたまらなく好きだという。
高速道路は100km/h巡航が精一杯とのことだが、実はボアアップを施しており、50mなら現代の車を置き去りにするほどのダッシュ力を発揮するのがギャップがあってなおヨシとのこと。
「360ccと侮るなかれ。小さくても、速いんです。すごいんです」と得意気に言う室田さんからは、やはりN360に対するただならぬ愛を感じる。
「手がかかっているから、そのぶん思い入れが強くなっちゃうんです。メンテナンスやら、パーツがないやら、故障したやら、もー色々むっちゃ大変なんですから!ただ、そういうのを自分で何とかするのが面白い所でもあって」
“お弁当箱におかずが詰められているかのようにシンプルな構造”だからこそ、クルマに関して特別な知識や設備の整った場所が無くても、自分で何とかすることができるのだという。事実、エンジンやミッション関係はすべて独学で整備したそうだ。
「エンジンの載せ換えをしたのですが、現代のクルマみたいに電子制御やセンサーなども無くて複雑じゃないから、下にジャッキをあてて車体を浮かしてパカッと外す、本当にそんな感じなんです。当時のホンダにはディーラー制度がなくてバイク屋さんがクルマを販売してたので、バイクに似ていて簡単に整備できるようになっていたのかも?と思います。初めてエンジンルームを見たとき、ツーリングSの象徴のツインキャブレターが、とにかく美しいと感じたのを今でも覚えています」
そう話す室田さんとN360の主なカーライフは、旧車イベントに参加すること。
なんと、東京で開催される「ニューイヤーミーティング」に、兵庫から10時間以上も運転していくというから驚きだ。
「クルマは大丈夫なんですけど、人間の方が壊れるんですよ(笑)」ということだが、そんな苦行のような道程でも2回も参加したことがあるというからなかなかの強者である。
「カムの動きで点火時期が変わるんですけど、長距離を運転するとネジが緩んで点火時期がズレてくるんです。その結果、若干ガクガクしてきてクルマよりも先に僕の腰が悲鳴をあげるというのが辛いところですね(笑)」
「あと困ったことといえば、ワンテールライトなのでブレーキランプとターンシグナルランプが同じで、ブレーキランプが分かりにくいんです。だから、後ろのクルマに突っ込まれそうになるところですかね。高速は常に左車線を走るのでウィンカーを出すことがないんですけど、下道が怖いんですよ。なかなかのもんでしょ?」
何が1番凄いかというと、N360のネガティブな部分を話しているのに楽しそうに聞こえてしまうところだ。「へへへ」と笑顔で嬉しそうに話すようすが、カーライフが充実していることを物語っている。
「僕はね、お酒もタバコもギャンブルもしなくて、ほんまにクルマだけなんです。今まで様々な趣味車に乗りましたが、私のすべての趣味車の原点です。妻にも、これだけやから、許してなって言うてます」
バイクを降りて、このN360に出会えたことでクルマの楽しさに気付くことが出来たという室田さん。「年齢を重ねてクルマの運転が辛くなっても、最後まで所有しているのはこのN360だ」と断言するその言葉からは、これからも期待に胸を膨らませながら素敵なカーライフを送る姿がありありと想像できるのだった。
取材協力:大蔵海岸公園
(⽂: 矢田部明子/ 撮影: 平野 陽)
[GAZOO編集部]
GAZOO愛車広場 出張取材会 in 兵庫
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