夢中になるのに理由なんていらない。スカイラインGT-R(R32型)という存在

  • 日産・スカイラインGT-R(R32型)

小さい頃からスカイラインが好きで、免許を取った19歳から今までずっとこのクルマに乗り続けているというオーナー。
色々な場所にドライブに行った青年時代、家族ができて守るものが増えた働き盛り、そして、人生の半分以上をスカイラインと過ごした現在も、このクルマに惹かれ続ける理由を伺った。

保育園から帰ってきて、オヤツを食べてホッとひと息ついた夕どき。西部警察の再放送をテレビで見るのが、wagaさんのお決まりのコースだったという。
渡哲也演じる大門が悪の軍団を根絶やしにするのも面白かったというが、主には劇中に出てくるマシンRSの活躍がお目当てだったのだとか。

このマシンRSのベース車両は、〝ニューマン・スカイライン″と呼ばれる6代目DR30型スカイラインで、2ℓ直列DOHC 4気筒「FJ20E」型エンジンを搭載する2000RSというグレードとなっている。

「夜でも犯人を追跡出来る赤外線サーモグラフィビデオカメラや、信号の色を操作出来る装置など、犯人逮捕に役立つ特殊装置が沢山装備されていたんです。あれはカッコよかったなぁ〜。」

  • 日産・スカイラインGT-R(R32型)の雑誌

一生忘れることができないインパクトのある赤と黒のスカイラインは、wagaさんの心をぐっと掴んで離さなかったのだという。それから時は流れ小学校6年生になった頃、〝スカイラインのすべて″という雑誌を書店で購入したそうだ。

「パラパラとページをめくっていくと、R32型スカイラインにどんどん引き込まれました。リアの丸目4灯がものすごくカッコよくて、マシンRSの時と同様に一目惚れしてしまいました。その時に、免許を取ったら絶対に乗るぞと決めたんです」

そういった流れで、wagaさんが19歳で手に入れた最初のスカイラインは、HCR32 2.0ℓ直列6気筒NAモデルのGTSタイプS。
R32シリーズのスカイラインといえば、当時も最上級モデルのGT-Rを筆頭にターボモデルが人気だったそうだが、中古車ショップにあるR32型スカイラインの中で1番お財布に優しい価格だったこのそのクルマを購入したのだという。それと、価格以外にはこんな理由があったと話してくれた。

「タイプSが安かったのは、ターボが付いていないからなんですよ。でもね、僕はそれでいいと思っていたんです。なぜなら、走りにはあまり興味が無かったし、そんなことよりも重要だったのは、小学校の時に立ち読みした雑誌に出てきたスカイラインに乗れた、ということでしたから」

  • 日産・スカイラインGTS タイプS

スポーティーなデザインの黒いフルエアロが組んであったため、見た目にもきっと速いに違いない……!という変な自信と、免許を取って初めての愛車ということもあり、走行性能うんぬんを言えるだけの経験値がそもそも無かったとあっけらかんと笑っていた。

そんなwagaさんに転機が訪れたのは、三菱ディアマンテに乗った先輩とドライブに行った時のことだという。
あろうことか、高級セダンという位置付けのディアマンテよりも、NAとはいえどクーぺディで155馬力を発揮する2ℓツインカムエンジンを搭載している自分のクルマの方が明らかに遅かったのだそうだ。
口に出しては言わないようにしていたが、パワー不足を認めざる得ない瞬間だったとトホホといった顔をした。

「走りに興味は無いと言っておきながら、なんかショックでね……(笑)。それに輪をかけるように、会社に僕と同じR32のターボ付きモデルGTS-tタイプMに乗っている先輩が赴任してきたんですよ。会社の周りをぐるっと一周させてもらったんですけど、全く違いましたね」

内外装はパッと見ほぼ変わらないが、タイプSのホイールは4穴の15インチ、タイプMは5穴の16インチ。エンジン出力はタイプSが155PSでタイプMが215PSと、60PSの違いがあったのだ。
もちろん、タイプMも充分楽しかったそうだが、加速の仕方がグレードによってこうも違うのかと、ターボへの憧れを募らせることになったという。

「ターボが良いなぁ……と思いながら、本屋さんで中古車雑誌を読んでしまったんです。そこにGT-Rが掲載されていて、ふらっと中古車ショップに入ったら……」

  • 日産・スカイラインGT-R(R32型)のリヤ

かくして、1台目のスカイラインを購入した2年後に、wagaさんはBNR32 スカイラインGT-Rを愛車として迎え入れることとなる。スカイラインとしてはシリーズ8代目、GT-Rとしては3代目として16年ぶりの復活を遂げたももでるで、その後全日本ツーリングカー選手権での鮮烈な活躍で、その人気は確固たるものとなっていった。

排気量は2568cc、最大出力は280馬力、直列6気筒DOHCツインターボエンジン「RB26DETT型」を搭載し、グループAカテゴリーでの活躍を視野に入れた仕様となっている。
通常時はFRの走行をし、後輪のスリップ量が多くなると前輪に駆動トルクが伝達される電子制御トルクスプリット4WD〝アテーサE-TS″が採用されているのが大きな特徴だ。それにより、シビアな路面状況でも安定したコーナリング走行が可能となっていた。

  • 日産・スカイラインGT-R(R32型)のエンジンルーム

「両方のスカイラインで菅生とつくばサーキットを走ったんですけど、GT-Rはハンドルもブレーキも全てが重く感じました。加速の立ち上がりや、止まり方、ステアリングの切れ方など、同じクルマなのに、こうも違うのかと圧倒されました。そして、思った通りに走ってくれるから、すごく楽しかったんですよ。」

レッドゾーン8000回転まであるタコメーターが目に入り、もっと強くアクセルを踏めと訴えかけられているようだったと満面の笑みで話してくれた。

ちなみに、速さを思わせた箇所はそれだけではない。フェンダーの盛り上がりや、キラリと光るGT-Rのエンブレム、ドドドという野太いエンジン音は最高だったという。こうしてwagaさんは、さらにスカイラインにハマっていくこととなるのだ。

  • 日産・スカイラインGT-R(R32型)のフェンダーライン
  • 日産・スカイラインGT-R(R32型)のエキゾースト

「そのあと1人目の子供が産まれたのですが、妻が理解のある人で手放さずにずっと乗っていて良いよ!と言ってくれたんです。その代わり、チャイルドシートを積みやすい家族のクルマをということで、4ドア25GT-XターボのER34スカイラインを追加で購入し、18万kmを走ったところで手放しました。というのもね、2人目が産まれたので流石になぁ……って。それで、セレナに乗り替えました」

  • 日産・スカイライン(ER34型)
  • 日産・スカイラインGT-R(R32型)と息子さん

R34スカイラインのどこら辺が〝家族のクルマ″なのかを伺うと、4ドアなところだという。加えて、ボディがR32よりも大きいため居住性が良くなったのと、ボディ剛性が歴代スカイラインよりも向上し子供も酔いにくいだろうと踏んだのだそうだ。
この理由だと、多くのクルマがそれに当てはまるが、それを聞くのは無粋というものだろう。なぜ、スカイラインというクルマにこうも惹かれてしまうのかを尋ねると、こんな答えが返ってきた。

  • 日産・スカイラインGT-R(R32型)の左フロントタイヤ
  • 日産・スカイラインGT-R(R32型)の右フロントタイヤ

左右で同じホイールの色違いを装着

「『阪神タイガーズと日産スカイラインは、もはや宗教だ』。

実はこれ、14年前にとある雑誌に書いてあった1文なんです。これを見た時に、まさに自分がこれだと思ったんですよ。カッコいいとか、好きだとか、そういうのを通り越した、絶対的な存在といいますか(笑)」

そして平成11年に、中古車雑誌片手にショップの門を叩いて購入した走行距離2万8000kmのR32 GT-Rは、現在18万9000kmまで距離を伸ばしたという。12回目の車検を終えた今年、何故だかとても感慨深い気持ちになったと優しく呟いた。

「保育園の頃から、僕はずっとスカイラインが好きなんですよ。人生のほとんどがスカイラインで染まっているんです。それはこれからもです」

  • 日産・スカイラインGT-R(R32型)の運転席に座るwagaさん
  • 日産・スカイラインGT-R(R32型)のメーター
  • 日産・スカイラインGT-R(R32型)のオーナーズクラブのエンブレム

一度きりの人生のうち、夢中になれる何かに出会えるという人は、きっとそう多くはない。しかも、それが保育園の頃からとなると尚更だ。夢中にさせるスカイラインも流石だが、ぶれないwagaさんもなかなかのものだといえよう。

名車と呼ばれるクルマ達の運転席には、一途に愛情を注ぎ続けるオーナーさんが必ずいる。だからこそ、名車は名車として呼ばれるのだ。

「クルマに乗らなくなるその日まで、ずっとハンドルを握っていたいです。」

と、愛車を優しそうな目で眺めていた。

  • 日産・スカイラインGT-R(R32型)のエンジンルームを眺めるwagaさん
  • 日産・スカイラインGT-R(R32型)のトランクリッドの裏側には好きなドライバーやジャーナリストのサイン
  • 日産・スカイラインGT-R(R32型)のオーナーといとこ
  • 日産・スカイラインGT-R(R32型)の運転席

(文:矢田部明子 写真:中村レオ)