ドライビングスキル向上とともに進化する86。スーパーチャージャー仕様のその先は?【取材地:鹿児島】
「クルマは好きだけど、それほど知識はない」
だから、よくわからずにショップや知人に勧められたものを“なんとなく”選択してしまった、という経験をお持ちの方も少なくないのではないだろうか?
愛車をドレスアップしたりカスタマイズしたりと、自分好みにイジりたくなるのはクルマ好きなら当然のこと。そして、そのためのアイテムはカー用品店で購入できる汎用品からパーツメーカー入魂の車種専用品まで星の数ほど存在する。それだけに、何を選ぶのが正解なのか?という悩みや疑問は常についてまわるものだ。
たとえば入門チューンといわれるマフラーひとつ選ぶにしても、見た目重視のものから排気効率にこだわったもの、音質や軽さにこだわったものなど、どれが正解なのかという答えを見つけるのは難しい。
いろいろな情報を調べたり、実際に試したりして経験を積むのもまたひとつの楽しみ方だけれど、もしも最初から明確な目的を持ち、そのために必要なアイテムを選んで着実にステップアップすることができたなら、それは目的達成への最短ルートといえるだろう。
86(ZN6)オーナーの川畑 覚さん(60才)は、とあるショップとの出会いによってクルマに対する意識が一変し、迷走状態だったカーライフを軌道修正して“サーキットを楽しく走る”という明確な目的を持ってチューニングを進めていくようになったという。
小さい頃にまわりで流行していたスポーツカーたちを見て育ち、いつかは乗りたいと思いながら育ったという川畑さん。
クルマに乗り始めたのは仕事の関係で25才の頃からだそうで、最初の愛車として選んだのは日産パルサーのターボモデル。結婚してクルマを買い換える際にもトヨタ・カリーナEDとスポーティな クルマをチョイスした。家族が増えてからはエスティマに乗り換えてドレスアップなどを楽しんでいたけれど、子供が手を離れてからは「またスポーツカーにのりたい」とマツダRX-8やスバル・インプレッサを乗り継いだという。
そして2年ほど前に、SUVへの乗り換えを検討していた息子さんから譲り受けたのが、この初期型のトヨタ86だ。
「僕はクルマが好きですけど、素人だからクルマのことは詳しく知らないわけですよ。だから行ける範囲でクルマをイジってくれるショップをまわって、そこでオススメされたパーツを装着したりしていたんですけど、パーツを変えてもしっくりこないんですよね。乗った時に変わったという実感がないし、その不調をお店の人に伝えたくても上手に伝わらないというか・・・。いまいちピンとくるお店に出会えないと感じていたんです。そんな時に出会ったのが、同じ鹿児島県にあるショップ、ツァオバークラフトの坂上代表でした」
「ツァオバークラフトはもともと息子がこの86に乗っていた時にお世話になっていたお店なんです。5年ほど前、当時は僕もまだインプレッサに乗っていたんですけど、息子から誘われてお店に行き、坂上代表と何度かお話しをしているうちに、今まで何の気ナシに乗っていたクルマに対する考え方が根本から覆りました」
クルマに乗る際の安全面の考え方からはじまったという"授業"は、ノーマルの優れている点に重きを置きながらも、そこから走りを突き詰めて行った時に必要になるカスタマイズについてまで及び、当時乗っていたインプレッサにも「余計な買い物はさせてくれませんでした(笑)」と川畑さん。
「この86を息子から譲り受けたときも、最初はとくにイジるつもりはありませんでした。というのも、ノーマルの状態でサーキットを走って『ノーマルでもこんなに思い通りに走れるのか!』と、86の持つポテンシャルに驚いたので。でも、サーキットを走り込むうちに『ここがもうちょっと欲しいな』と思うようになり、その度に坂上代表に相談してチューニングをしていきました」
「止まる」と「曲がる」が大切だというアドバイスにそって、まずはタイヤ、その後に車高調を交換。さらにブレーキをエンドレスの大径ローター&キャリパーへと交換した。
続いて、HKSマフラーへの交換や吸排気系のチューニングを行っていくと高回転の伸びに物足りなさを感じるようになり、ついにスーパーチャージャーキットによる大幅パワーアップを決断したという。
「ノーマルの状態からサーキットを走り込んでいくうちに、コーナーを攻められるようになってきたからグリップ力や制動力がもっと必要になって、しっかりアクセルを踏めるようになったからエンジンパワーが欲しくなったというかんじですね。安心してたくさん走り込むために冷却系も強化しました」
サーキットで愛車の性能を引き出し、楽しく走るという明確な目標をもったことによって、無駄なく必要なパーツだけを装着したマシンへと進化していったというわけだ。
「スーパーチャージャー仕様にしたらリヤが軽くて滑りやすくなったので、すこし空力で押さえましょうかということになって、サードのGTウイングを装着したんです。そしてそのバランスを取るために、フロントにも海外製のリップスポイラーを装着しました。最初は重たくなるから86にはエアロはいらないと思っていたんですけどね(苦笑)。でも、このお店に出会う以前の僕なら、最初はまずドレスアップに凝ってエアロを付けまくっていたでしょうから、そう考えると随分変わりましたね」
内装は鮮やかなブルーのメーターパネルが目を惹くが、基本はシンプルでレーシーな雰囲気だ。
「追加メーターのパネルはもともとブラックだったんですけど、青が好きなのでスプレー缶で塗装してみました。シフトノブの色も合わせてブルーのものを選んでいて、ステアリングはMOMOのディープを気に入って使っています。あとはバケットシートを装着しているくらいですね」
「今は自分にとってものすごく乗りやすく仕上がっています。僕はこのクルマで街乗りもするし、サーキットも自分で楽しむために乗るわけですが、坂上代表やショップの常連さんたちは『サーキットは自分の技量を試す場だ』と言っていました。僕もそれを実践しています。だから楽しいのかなって思っています」
そんな思いが現れていると感じたのがタイヤのチョイス。「僕はとにかくたくさん走り込んでウデを磨く段階なので、グリップ性能の高さだけでなく、ライフの長さも考慮してポテンザのアドベンチャーRE004を選んでいます。RE-71Sはグリップ性能が高い反面、減りも早いので」
ちなみにホイールは17インチのボルクレーシングZE40で、息子さんが乗っていた頃から履き続けているものだという。
もちろん、今後の予定や目標についても明確だ。
「熊本にあるホンダがドライビングスクールをやっていて、ショップの方がお客さんを定期的にそこに連れて行ってくれているんですけど、僕も来月そこに行く予定を組んでもらっているので楽しみです。セッティングを最後に変えてからはまだオートポリスを走っていないので、そっちも今度走るのが楽しみですね。それから、今はサーキットを走るための装備として持っているのがレーシングシューズとヘルメットとグローブのみなんですが、もっと上手になったらレーシングスーツも買いたいと思っています。色は青系で揃えたいですね(笑)」と生き生きとした表情で楽しそうに話してくれた。
信頼できるショップや主治医との出会いは、そのオーナーのカーライフにも大きな影響を与える。そんなお店に出会えた川畑さんは、これからもっと楽しい86ライフが待ち構えているに違いない。
(⽂: 西本尚恵 写真: 西野キヨシ)
[ガズー編集部]
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