憧れのクルマと理想のカーライフ。25歳の女性オーナーが2017年式トヨタ・86 GT(ZN6型)を、新車&MTで選んだ理由

2012年にトヨタ・86がデビューして、気づけば6年の歳月が経過していた。その間に10代だった若者が成人し、運転免許を取得していることを感慨深く思う一方で「若者のクルマ離れ」が、業界に影を落とす。

そんな昨今だが、ここに佇むトヨタ・86 GT(ZN6型、以下86)の持ち主は、25歳の若き女性オーナーである。彼女が10代から憧れてきた念願の愛車だ。「ピュアレッド」のボディカラーがまぶしい。

86は、トヨタが「量産スポーツカーの復活」の象徴として発表。車名は、今なお世代を超えて愛される「AE86」に由来する。かつてトヨタが生み出した、小排気量で手頃な価格のスポーツカーたちがイメージされた。開発は、業務提携を行っているスバルと共同で行われた。なお、スバルで販売する兄弟車には「BRZ」の名が与えられた。

ボディサイズは、全長×全幅×全高:4240×1775×1320(アンテナを含む)mm。FRレイアウトで、搭載されるエンジン「FA20型」は、水平対向4気筒直噴DOHCエンジンを搭載。最大出力207馬力(ATは200馬力)を誇る。

この個体は新車で手に入れたそうで、彼女にとっては初の愛車となった。フルオリジナルで、美しいコンディションをキープしている。さらに、20代の女性には少数派であろうMTモデルをチョイス。オドメーターは7500キロを刻んでいる。昨年の11月に納車、まもなく1年を迎えようとしている。

「ボディカラーはレッド、ブルー、ホワイトやブラックあたりが候補でした。ホワイトとブラックは何歳になっても乗れるので、若いときにしか乗れないレッドとブルーに絞りました。その後、契約前にブルーの86を見る機会があり、イメージよりも深い色あいだったため、最終的にビビッドなレッドに決めました。キレイですが、やっぱり目立つ色ですね。職場の人とのツーリングの際、私が前を走ったときに『後ろから見ていたら、対向車がみんな二度見していたよ』と言われました(笑)」

86を見かけたとき、ドライバーの大半は男性である場合が多い。とりわけ女性の駈る赤い86は颯爽と映るのであろう。ディーラーのスタッフさえも驚いたのではないだろうか。「理想のカーライフ」を満喫中の彼女に、購入の決め手を尋ねてみた。

「新車で購入した理由のひとつが、後期型だったからです。初めてディーラーに行った日が夕方だったので、ヘッドライトの点灯をさせてもらえたんですけど、点灯させたときのカッコ良さといったら……!LEDライトを含めた後期型特有のデザインがすごく気に入っています。フロントグリルが広くなっているところも好みですね」

86は、2016年に大幅なマイナーチェンジが行われ、後期型となっている。LEDヘッドランプが標準装備になったほか、アルファベットの「T」をモチーフにしたような印象も受けるフロントグリルや、ホイールのデザインなども変更されている。

幼い頃から『クルマとは大人になってから働いて貯金をして買うもの』と思ってきたオーナー。86に魅せられたきっかけとは何だったのだろうか。

「実は、最初に好きだったのはマツダ・RX-8でした。近所の方がエイトを所有していて、毎日見ていた影響だと思います。赤い車体もステキで、乗るならこのクルマだと。でも2011年に生産が終了してしまって……。入れ替わるように86が発売されたのをTVのニュースで偶然知りました。そして、こんなにカッコいいクルマが出るのなら、免許を取ったら絶対に買おうと決心しました」

彼女は「ハチロク(AE86)」という存在にシンパシーを感じてきたタイプではない。「頭文字D」も今まで知らなかった。つまり、何の事前情報もなく86と出会ったというわけだ。そんなオーナーが、購入に踏み切った経緯とは?


「飲み会で職場の先輩たちとクルマ話で盛り上がったんですね。そこで、ずっと前からトヨタの86に乗るのが夢だと話したところ『夢じゃなくて、ディーラーに行って見積もりをしてこい』と真剣に言われました(笑)。これは顔を合わせるたびに話をされるパターンだと思い、渋々ディーラーへ行くことにしました。そこで実際に提示された見積書を確認してみると、予想外に頑張れば買えそうな金額だったんです。今まで、20代での新車購入は、年齢的にもとてもハードルがとても高いことだと思ってきたのですが、見積書を出してもらえたことで現実味を帯びたため、結果的に購入のきっかけとなりました」

夢の実現に向け、イメージが具現化できたことで86の購入を決意したオーナー。一方、家族の反応は?

「母親は『ついに買うんだ』と言いながらも、私が幼い頃からコツコツと貯めたお年玉を出してくれようとしました。むしろ父親は心配したようです。ディーラーにも同行してくれましたし『どうせぶつけるから』と、最初は中古車を強く勧められましたね」

購入の際は、シビアに相見積を取ったオーナー。最終的に同世代の女性セールススタッフから購入することに決めた。その理由とは?

「どこよりもきめ細やかな対応がうれしかったからです。自宅から店舗までは遠かったのですが、私の自宅近くまで足を運んでくださいましたし、店長にもかけあって可能な限り値引きをしてくださったり…。メンテナンスや車検を自宅から近い店舗でできるように配慮があったのも決め手となりました」

念願の86を運転してみて感じたこととは?

「とにかく運転のしやすさに驚きました。実は86を買う前に、RX-8を試乗していたんです。憧れのクルマでしたが、ペダルの間隔が狭くてMT初心者の私には扱いづらかったです。その後で86に乗ったのでなおさらだったと思いますが『万人向けに設計されている』と、聞いていた通りの乗りやすさでした」

扱いやすいATではなく、あえてMTを選択した理由とは?

「ATとMTをどちらも試乗して魅力的だったのでかなり迷ったのですが、MTで操作するスタイルに、自分なりの『86らしさ』を感じたからです。今も坂道発進は緊張しますが、都内だけでなく大阪までドライブしたこともあり、運転する機会も増えてかなり慣れてきたところです。運転していて本当に楽しいので、今は本当にMTを選んで良かったと思っています」

MT初心者で、都内や大阪の繁華街を走ってしまうとはなかなかの荒業であるが、刺激的でもある。買ったばかりの愛車と経験することすべてが、冒険に感じられていたのではないだろうか。86を手に入れてからの日常は、どのように変化したのだろうか。

「まず、クルマを持った時点で行動範囲が劇的に広がりました。思いつきで友達と箱根や海へも走りに行きます。回数は減りましたが、夜のドライブもしますよ。お酒があまり飲めないので、ストレス発散法のひとつがドライブだったりもします」

大阪へ出かけた際はオーナーの父親も同行したそうだが、移動のほとんどを彼女が運転したという。

「隣に父を乗せて高速道路を走りました。少しハイペースになると『そんなに出さなくてもいいんじゃない?』と言うので、私が『お父さんだってもともとはこんな運転なんだよ(笑)』と返すと『今、自分のしてきた運転を後悔している』と言い出して、思わず笑ってしまいました。父が若い頃、母によく『もうちょっとゆっくり走ってよ』と言われていたらしく、私の助手席に座ってみて当時の母の気持ちがわかったようです(笑)」

実は、この86を通じて、大切な人にも出逢ったのだという。

「86を通じて知り合った彼と交際しています。輸入車ディーラーのセールスマンをしている人なので、クルマの知識も豊富です。私が、念願が叶って86を買った経緯も理解してくれていて『そういう大事なクルマはずっと持っていたほうがいいよ』と言ってくれています。最近は、彼のおかげで他メーカーのクルマにも興味が湧いてきましたし、大切な86を大切な人に理解してもらえることはうれしいですね」

手に入れてから、大きな心境の変化はあったのだろうか。

「いちばん欲しかったものを手にしたせいか、クルマに限らず物欲がほぼなくなってしまいました(笑)。心が満たされています」

最後に、この86と今後どのように接していきたいかを伺った。

「今は乗れるだけ長く乗っていきたいと思っています。赤い車体は褪色しやすいと聞いたことがあるので、できるだけキレイなコンディションが保てるよう心がけていきたいですね。正直なところ、5年後には手放しているかもしれない気持ちがあったのですが、やっぱり、できるだけ86に乗り続けていたいと思います。クルマについて何も知らないので書籍も買いましたし、彼をはじめ、まわりにクルマ好きも多いので、助けてもらいながら、カーライフを楽しんでいけたらいいですね」

取材中に幾度となく口にしていた「カッコいい」から、86への愛情の深さが滲み出ていた。そして、クルマという存在自体に魅せられていると、強く感じられた。

いつの時代も、スポーツカーは現行時代に厳しく批評され、いざ絶版となると惜しまれてきた。86をはじめ、ガソリンエンジンで楽しめる最後の時代を彩るスポーツカーたちは、20年後には間違いなく「名車」と呼ばれるだろう。そして私たちは、そんなクルマたちを楽しめる最後の世代なのかもしれない。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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