幼なじみとの友情が導いた愛車、クルマの価値観を変えてくれた2014年式トヨタ ランドクルーザー 70(GRJ76K型)
1769年に自動車が誕生してから250年以上経過しているが、馬車が自動車に置き換わっても馬を愛する人がいるように、操る楽しさや好みの外観をもつ自分だけの1台を「愛車」として慈しむ人はいなくならないだろう。自動車の動力源が電気になり、やがて空を飛ぶようになったとしても、だ。
「愛車」には性能以外のチカラもある。「愛車」を手に入れたからこそ見ることができる景色があり、新たな人間関係や世界を広げてくれるはずだ。
今回はそんな「愛車のチカラ」を感じるストーリーを紹介したい。主人公は27歳の男性オーナー。実は今回、2018年に取材したトヨタ センチュリーを所有するオーナーとの縁で取材が実現した。
おふたりは幼稚園からの幼なじみだという。取材当日は、センチュリーのオーナーも応援に駆けつけてくれた。彼のおかげで今回の取材が実現したことは間違いない。この場を借りて心よりお礼を申し上げたい。
「家も近所です。一時期仕事の関係で離れていたんですが、泊まりに行ったり食事に行ったりしていました。お互い、いいたいことはいうし、真剣な話はするんですけど、不思議とケンカにならないんです。きっとこれからもケンカしないでしょうね。私にクルマの楽しさを色々と教えてくれる大切な友人です」
と和やかな表情で語るオーナーの様子から、気の置けない関係であることが伝わってくる。まずは愛車のプロフィールから伺った。
「私の愛車は2014年式トヨタ ランドクルーザー70(GRJ76K型/以下、ランドクルーザー(ナナマル))です。手に入れてからまだ2ヶ月で、現在の走行距離は約6万5000キロ。納車時からは約500キロを走っています」
ランドクルーザー70(70系)は、40系の後継モデルとして1984年にデビュー。2014年に再販され大きな反響があった。そして2023年秋に70シリーズの国内販売が新型とともに復活した。
車名の「ランドクルーザー」は英語の「Land(陸)」と「Cruiser(巡洋艦)」を組み合わせて命名。通称「ランクル」でお馴染みだが、国産車の中でもっとも長く使われ続けている車名であり、2024年で車名誕生70周年を迎えた。
オーナーの個体は、海外専用モデルとなっていた70シリーズの誕生30周年を記念し、2014年に期間限定で国内に再導入されたモデルだ。70シリーズならではの武骨なスタイリングをはじめ、高出力と高い走破性を確保しながら静粛性や燃費性能も兼ね備えていた。
ボディサイズは、全長×全幅×全高:4810x1870x1920mm。バンとピックアップのボディタイプがあり、駆動方式は4WD。「1GR-FE型」と呼ばれる排気量3955ccのV型6気筒DOHCエンジンが搭載され、最高出力は231馬力を誇る。トランスミッションは5MTが用意された。
27歳でランドクルーザーを手に入れたオーナー。もともとそれほどクルマが好きというわけではなかったようだ。
「好みの車種はあってもそこまで興味があるというわけではなく、前の愛車も実用的な軽自動車でした。MT車でしたがたまたまです。友人の家が農家なので、手伝いで軽トラックや農耕車に乗る機会も多く、MT車には馴染みがありますが、“MTでなければだめ”というこだわりがあるわけではないんです。
それでも、小学生のときはクルマ好きな同級生が多かったので、影響は受けていましたね。クラスの中でドリラジ(ドリフト専用のラジコンカー)が流行っていて憧れたり。センチュリーの彼はのめりこんでましたけど(笑)」
このようにクルマに対して比較的淡白だったオーナーが、どのようなきっかけでランドクルーザーを愛車として迎えることになったのだろうか。出逢ったきっかけを尋ねてみた。
「もともとランクルは漠然と好きだったんですが、近い将来にラーメン店の開業を目指しているので、燃費の良いコンパクトカーにしようと決めていたんです。ある日、彼と深夜に牛丼を食べに行ったときのことなんですけど、食事しながら『燃費の良いクルマに乗ろうかな』みたいな話をしたら『どうせならナナマルに乗れ!』といい始めて、その場で中古車サイトで探し始めたんですよ。すると現在の愛車となるナナマルがヒットしました。お互い翌日の仕事が休みだったこともあって実車を見に行くことになったんです。で……、そのまま契約してしまいました」
しかも、まさかの「衝動買い」だったという。
「私はコストの掛かる趣味を持っておらず、飲酒もほとんどしませんし、職場も自宅から徒歩数分の場所にあるので出費はそれほどないんです。結婚しても実用性のあるクルマなのでそのまま乗れますし。万一、手放すことになったとしても、ナナマルはリセールが良いことも彼が教えてくれました」
クルマの購入は「勢いとタイミング」とは聞くが、今回の場合はオーナーと友人との時間のタイミングが合わなければ実現することはなかったかもしれない。念願の「ランクル」に乗り始めたことで、周囲の反応は?
「大きなクルマを相談なく買ったと、母親だけにはひんしゅくを買いましたね(笑)。初日の夕飯は抜きでした…。でも、友人たちには好評です。カスタムしたSUVに乗っている友人もいるんですけど『でかいね』『乗せて』といわれますね。先日はスノボをする友人たちと、このナナマルで一緒に行ったんですよ。実際に乗ってもらうと『すごいね』といってくれるので素直にうれしいです」
こうしてオーナーの元にやってきたランドクルーザー。聞けば前のオーナーがさまざまなカスタムを施しているようで、カスタムの魅力も購入の決め手となったようなのだ。
「前のオーナーさんは、岡山県で美容師をしていたようです。ライトは前オーナーさんのこだわりだと思うのですが、丸目タイプに交換されていました。ステアリングもウッドのものになっていますし、フロアマットやシートカバーもヴィンテージの雰囲気が感じられておしゃれです。それから音響設備がすごい。デッドニングまでされていて本気さを感じます。この仕様を手掛けた前のオーナーさんに感謝を伝えたいですね。大切に乗らせていただきます」
納車後にオーナー自身が手を加えた部分は?
「シフトノブをリアルウッドでできたものに交換しました。これから経年劣化で色が変わっていくので、どういう風合いになっていくかが楽しみですね。センチュリーの彼と一緒にガラスにフィルムも貼ったんですよ。4時間くらい掛かったのに付き合ってくれました」
心ときめくカスタムが満載の個体を愛車に選んだオーナー。中でも気に入っているポイントはどこなのだろうか。
「この丸目のヘッドライトがとても気に入っています。あとはボディカラー。ランクルといえば白やベージュが人気ですけど、グレーメタリックのボディカラーがとても似合いますよね。かっこいいと思います。偶然にも通勤で乗っているリトルカブと色がそっくりなんです。それから、エンジンを始動したときの『ブーン』という振動が好きで、毎回ちょっとしびれるところがありますよね。酔いしれるというか…」
ランドクルーザーの魅力を味わってまだ2ヶ月ほどだが、日常生活や気持ちの変化もあるという。
「ライフスタイルやクルマの価値観が変わってきていますね。今まで自分にとって『良いクルマ』の条件とは、低燃費で小回りが利き、維持費が掛からないというものでした。それが楽しめることへと変化しているのは実感しています。クルマの好みも、セダンやSUVからクロカンに寄ってきているかも。スズキ ジムニーも可愛くて好きなんですよね。仕事が早出だと16時頃に終わることもあるので、そのまま走りに行ったりもします。少しでもドライブの時間を足すと、一日がより充実しているように感じられるような気がしますよね。
それから、洗車用具にこだわるようになったのは自分でも驚きです(笑)。今までは洗車機に突っ込んでそのまま自然乾燥させていたのに、今は溶剤や磨き方にまで凝るようになりました。よく使っているのはオートフィネスというイギリスのブランドの洗車グッズです。最近はポリッシャーを買ったので、センチュリーの彼と一緒に磨きの度合いを試すのが楽しみです」
1台のクルマとの出会いが確実にオーナーのライフスタイルに変化をもたらしていることは事実のようだ。今、オーナーにとってこのランドクルーザーはどんな存在となっているのだろうか。
「これまでの愛車にはなかった愛着を感じるようになっています。何気なく乗っていたMTも新鮮に感じられ、運転が楽しいです。人生のアクセントというかスパイスのような存在でしょうか」
「愛着」を感じ始めたこのランドクルーザーと、今後どのように接していきたいかを伺ってみた。
「自分とクルマ、どちらかが力尽きるまでは乗っている気がしています。当初はリセールが良い点も購入の動機にはなりましたが、手放すことは現時点では考えられません。色々と調べていると70万キロも乗っているオーナーさんもいるようなので、自分も長く乗れるのかな…乗りたいなという気持ちです。このクルマと行きたい場所やしたいこともこれから増えていきそうでとても楽しみです」
クルマの趣味に対して淡白だったオーナーの心を大きく変えたことに「愛車のチカラ」を感じずにはいられない。そしてなにより、センチュリーのオーナーでもある友人の存在だ。取材中も終始リラックスしていたおふたり。幼なじみだからこその気兼ねのなさが、雰囲気にも感じとれた。充実したカーライフとともに、これからも変わることなく2人の友情も続いていくのだろう。
(取材・文: 松村透<株式会社キズナノート> / 編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
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