「次のオーナーは決まっている」。水没から蘇り半生をともにするトヨタ・ランドクルーザー70
福島県のとある市役所に勤めている木幡遼太郎さん。幼少の頃からお父さんの影響を受け大のクルマ好きになったそうです。
描く絵もほとんどクルマの絵で、絵本代わりに見ていたのはクルマのカタログ。そんな木幡さんとランドクルーザー70との半生をお聞きしました。
――クルマに興味を持ったのはいつ頃からですか?
物心が付いた頃からクルマが好きでしたね。
父の影響が大きいと思います。父はトヨタのディーラーマンで、子供の頃、店に遊びに行ったり、整備工場を覗かせてもらったり、お客様のところへの納車にもよく連れて行ってもらいました。
消防署に消防車とか救急車の納車にも行ったこともあります。今考えると、おおらかな時代でしたね。
――遊ぶものもミニカーとかクルマの図鑑だったりしたのですか?
ミニカーもありましたが、カタログでしたね。父の勤めるディーラーに行き、カタログを山のように貰ってきて絵本のように見ていましたね。
その頃買ってもらった児童書、図鑑もまだありますが、クルマのものだけボロボロでページも抜け落ちています(笑)
中学に上がる頃にはクルマの型式やグレード、エンジンは何を積んでいるか、ほとんどのクルマの説明ができましたね。
学校の先生がクルマの買い替えを考えていると情報を得ると、職員室に行きカタログを渡し、「ドーンと値引きしますよ」とか、「人気グレードはこれだ」とか、「パール塗装は3万円高になりますよ」とか売買の交渉もしていましたね(笑)
――リアル子供店長ですね(笑) ところで愛車のランドクルーザーはいつ頃から乗りたいと思っていたのですか?
これは鮮明に覚えていて、小学校4年生のときにワインレッドのランドクルーザー80中期の納車に付いていったんですよ。
その時に搭載されていたエンジン、1HD-Tの音を聴いた時、やられてしまいました。ピーンときましたね。俺は18になったら絶対これに乗るんだと。
――しかし最初に買ったのはランドクルーザー70ですよね。なにか心境の変化があったのですか?
予算の都合です。80は高くて(笑)。
しかも高校、大学のときはバイクとスポーツカーに興味が移っていて、四駆からは離れていたんです。
ところが社会人になると、まるで小4からタイムスリップしたかのようにランドクルーザー80に乗りたくなったんですよ。
しかし社会人1年生の私には80は手の届かない価格が付いており、まだ手頃な値段だった70ショートにしたんですよ。冬のボーナスが出た時に、貯金も切り崩して購入しました。
70は引き続き所有しながら、80はその2年後、整備士さんが乗っていた物を譲ってもらいました。
ものすごく調子がよく機関系は非の打ち所はなかったんですが、室内は整備士さんが愛犬家だったこともあり犬の毛がすごくて、ワッ!と思いましたね(笑)
――話は70に戻り、ランドクルーザー70はどのような使い方をしていますか?
私は四駆クラブに所属しており、クラブの行事があると70に乗って馳せ参じます。
林道ツーリング、クロスカントリーを楽しんだり、通勤にも使うこともあります。
通勤で70を運転しているときに今後の生活を左右する決断をしたことがありました。
以前は地方銀行に勤めており、転勤で片道50キロの距離を通勤することになったんですよ。東日本大震災で荒廃してしまった人のいない街を通り抜け職場に行く毎日になりました。
そこは無になってしまった世界ですよね。
地方銀行は地域の経済的活性化をサポートする役目がありますが、もっとダイレクトに人の為になるような仕事がしたいと思うようになってきたんですよ。
公共的な仕事やまちづくりなどは、公務員にでもならないとできないなと思う日々が続いていました。
でもある日、いつも聞き流していたカーラジオから地元の市役所の職員採用試験の案内が流れてきたんですよ。年齢もおさまっているし、転職を決意し試験を受けて無事合格、市役所職員になりました。
――転職後はどうですか?生活は変わりましたか?
変わりましたね、仕事にやりがいも出てきてライフワークバランスが良好になりました。
家族と過ごせる時間が増え、クルマに乗り、旅行にキャンプ、スキーによく出かけるようになりました。
スキーはこの冬、10回以上は行きましたね。
――話は変わって木幡さんのランドクルーザー70は水害に遭ったんですね
令和元年の台風19号で家の横に流れる川が氾濫して70だけではなく、ハイエースとバイク2台、そして家も水没してしまいました。
ここは危ないと判断して80に家族を乗せ避難し、翌日、自宅に戻ったとき、現実だと認めたくない光景が広がっていました。
茶色い湖のようになった自宅の周り、穏やかな水面に台風一過の青い空が映っていたんですよ。
そこに孤島のように水面から少し出ている四角い何かがあったんですよ。その何かが70の屋根でした。
ハイエースとバイク2台は辛かったけど諦めが付きましたが、70だけは諦められなかったんです。結婚、子供の誕生、楽しかったこと、辛かったこと。山あり谷ありの私の半生、常に傍らにあったクルマですから。
すべてを失ったと言ってもいいぐらいの被害に心が折れていた時に、四駆クラブのメンバーが何日も片付けを手伝いに来てくれたんですよ。70は内装の取り外せるものは取り外し、泥を掻きだし水で洗う。その後メンバーが経営する自動車屋さんに積載車に積んで運び出したのです。
――自動車屋さんに足を運んで進行状況とかを見に行きましたか?
私も被災者の1人でしたが、この台風でかなりの市民の方が被災しており、自分の事どころではなかったですね。70の事はいい知らせが来るように待ち続けました。
1ヶ月半経ったぐらいでしたかね、勤務中にLINEで動画が送られて来たんです。エンジンだけが映りガラガラと音を立てている動画が。
「なんだこれは?あっ!俺の70だ!」って嬉しさのあまり奇声を上げてしまったんですよ。
まずい、怒られると思ったんですが、怒られるどころか、よかったね、よかったねと、一緒になって喜んでくれたんですよ。改めてこの職場で働いて良かったと思いました。
――復活したランドクルーザー70、現在調子はどうですか?
調子はいいですよ。エアコンのコンプレッサーとミッションのベアリングが怪しいですけど。
修理もエンジン本体は問題なく、モーター類を交換したぐらいです。今のところ走行には問題ありません。お金もかかりますし少しずつ直していきますよ。まだまだ乗り続けますしね。
世界にはランクルのタフさを物語る逸話が数多くありますが、自分が当事者になるとは思いもよりませんでしたね(笑)
――持つべきは同じ趣味を持ついい友人ですね
本当にそう思いますよ、私1人だったら諦めてしまったかもしれません。
そのメンバーと今年の6月の第1土日に所属する四駆クラブのイベントが3年ぶりに開催するんですよ。コンセプトはアウトドア愛好家と四駆乗りの親睦を深めよう。第1回から変わらずやっています。
毎年全国から参加してくださる愛好家の皆さんとお会いするのが今から楽しみです。私のコミニュケーション能力は……なところがありますが。私を見かけたら声をかけてください、四駆の話をしましょう!
人生山あり谷あり。木幡遼太郎さんにはもうひとつ、“沼あり”だったのだと思います。物心が付いた頃にすでにはまってしまっていた自動車沼が。
木幡さんは小学校5年生から、東京モーターショーを観に福島から1人で大きなリュックを背負い上京していたそうです。
実は私はイベントでよく木幡さんと顔を合わす。その時必ず息子さんが傍にいます。木幡さんを追うように歩く少年はいつも大きなリュックを背負っていて、子供の頃の木幡さんもこんな感じだったんだなと想像しています。
そんな少年の姿を見て、水没から復活したランドクルーザー70は次のオーナーが決まっていて、直し直し乗り続けると言っていた意味も理解できました。
息子さんもすでに父と同じ沼にはまってしまっているんだなと。それに気づいた私は口が緩んだのでした。
(文:よしのけんいち)
[GAZOO編集部]
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