20代のオーナーがラリードライバーの夢を叶えるための相棒、2011年式トヨタ ヴィッツRS(NCP131型)
この取材を続けていると、オーナーのカーライフ・ストーリーに毎回感銘を受け、自分のカーライフも大切にしたくなる。
そこで「愛車という存在」について考えることがある。道具なのはもちろん、パートナーでもあり、「なりたい自分になるための存在」でもあるのではないだろうか。
もし、記事を読んでくださった方の刺激やモチベーションに少しでもつながっていれば幸いだ。
今回の主人公は、ラリードライバーをめざす20代の女性オーナー。オーナーの熱い夢を支える愛車は、トヨタ ヴィッツRS(NCP131型、以下ヴィッツRS)だ。
ヴィッツはトヨタの主要モデルであり、グローバルコンパクトカーとして1999年から2019年まで、シリーズ3代に渡って生産。2020年からは欧州モデル「ヤリス」に車名が統一された。
世界基準のコンパクトカーながらホットハッチとしても魅力的な1台だ。WRCをはじめとするラリー選手権での活躍は、モータースポーツファンには知られるところだ。このほかにもスーパー耐久でもベース車両として活躍し、入門者向けのワンメイクレースやラリー競技の「GAZOOラリーチャレンジ」にも用いられている。
オーナーの愛車「RS」は、全グレードのなかでもスポーティーなモデルとして位置付けられている。さらにヴィッツRSをベースとした「RS Racing」と呼ばれるモデルも存在する。このモデルは、ヴィッツのワンメイクレースなどに参戦する競技用モデルとして販売されていた。
あらかじめ軽量化され、ロールケージ・専用スポーツサスペンション・牽引フック・4点式シートベルトなどの必要な装備がすでに搭載されているので、誰でも低コストでモータースポーツを始められるのが魅力だ。
このヴィッツ RSのボディサイズは、全長×全幅×全高:3930×1695×1500mm。排気量1496ccの直列4気筒DOHCエンジン「1NZ-FE型」は、109馬力を発揮する。駆動方式はFF。オーナーの個体のトランスミッションは5速MTだ。
「私のヴィッツRSは2011年式です。所有年数は今年で3年目に入りました。現在の走行距離は4.2万キロで、所有してからは1.4万キロほど乗りました。現在はこのヴィッツRSと、以前から所有しているハチロク(スプリンター トレノ/AE86型)の2台体制です」
オーナーの愛車は、前オーナーによってGAZOOラリーチャレンジでの優勝経験もあるという。このクルマを手に入れるきっかけと経緯を伺った。
「このヴィッツRSを手に入れた主な理由は、ラリーに出場するためです。これまで古いクルマを好んで乗ってきたので、電子スロットルが主流となった今のクルマにも慣れておかなければと思ったのも理由のひとつです。
自費で転戦するのは困難であるため、まずはマイカーで出場できて、参加費もリーズナブルなGAZOOラリーチャレンジを目標にクルマを探していたところ、タイミング良く知人経由でこのクルマを売却する話が入ってきました。オーナー歴は私で3人目だと思われます」
マイカーでラリーに出場すると、実際の費用はどのくらい掛かるのだろうか?
「GAZOOラリーチャレンジの場合は、エントリー費用にタイヤ・オイルなどの消耗品・移動・宿泊費用も含めて10万円は掛かるかもしれません。でも、初心者でも比較的出場しやすい点はメリットだと思います」
この個体にオーナーの手でモディファイを加えた部分は?
「ありません。わずかな補修くらいですね。この外観は初代オーナーさんが仕上げたようです。仕様はGAZOOラリーチャレンジのレギュレーションに則しているので、ステアリングなど一部ストリート用に変えている部品を戻せばそのまま出場できます。
今後も手を入れる予定は特にないのですが、ミッションを一度オーバーホールしたいのと、競技生活を続けるなかで手を加える必要があれば、モディファイするかもしれません」
ヴィッツRSの外観は一見、上品なデカールチューンを施しているだけと思う人もいるかもしれないが、車内は完全武装だ。Deporacing製のディープコーンステアリングが目を引く。メンテナンスや変更に対応するための工具やスペアタイヤも積み込まれていた。
ラリーの競技車両でありながら公道も走れるこの個体は、日常生活でも乗っているという。
「これで通勤もしていて、たまに職場の方を乗せることもあるんです。この仕様に反応してもらえると楽しいですね(笑)。見た目には普通に見えて、よく見ると実は競技仕様車というルックスも気に入っています」
とはいえ、クルマからにじみ出る競技車両のオーラは隠せない。続いて、このヴィッツRSにマシンとして乗ってみた感想を尋ねてみた。
「コーナリング性能に優れていますね。TRD製の足回りが入っていますが、硬すぎず、しなやかさのあるセッティングです。ただ、ヴィッツRSは今まで乗ってきたハチロクよりも排気量が小さく、車重も重いんです。そのため、走りやすさの面ではハチロクのほうが好みかなという感じです。
しかし、ラリーでは同じ性能のクルマ同士で競い合うので、早くヴィッツRSを体の一部にするべく練習しなければなりません」
オーナーは学生時代から自動車部に所属し、ジムカーナやダートトライアルなど数々の大会で優秀な成績を収めている。さらに、全日本大会での優勝経験もある輝かしい戦歴の持ち主だ。
そんなオーナーがクルマを好きになり、ラリードライバーを志すまでにはどのようなヒストリーがあったのだろうか。
「そこはよく聞かれます(笑)。実は子どもの頃からクルマが好きだったわけではなく、運転免許も持っていませんでした。大学に入って何か部活を始めようかと考えていたときに、自動車部の展示を目にしたことがクルマの世界に入るきっかけでした。
部員勧誘のPRとして、遠征に使うマイクロバスが展示してあったんです。日野 リエッセだったと思います。このバスを部員自ら運転して遠征するのか……と、驚くと同時に興味をそそられました。今振り返ると、当時はなぜそう思ったんだろうと不思議ですけれど(笑)。
さっそく自動車部を訪問したところ、私有地の中でホンダ ビートを運転させてくれたんです。パワステもついていない重いステアリングを握りながら『クルマの運転ってこんなに楽しいんだ!』と感じた瞬間は、今でも鮮烈に思い出しますね」
運転免許もないゼロの状態からスタートし、モータースポーツに打ち込んで記録を打ち立てたオーナーの情熱と努力に脱帽だ。さらに「好き」の源泉を探るべく、オーナーが感じる「ラリーの魅力」について語ってもらった。
「ラリーが好きというよりは、クルマで走ることが好きなのだと思います。ラリーに魅力を感じる点は、コース上でさまざまなイレギュラーが発生することでしょうか。戦略や悪路を制する運転技術が重視されるところに惹きつけられます」
ラリーで好きなステージは?
「まだスノーステージしか経験していませんが、基本的に横滑りが好きなので、スノーやグラベルなどの低ミュー路が好きかもしれません。アクセルを開けると意外にコントロールできると分かったときや、コントロールできるコツがつかめた瞬間が最高に気持ちいいですね!」
そう笑顔で話すオーナー。走ることが心から好きなのだ。理論はもちろん感覚も大事にする、バランスのとれたドライビングテクニックの持ち主であることが伝わってきた。
オーナーの人生は、クルマに出会ったことで劇的に変わったといえるのではないだろうか。そこで「人生観を変えたクルマ」があるかどうかを尋ねてみた。
「競技で乗ってきたクルマは全部楽しかったんですけど、人生が変わったと思わせてくれたクルマは、今も所有しているハチロク(スプリンター トレノ)かもしれません。通勤から車中泊までこの1台でこなしてきました。走りはもちろん整備もこのクルマで学んだので、人生観を変えたクルマであり、大事な存在ですね」
ちなみに今、気になっているクルマは?
「乗りたいクルマは色々あります(笑)。現行のヤリスでのダートラもおもしろそうですし、スズキのマイティボーイやジムニーにも乗ってみたいです。大排気量のクルマにも乗ってみたい気持ちはありますが、腕の見せどころといえば低排気量なのかな。
自分が掛けられるコストとの兼ね合いもありますが、非力なクルマをいかにコントロールするかにワクワクするので、やはりコンパクトなクルマに惹かれますね」
「今後もラリーを続けていきたい」と話すオーナー。最後に、今後愛車にどう接していきたいか、そして将来への目標について語ってもらった。
「ヴィッツRSとともに、大会にもどんどん出る予定です。仕事と両立しつつ活動していくつもりです。ゆくゆくは会社のモータースポーツ活動に関わり、社員ドライバーになりたいです。そのためにも、まずは大会で経験を積まなければなりません。でも、この目標はこれからも言葉にしていきたいなと思います!」
取材を重ねるたびに、やはり「クルマはオーナーを選ぶ」と思ってしまう。ヴィッツRSもオーナーのラリー活動を支えるべく現れたのでは……そんな気がしてならないのだ。そして、オーナーは近い将来、夢を叶えるのではないだろうか。確信に近い予感めいたものを、オーナーから話を伺っていて感じるのだ。
「夢を叶えるクルマ」である、ラリー競技車輌仕様のヴィッツRS、そして「パートナー」であるハチロク。この2台と暮らしながら、オーナーは今日も夢に向かって奮闘中だ。ラリー会場でこのヴィッツを見かけたら、ぜひ声援を送っていただきたい!
(編集:vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
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