大切な存在ゆえに長く乗るための「最適解」を模索中。2020年式トヨタGRヤリス RZ High performance 1st Edition(GXPA16型)
振り返ると、愛車を購入するときはいくつかのタイミングが重なり、まるで用意されていたかのような出逢いだった……と思うオーナーは少なくないだろう。それは現在に至るまでの「意味のある偶然」だったのかもしれない。
今回の主人公である48歳の女性オーナーもそんな一人だ。愛車は GRヤリス RZ ハイパフォーマンス 1stエディション。
前回登場した、日産 パルサーGTI-Rのオーナーとはカップルであり「出自がWRC(世界ラリー選手権)のホットハッチ」を所有する二人なのである。
「このクルマは2020年式のトヨタ GRヤリス RZ ハイパフォーマンス 1stエディション(GXPA16型、以下GRヤリス)です。2020年に新車で購入してから5万8000キロ走り、早いもので、今年が初めての車検でした」
GRヤリスは、トヨタが2017年から復活参戦しているWRCを背景に「レースで勝つ」をミッションとし「誰もが意のままに操れるスポーツカー」を目指して開発された。
5ドアのヤリスとは異なり、3ドアハッチバックボディを持つGRヤリスのボディサイズは、全長×全幅×全高:3995×1805×1455mm。オーナーが所有するRZ ハイパフォーマンスのトランスミッションは6速MTのみ(RSではCVTの設定もあり)。駆動方式は4WD(RSはFF)。搭載される排気量1618ccの直列3気筒直噴ターボエンジン「G16E-GTS型」は、最高出力272馬力を誇る。
基本グレードは、CVTを搭載したスポーティな「RS」、新開発の4WDシステム「GR-FOUR」などを搭載した「RZ」、カラードキャリパーやピアノブラック塗装が施されたラジエーターグリル・フロントサイドディフューザー、8スピーカー(JBLサウンドシステム)などの専用装備が追加された「RZ パフォーマンス」が設定されている。
ノーマルの状態でグッと張り出した前後のフェンダー、さらにカーボンルーフが存在感を放っている。ドアやエンジンフード、リアハッチにはアルミを採用。オーナーが所有する個体は「RZ」の最上位モデル「ハイパフォーマンス 1stエディション」だ。トルセンLSDをはじめ、専用設計のプレミアムスポーツシートやBBS鍛造アルミホイールなども搭載。フロントウィンドウには、1stエディションの証である “モリゾウ”こと豊田章男会長のサインがあしらわれ、クルマづくりへの想いの強さが伝わってくる。走行性能と質感がより高められたグレードとなっている。
オーナーとGRヤリスとの出逢いは、2020年の東京オートサロンだという。まずは“劇的な出逢い”を振り返っていただいた。
「東京オートサロンには、会場が東京ビッグサイトになった頃から開幕日に行くようにしているんです。2020年もいつものように前泊して、宿でひと息つきながらオートサロンの情報をネットで見ていたんですね。するとそこに、世界初公開されるGRヤリスが紹介されているではないですか!情報は小出しにリリースされていたみたいですが、私はヴィッツからモデルチェンジしたコンパクトカーのヤリスしか知らなくて…。スペックを見てみると、専用ボディや18インチというタイヤサイズ、馬力まで『タダモノではない』と感じました」
存在を知り、翌日には実車との対面……まるで用意されたかのような出逢いだ。オーナーはGRヤリスのどんなところに惹かれたのだろうか。
「まずスペックを見た時点で欲しいと思いました。当時はちょうどクルマの買い替えを検討していた時期で、新車で買えて運転が楽しいモデルがあればラッキーと思っていたので、本当にグッドタイミングでした。しかも職場仲間のクルマと被らない点も良いなと。職場にはクルマ好きが結構いて、ロードスター、RX-7(FC3S型)、86などに乗っています。みんなと車種が被らないようにゆっくり探していたところだったんです」
愛車であるGRヤリスは通勤にも使っているそうだ。最新のスポーツカーに乗って出社したとき、職場仲間の反応はどうだったのだろう。
「すかさず聞いてくる人がいました(笑)。話も盛り上がって『良いね』といってもらえましたし、『待たずによく買えたね』ともいわれましたね。当時は1stエディションの予約期間が1月から6月まであり、実際は7月にオーダーして10月に納車されました。自分の中では待ちわびていたけれど、現状を考えると早いほうですよね。
それから、このボディカラーも褒められます。最初はプラチナホワイトパールマイカかエモーショナルレッドIIかで迷ったんですよ。ただ、白系のボディカラーはGRヤリスでも多数派だろうと思ったので、同じボディカラーに塗られているプリウスを探し出してディーラーへ見に行き、実車の色味を確認してから決めました。やはりこの色にして良かったと思います」
ボディカラーを実車で確認するほど、クルマ選びの細部にまでこだわるオーナー。これまでどんなカーライフを送ってきたのだろう。そこで、最初にクルマ好きになったきっかけを伺ってみた。
「学生時代に運転免許(AT限定)を取得して、母のお下がりのマーチ(K10型)に乗っていました。街で同じ型式のマーチとすれ違うと、エアロパーツやホイールでカスタムしてあってかっこいいんですよ。そんなときに自分のクルマと比べて『かっこいいクルマは自分のクルマと何が違うのか、何が足りないのか』と思い始めたことがきっかけです」
続いて、クルマ好きになってからの愛車遍歴も尋ねてみた。
「マーチから日産 180SXの後期型を新車で購入しました。そしてシルビア(S14型)、スバル インプレッサWRX(GC8型)、レガシィ B4(BL5型)を経て現在に至ります。インプレッサからは運転免許を限定解除してMTに乗り続けています。運転技術の上手下手は抜きにして、MTはシンプルに操作すること自体が楽しいですね」
走りに特化したクルマを選んできたオーナー。クルマを選ぶ基準は早い段階でできあがっていたようだ。
「結構“見た目重視”かもしれません(笑)。やはりスポーツカーはカッコ良いですから。FR車の次は4WDのターボに乗りたいと思って、スバル独特のボクサーサウンドが好きだったこともあり、インプレッサとレガシィを乗り継ぎました。いちばん長く乗ったのはレガシィですね。約10年乗りました」
もっとも長く所有したレガシィは、オーナーにとって特別な1台だったに違いない。さらに“人生観を変えた1台”として、掘り下げて伺ってみた。
「人生を変えたとまでいうと大袈裟かもしれませんが、モノに対する価値観を変えたのはレガシィですかね。乗っていたのはWR-Limited という、専用装備や内装を備えたグレードだったんですけど、ボディと同じブルーを基調とした内装が綺麗で大人っぽい仕様でした。今まで乗ってきたスポーツカーとはちょっと雰囲気が違いますね。それにともなって普段身につける洋服やアクセサリーなども、質が良くこだわって作られたものを選ぶようになりました」
GRヤリスの最上位グレード「RZ ハイパフォーマンス」を選んだのも、過去の愛車であるレガシィが源流かもしれない。GRヤリスがお気に入りのようだが、ほかに気になるクルマはないのだろうか。
「欧州車が好きなので、アウディ TTも候補でした。レクサス ISもMTの仕様があれば良いのにと思います。スカイラインGT-R(R32型)は昔から気になっていて、買い替えなどの節目で必ず頭に浮かぶ1台です。運転してみたいなと思います。確かに当時の経済状況もあったんですけど、金額だけでいうと新車のGT-Rは、GRヤリスとほぼ同額なんです。
最近考えるのは、あの時代を代表する国産ハイパフォーマンスモデルはGT-Rだったけれど、現代ではある意味、それがGRヤリスかもしれないですね。戦うステージは違いますが、似たような性能が3気筒で出せるようになったのかな......とか考えたりします」
話はGRヤリスに戻って、普段のカーライフを教えていただいた。
「ドライブを楽しみつつ、旅行したり仲間とツーリングしたりすることが多いです。同じGRヤリスのオーナーやクルマ仲間の存在は大きいですね。サーキットでスポーツ走行するようになったのも仲間がいてこそです。特に、国内屈指の高速コース“富士スピードウェイ”に挑戦できたのもそうです。GRヤリスを通じて仲間に恵まれていることが、今までのカーライフとは大きく違うところです」
充実したカーライフを送っていることがひしひしと伝わってくる。続いて、GRヤリスのオーナーにはどんな方がいるのか尋ねてみた。
「老若男女で、カスタマイズも十人十色です。年齢層でいうと、自分よりも年上の男性が多い印象です。オーナー同士でGRヤリスの情報交換も盛んです。共有している情報は、本人のインプレッションであることがほとんどなので、信頼できてありがたいです」
サーキットでスポーツ走行を楽しむ機会も増えたというオーナー。ここでモディファイについても尋ねてみたい。購入後に手を加えた部分は?
「オプションのエアロパーツが納期の関係で納車後の取付けになったこと。あとはブレーキライン・ブレーキパッドですね。そこまでハードな走りをするわけではありませんが、たまのスポーツ走行に備えておきたいところです。それからアイドリングストップキャンセラー、スロットルコントローラーも追加したことで、アクセルのレスポンスがイメージ通りになり、快適に走れています。そのほかには車高調も入れています。コーナリングではきちんと踏ん張ってくれるのに、長時間運転していても疲れません。私に合った足回りになったと思います」
モディファイするうえでのこだわりは?
「あまり変えすぎないことですね。もともと良いクルマですので……例えば、BBSの鍛造アルミホイールは交換する必要ないと思いますし」
“オンリーワンの1台”としてすでに完成の域にあるようだ。それでは、愛車でもっとも気に入っているポイントはどこなのだろうか。
「ほぼ全部……。等身大というかちょうどいい、本格的なスポーツカーでありながら心地いい存在感があるところかもしれませんね。気に入っているアングルならあるんですよ。やはり斜め前から。左右どちらからでもOKなんですけど、ちょっとローアングルで斜め前からの見た目がいちばんカッコ良いと思います」
すでに答えは出ているようだが、最後にあらためて今後愛車とどう接していきたいかを伺ってみた。
「もちろん長く乗りたいですが、今後は長く乗るための『乗り方』を考えたいです。新車から結構な距離を走ってしまったので、日常使いのクルマを増車して2台体制もありでしょう。将来的にガソリン車も貴重な存在になるだろうと考えると、粗末にしたくない。でも“盆栽”のような乗り方もしたくないので、最適なバランスをこれから見つけていきたいです。基本的に長く乗りたいタイプなので10年、20年後もGRヤリスに乗っていて良かったなと思いたいですね」
GRヤリスと充実したカーライフを送るオーナー。今後は人生の伴侶も得て、新たなるステージも待っているようだ。10年後も20年後も、愛するクルマたちとともに幸せなカーライフを……と、願わずにはいられない。素敵な二人に出会えた取材だった。
(取材・文: 松村透<株式会社キズナノート> / 編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
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