自然を相手にする“遊びのプロ”が出会った、トヨタ タンドラという相棒
数年前からブームになっているSUP(スタンドアップパドルボード)。福島県会津若松市でSLUCKというショップを経営する“ANI”こと本間勝則さんは、猪苗代湖で初心者向けにSUPスクールを開催している。愛車は、初代トヨタ タンドラ。日本では正規で販売されていない北米トヨタのピックアップトラックだ。
現在50歳の本間さんは、20歳でスノーボードに出会い、25歳からプロスノーボーダーとしての活動をスタート。大会への参加のほか、海外でのイメージムービーの撮影、スノーボードパークの企画・設計、バックカントリーツアーのガイドなど、さまざまな形でスノーボードの普及に尽力してきた。
そして「多くの人に自然の中で遊ぶ楽しさを伝えたい」と11年前にSLUCKをオープン。スノーボードのほか、SUP、スケートボード、BMX、古いバイクのレストアなど、1年を通して本間さんが面白いと思う遊びを発信している。
雪国で暮らし、ウィンタースポーツを生業にしているのだから、これまで乗ってきたクルマもSUVや4WDのステーションワゴンが中心だろう。そう思いながら愛車遍歴を尋ねると、意外なクルマの名前が次々にあがり、面食らった。
「僕は山道をクルマで走るのが好きで、20代の頃はFRスポーツで楽しんでいました。初めての愛車は、先輩から譲ってもらったハコスカの2ドアGTです。ただ、別の先輩に貸した時に調子にのって廃車にされてしまったんですよ。それで次はMTのトヨタ ソアラGTを手に入れて、同じように山を走っていました」
雪のない季節に山を走るのはわかるが、スノーボードをするときはどうしていたのだろう。FRスポーツだとかなり苦労したのではないか。
「ハコスカやソアラにスノーボードを積んで山に行っていましたよ。スタッドレスタイヤさえ履いていれば普通に登っていけますし、コントロールを失うような走りさえしなければ大丈夫です」
プロになって数年経った頃、本間さんはFRから4WDに乗り換えることに。当時はラリーに興味があったこともあり、選んだのは初代スバル インプレッサWRX。スノーボード中心のライフスタイルでも選ぶのはあくまでスポーツカーだった。
インプレッサに乗っていたとき、たまたま安くて調子のいいトヨタ ランドクルーザー60を見つけた。長期の遠征だと荷物がかなりかさばるため、大きなクルマが1台あってもいいかなという軽い気持ちで手に入れる。
今まで乗っていたスポーツモデルが“趣味重視”のクルマ選びだとすると、ランクルはライフスタイルに合わせた“実用性重視”のクルマだ。これが本間さんの中で見事にハマり、購入後8年間も乗り続けることになる。購入時点で8万kmほどだった走行距離は、手放す時には40万kmに迫っていたという。
「合宿している岩手から大会に出るために奥志賀まで走るなど、文字通りランクルで全国を走り回っていました。しかも当時はお金がなかったから、全部下道でね。移動だけで丸一日かかるから到着する頃には体はガチガチでしたよ」
その後はクルマを仕事で使う機会が圧倒的に多くなり、シボレー アストロやビュイック リーガルワゴンなど、人がたくさん乗れて荷物もたっぷり積めるクルマ選びに。アメリカ車を選んだのは、自分のスタイルにこだわりたかったから。本間さんはもともと手先が器用でものづくりが得意。そこで、パーツを安く手に入れて、後輩が経営する中古車屋の軒先を借りて自分でカスタムしていたそう。本間さんが手を加えたクルマは仕上がりがキレイだったこともあり、購入価格よりも高く売れることが多かったという。
SLUCKをオープンしてからは、トランスポーターの定番であるトヨタ ハイエースをチョイス。その後、SUPを扱うようになり、荷物の大きさを気にせず荷台にバンバン荷物を載せられるピックアップトラックが便利だと考え、4年前にタンドラに乗り換えた。
タンドラはトヨタが北米のピックアップ市場へと本格的に進出するために開発したモデル。アメリカではピックアップトラックにも快適性が求められるため、本革シートをはじめ、ラグジュアリーな装備がおごられる。
2007年に登場した2代目からアメリカのビッグスリーと対等に渡り合えるよう豪華な仕様になり、ルックスも押し出し感を高めたスタイルになった。一方で初代はトラック然とした乗り味で、ルックスもそこまで押しが強くない。本間さんは2代目より初代の方が好みだったので、初代に的を絞って探したという。
しかし、いくら押しが強くないとはいえ、フルサイズピックアップトラックのタンドラは全長5.5mオーバー、全幅2mオーバーという圧巻のサイズ。SUPのような大きなものを積むのに便利なのはわかるが、日本の道だと大変だと思うのだが……。ましてやタンドラは日本のトヨタが正規で販売しているモデルとは違う、並行輸入車だ。何かトラブルが発生してもディーラーに整備は依頼できないし、パーツ調達も苦労するはずだ。
「福島県内はもちろん、これで都内に行ったりもしますが、大きすぎて困ったことは全くありません。むしろこのサイズと4.7L V8エンジンならではの余裕ある走りで高速道路をのんびり気持ちよく走れるから楽ですよ。並行輸入という点も気にはなりませんでした。僕の父は根っからの“トヨタ党”で、子どもの頃から家にはいつもトヨタ車がありました。父からトヨタの良さを聞かされて育ったので、僕の中には“信頼のトヨタ”というイメージが刷り込まれています(笑)。実際、大きなトラブルはないし、今はネットがあるから消耗部品も簡単に探せる。並行輸入車だから困ったという経験はないですね」
SUPは荷台に組んだヤグラの上に数枚積む。インフレータブルタイプ(空気注入式)のSUPは畳んで荷台に載せる。タンドラなら最大でSUPを7枚積むこともできるそうだ。冬はヤグラを外してトノカバーを装着。そして中にスノーボードを突っ込んで、山に入っていく。
「SUVだと滑り終わった後にボードについた雪をはらったりと車内を汚さないよう気を遣わないといけないのですが、ピックアップトラックは何も気にせずガンガン荷物を積める。リアガラスがパワーウインドウになっているから、キャビン側からも荷台に荷物を放り込める。僕は今、ハーレーにも乗っています。タンドラは荷台にハーレーを2台積めるので、クルマで旅に出て旅先でバイクに乗るという楽しみ方もできる。実は今、店舗拡張でショップの横に自分でトレーラーハウスを作っているんですよ。SUVだと積みきれないような長い材木や工具もピックアップトラックなら余裕で積める。タンドラは今の僕のライフスタイルにもっとも合っているクルマだと思っています」
シーズンを通して自然の中に身を置き、新しい遊びを提案する。そんな本間さんに憧れる若者がSLUCKに集う。今のライフスタイルが続くうちは、タンドラから新しいクルマに乗り換えることはできないかもしれない。
「そうですね。タンドラは道具としてとても優れているし、当分乗り換えるつもりはありません。ただ、『ANIが乗っているクルマが欲しい』という人が現れたら譲ってしまうかも(笑)。そうなったらソアラなど僕が若い頃に乗っていた80年代のスポーツカーにもう一度乗ろうかな。今でも無性にMT車で山を走りたくなることがあるんですよね」
今、本間さんがMTモデルを選んだら、店に集う若者たちの間ではスポーツカーがちょっとしたブームになるかもしれない。自分がおもしろいと感じたものをその世界を知らなかった世代に自信を持って伝えていく。それこそが本間さんのライフスタイル。本間さんを慕う若者たちは、そんな生き様に憧れているのだろう。
(取材・文/高橋 満<BRIDGE MAN> 撮影/柳田由人)
[ガズー編集部]
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