トヨタ エスクァイアの、いやクルマにおける「プレジャー」とはそもそも何なのか?

いわゆるカーマニアの間では、ミニバンというのはさほどウケがよろしくない。「運転がつまらない」「動きがもさっとしている」「フォルムが美しくない」といったあたりが、おそらくはマニアから敬遠される理由なのだろう。

それらはもっともな部分でもあり、また「クルマを所有する目的のひとつとして、その“操縦”自体を楽しむためである」のような考え方についても、わかるつもりだ。

だが、百数十年前に「ガソリン自動車」というものが発明されたそもそもの理由から考えれば――つまり、操縦の歓びの以前に「人間を徒歩や馬車から開放し、速く、ラクに、半ば自動的に、人を遠くまで運び、そのことによって、人の生活をより豊かなものにする」という本来の目的から考えるなら、ドライビングプレジャーというのは(極論すれば)副次的なものであり、そこだけにとらわれるのは「ぜいたくな悩み」でしかない。

クルマというのは、それがどんなタイプであろうと、ちゃんと動く限りは「存在そのものがプレジャー発生器」なのである。

……なんてことを、ミニバンを使って人生そのものを楽しんでいる人を見るたびに、比較的古くさいタイプのクルマ好きである筆者は――自戒の念を込めながら――つい考えてしまうのである。

例えば2014年式 トヨタ エスクァイアに乗る坊田さんご一家だ。

坊田 亮さんと文さんが結婚した当初は、中古の日産 モコで間に合わせていた。しかし長女の晴香さんに続いて2010年に長男の優樹くん――今回の準主役である、今や小学4年生の野球少年に成長した優樹くんが生まれると、さすがに軽自動車のモコでは手狭になってきた。

そのため坊田さんは2010年、トヨタのミニバン「アイシス」へと買い替えた。

基本的にはアイシスに満足していた坊田さん夫妻だったが、坂道の多い自宅付近での燃費があまりよろしくなかったということと、亮さんいわく「トヨタの熱心なディーラーマンに推されまくったため(笑)」2014年、現在のトヨタ エスクァイア ハイブリッド Giに乗り替えることになった。

「エスクァイアは走りがすっごく安定してるし運転しやすいし、そして燃費も、アイシスは8km/Lぐらいだったのですが、エスクァイア ハイブリッドは坂の多いウチの近所でも13km/Lぐらいは走ってくれるしで、かなり大満足でしたね」

そんな大満足なエスクァイアで、もともと大好きだったキャンプなどを楽しむようになった坊田家の面々だったが、いつしかキャンプ場からも足が若干遠のいていった。

「2017年には次男の佳樹も生まれて子どもが3人になりましたので、子育てには追われるし、平日は仕事がかなり忙しいしで、気がついたら『週末の午前中は、家の中で何をするでもなくダラダラ過ごし、気がついたら昼になってる』みたいな感じになってしまってましたね……」

そんな坊田さんの週末を変えるきっかけとなったのが、長男・優樹くんが昨年6月に始めることになった「学童野球」だった。

「野球にはぜんぜん興味を持っていなかった優樹から『チームに入りたい』って言われたときは、驚くと同時に、私的には正直ちょっと微妙だったんですよ。ほら、子どもの野球チームって、親が運営をかなり手伝わないといけないって聞いてましたから、『……そうなると自分の時間が減っちゃうなぁ』なんて内心、思ったんですよね。優樹には申し訳ないですが」

以前と比べれば、父兄による「自発的な手伝いという名目の半強制的なお茶当番」みたいな風潮はなくなってきているという。だがそれでも、グラウンドへの送迎や試合観戦、あるいは指導の手伝いや球拾いなど、学童野球選手の親がやらなければならないことはたくさんある。

「でも、だからといってダメとも言えませんので(笑)、『よしわかった!やるからには頑張りなさい!』みたいな感じで、やらせることになりました」

学童野球の練習または試合はほぼ毎週あるため、亮さんの週末は優樹くんおよび近所に住む選手らの送迎とグラウンド整備、そして――亮さん自身は野球経験者ではないため――球拾いに忙殺されることになった。

それってけっこう大変じゃないですか?と問うと、「そりゃ大変ですよ」と坊田 亮さんは答える。しかし……。

「しかしですね、いざやってみると、これがけっこういいものなんですよ!」

とも言う。どういうことなのか?

「今までの週末はひたすらダラダラしていて、気がついたら『もう昼過ぎてるじゃないか!』みたいなことがしょっちゅうだったのですが、今は早起きして、朝9時には子どもたちをエククァイアでグランドまで送って行き、そしてまぁグラウンド整備と球拾いぐらいしか私はできないのですが(笑)とにかく身体を動かして汗をかき、そして12時には練習や試合が終わる。で、また子どもたちを家まで送っていくわけですが、それでもまだ昼過ぎぐらいなんです」

なるほど。

「でもこっちは早起きして身体も動かしてるじゃないですか?だから頭と身体はシャキッとしてるんですよね。そのため、午後や夕方の時間も有効に使うことができる。……優樹が野球を始めてくれて、そして我が家にエスクァイアというクルマがあって、本当に良かったと思ってますよ。今にして思えば、ですが」

そして優樹くん自身も大いに変わったと、父である亮さんは言う。

休日ともなればスマホでゲームやYouTubeに没頭していたため、目も悪くなってしまったという優樹くんだったが、今では、気の合う仲間とプレーする野球を存分に楽しむ、たくましい少年に変わりつつある。

「男の子も9歳10歳ともなれば、父親なんかより友達のほうが大好きになりますので、父子の会話もずいぶん減っていたんです。でも一緒にエスクァイアに乗る時間が多くなってからは、またいろいろ話せるようになってきました。その意味でも、野球とエスクァイアには感謝したいですね」

カーマニアに言わせれば「ありきたりなミニバン」でしかないのかもしれない、トヨタ エスクァイアというクルマ。

しかし坊田さんのそれは、息子を乗せ、その大切な友人も乗せ、そして受験を控えた長女の塾への送迎や、次男・佳樹くんを伴っての買い物などにも使われながら、そして選手たちがグラウンドで付けてきた泥にちょっと汚れながら、週末のたびにフル稼働している。

この使われ方と乗員たちの笑顔、そしてエスクァイアが乗員たちの人生にもたらした歓びを、もしも百数十年前の“自動車の発明者たち”が見ることができたならば……「うむ!クルマというものを発明して本当に良かった!感無量である!」と言うはずだ。たぶん。というか、絶対に。

(文=伊達軍曹/写真=阿部昌也)

[ガズー編集部]

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