花農家のハイゼットトラックは「ソロキャンプのお供」としても絶品だった

「大きなトラック」については、ドライバー各位がさまざまなこだわりをもってカスタマイズを施しているケースも多いことは、よく知られているだろう。いわゆるデコトラにしてみたり、そこまではいかずとも、さまざまな小ワザを随所にちりばめてみたりと。

だが「軽トラ」に関してはどうだろうか?

農業・建築業・商業等々のさまざまな分野で軽トラは広く愛用されているわけだが、それらは「どれもほとんど同じ」であり、「特にこだわりはなく、ただただそのまま仕事道具として、機械としての寿命を迎えるまで使い倒している」と思ってはいないだろうか?

もちろん、そういったケースもある。だが「そうではないケース」だってあるものだ。

例えば2012年式ダイハツ ハイゼットトラックに乗る、神奈川県の吉垣和也さんである。

『吉垣花園』という、農薬や化学肥料をつかわないオーガニックフラワーを年間100品目以上生産し、全国のお花屋さんや個人消費者に卸している花農家の3代目である吉垣さん。そのダイハツ ハイゼットトラックは、遠目には「そこらへんをたくさん走っている商用軽トラの1台」でしかないかもしれない。

しかし近寄って見てみれば、そして吉垣さんに話を聞いてみれば、私やあなたが普段乗っている自家用乗用車とそう大きくは変わらないこだわりが、この畑の泥で汚れた軽トラには詰まっており、そして吉垣さんにとっての「日々の大切な相棒」でもあることがよくわかるはずだ。

現在41歳の吉垣和也さんが、家業である花農家を継いだというか、川崎市の『吉垣花園』に入社したのは20歳のとき。クルマ好きでもある和也さんは1960年代の510系日産 ブルーバードや、1980年代のT4と呼ばれるフォルクスワーゲン ヴァナゴンなどをプライベートでは愛用していたが、それはそれとして「家業のクルマ」としてはトヨタ ハイエースバンがあり、その後にはスバル サンバーバンなどがあった。

そしてサンバーバンが退役し、ダイハツ ハイゼットトラックが吉垣花園に“制式採用”されたのは、前述のとおり2012年。20歳で入社した和也さんが、先代に代わって農園の“主力”になり始めた頃だ。

さまざま存在する軽トラ各種のなかで和也さんがハイゼットを選んだのは、「エンジンの最高出力が競合車種より2ps高かったから」。そして起伏の多いファーム内を駆け巡る必要があるため駆動方式は必然的に4WDが選択され、限られたパワーとトルクを確実に路面に伝えたいという意味で、トランスミッションは5MTが選択された。

ここまでは商用車として、吉垣和也さんの場合は「畑で花を集荷し、それを出荷するためのクルマ」として、まぁ普通の選び方かもしれない。「頭上スペースが狭苦しいのが嫌いだから」ということで標準ルーフではなくハイルーフを選択したというのも、主には仕事道具としての考え方に基づく。

だが吉垣和也さんはこのハイゼットを、花の集荷や出荷だけではなく、実は「キャンプのお供」としても使っている。

「私の家にはこれのほかに日産 セレナもありますので、カミさんや子どもたちを連れてキャンプに行くときは、当然ですがセレナで行ってます。でも私ひとりでソロキャンプに行くときは、ハイゼットで行ってるんですよ。『セレナは家族が使うから、仕方なく、空いてるほうのハイゼットで行く』のではなく、むしろ積極的に、好んでハイゼットで行ってるんです」

日産 セレナに限った話ではなく、ああいったミニバンやSUVなどは確かに便利ではあるのだが、同時に、キャンプのお供として使うには若干不便な点もあるのだという。

「端的に言うと、車内が汚れちゃうじゃないですか? 使い終わった炭とか、キャンプ用のさまざまな燃料とかを積み込むと。だからといって、キャンプの現場でいちいちそれらをキレ~イに拭いてから積載するのも面倒ですし、なんというか、そこをいちいち細かく気にするのは、ソロキャンプというものの本筋から言うと違うんじゃないか――と、僕は思うんですよね」

そのため和也さんは、家のセレナが使えるときでもあえてハイゼットトラックにキャンプ道具一式を積み込み、そして一夜を過ごしたあと、使った道具類を文字通り軽トラの荷室に放り込み、帰宅する。

「それが何とも言えず気持ちいいですし、楽しいんですよね。今どきこういう言い方はアレかもしれませんが、“ザ・男道!”という感じで(笑)」

キャンプのお供としても映えるよう、カーゴ部分のゴムバンドは、右側面用がかわいい赤、左側面用がミリタリーっぽいオリーブ色を選択。そして――もちろん業務のためでもあるのだが――夜のキャンプ地での明かりにもなる荷室内のライトは、暖かみのある電球色とした。ちなみに業務用の後部幌の後端は、スタンドを使えば「便利なタープ」としても活用可能なのだという。

「ですから、別に無理して軽トラでキャンプに行ってるというわけではぜんぜんなく、コレでキャンプに行くのが好きなんですよ。5MTですから、もちろん速くはないですが普通によく走りますし、そもそも速くある必要もないわけですしね」

確かに、考えてみればそのとおりだ。

「そして最近はね、軽トラでキャンプに行ってるのって僕だけじゃないんですよ。“軽トラキャンパー”の数って確実に増えてるんじゃないかなと思います。だってそりゃそうですよね。軽トラって、本当の意味でヘビーデューティな(極めてじょうぶな、頑丈な、過酷な使用に耐える)クルマですから。仕事だけに使うのはもったいですよ」

とはいえそんな吉垣和也さんも、ソロキャンプに行くためのクルマとしては「現行型のスズキ ジムニーにも興味津々」であるとは言う。

だがさしあたってまだ、吉垣フラワーファームの業務を支え、そして吉垣和也というひとりの人間の、良い意味での「孤独」を支えてきてくれた2012年式の軽トラを、“退役”させるつもりはない。

(文=伊達軍曹/写真=阿部昌也 吉垣花園インスタグラム=yoshigaki flower farm)

[ガズー編集部]

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