僕はアルファロメオに“恋”をして、日産 ラフェスタを“信用”した

昔はそれなりに高くそびえ立っていた、輸入車と国産車の間にある“垣根”のようなものも、昨今はずいぶん低くなったように思える。それは流通や価格の面においても、品質の面においても、である。

だが、実際の垣根が低くなっても「心理的な垣根」というのはまだまだ高いようだ。輸入車党は輸入車を選び続け、国産車党は国産車を選び続けるというケースのほうが、「輸入車と国産車の間を自在に行き来する」というケースよりは圧倒的に多いだろう。

そこで興味を覚えるのが、「超輸入車党だった人が、何らかの事情で国産車に乗るようになったとき、しかも“国産ミニバン”に乗る事態になったとき、果たして彼または彼女は何を思うのだろうか?」ということだ。

例えば、2004年式の日産 ラフェスタに乗る神奈川県川崎市の自営業、伊東祐司さんである。

18歳で運転免許を取得すると同時に買った車こそ3代目のホンダ シビック(通称ワンダーシビック)で、2台目も初代トヨタ MR2だったが、その後は一貫して欧州車を買い続けた。

「もちろんヨーロッパ車のエンジンフィールや足回りの感触が好きだからというのもあるのですが、それ以上に、ヨーロッパ車のカタチと色づかいが好きなんですよね」

造形と色味の細部にこだわるのは、伊東さんの“職業柄”でもあるのだろう。

職業はモデラー。自動車メーカーや模型メーカーなどからの依頼に基づき、ミニチュアカーを製造する際の元となる「型」を作るのが伊東さんの仕事だ。

「美術系の学科がある大学に通っていた頃にプロのモデラーさんと知り合い、『面白そうだな』と思ってお手伝いを始めたら、その後就職もせずにズルズルと、僕もモデラーになっていました(笑)」

そのように苦笑する伊東さんだが、その技術と経験はさすがとしかいいようのないものだ。

現存している車であれば、3Dスキャンをして型を作ることも可能である。だが、現車はもはやこの世に1台も存在せず、「写真しかありません」という車種の場合は写真だけを頼りに、その車をリアルタイムに知る人も納得するシェイプを、彫刻刀で掘っていくしかない。そしてそれができるのが、伊東祐司という稀有なモデラーなのだ。

「まぁそんなにおだてないでほしいのですが(笑)、やはりどうしてもカタチと色に目が行ってしまうので、そうなると『欧州車のほうが、そこについては上だな……』と正直、感じてしまうんですよね」

その結果、伊東さんがこれまで乗ってきた車はアルファロメオ スパイダーやアルファスッド、現在も所有しているアルファロメオ GTV6、そしてローバー ミニにフィアット パンダ、ランチア テーマワゴン等々々々々々というものになった。

しかし、「趣味車」としてのアルファロメオ GTV6と「買い物グルマ」としてのアルファロメオ 156スポーツワゴンを同時に所有していた頃、伊東家には長男が生まれた。

そしてその前の2011年には、東日本大震災により「被災犬」となった福島県の犬を保護し、川崎市の自宅で飼うようにもなっていた。

「そうなるとですね、アルファロメオのステーションワゴンだと正直いろいろな問題も出てくるんですよね……」

まずは「子どもと犬を乗せるには少々狭い」という問題が生じたわけだが、まぁそこについてはなんとかならなくもない。

どうにもならなかったのは「故障」だ。

「タイミングベルトが切れかけたり、子どもを乗せているのに燃料計の故障が原因でガス欠になって、道端で止まってしまったりで、妻から言われてしまったんです。『……さすがに、そろそろ1台は普通の車にしてください』って。で、それもそうだよな……と納得できたんですよね」

そうして、免許取りたての頃を除けば「初めての国産車選び」が始まった。

「アルファロメオのワゴンを売却したお金で買える車」というのがまずは大前提で、そのうえで「子どもと出かけるのに適していて」「後部座席および荷室に乗る犬が快適で」「いろいろと楽しそうで」「色が良くて」「駐車場でドアパンチをするリスクがないスライドドアの車で」という条件で探しはじめた伊東さん。

とはいえ、条件に合う車種はなかなか見つからなかった。

「妙にプレスラインが仰々しかったり、ちょっといいなと思ってもヒンジドアだったり、ボディカラーが白・黒・銀ばかりだったりで……『これぞ!』というのが見あたらなかったんですよねぇ」

だがそんなある日、中古車情報サイトでたまたま「いい色」を見つけた。

「今にして思えばラフェスタの『グラスグリーン』という純正色なんですが、この緑はいいな、ちょっと素敵だな……と思いましたね」

しかしグラスグリーンという素敵な純正色を擁する日産 ラフェスタも、実際にその色をまとっている中古車は希少で、市場にある中古車のほとんどは「白・黒・銀」だった。

そのため伊東さんは、川崎市の自宅からけっこう離れた場所にある日産ディーラー系販売店まで現車を見に行くはめになったのだが、遠征しただけの価値はあった。

素晴らしい色、そして素晴らしいカタチだった。

「無駄な線が少ないんですよね。鉄板をわざとらしく折ったりへこませたりして“峰”を作らず、全体がスッとしてる。そして内装もベージュの明るい色合いで――この時期の日産車はキューブとかもそうですが、インテリアデザインもけっこういいんですよね。で、『これなら飽きずに乗れそうだな』ということで決めました。今から3年半ぐらい前のことです」

イタリアのアルファロメオばかりに乗ってきたわけではないが、主にはアルファロメオに乗っていた輸入車愛好家が「日産 ラフェスタ」なる超ファミリーカーに乗ってみると、果たしてどのような気持ちになるのだろうか?

「それがですね……けっこういい感じなんですよ(笑)。いやもちろん、手放しで絶賛するわけではないです。アクセルペダルを踏むとグワッと前に出ちゃうスロットル特性は正直どうかと思いますし、電動パワステのフィーリングも決して良くはないと思ってます。でも……」

でも?

「正直、普段づかいをする車に日本で乗るなら、ヨーロッパ車よりも国産車のほうがいいな――というのが、ここ3年半ほど乗ってみての結論ですね。日本人の国民性が現れているからかどうかは知りませんが、とにかく細かいところがちゃんとしてるというか、“気遣い”が感じられるんですよね」

2列目・3列目のシートを倒すと普通にほぼフラットになる。その際、わざわざヘッドレストを外す必要がない。中古車であってもエアコンがしっかり利く……などの点は、いわゆる国産車党の人に言えば「何を今さら!」と笑われるのだろう。だが、輸入車党というか「往年のヨーロッパ車に慣れている人間」からすると、ちょっとした驚愕なのだ。

「イタリア車だと、フラットにできるつもりの設計なのに、なぜか斜めにしかならなかったり(笑)、そもそもぜんぜんフラットにはならないのがデフォルトで、そういう部分についてはあきらめながら『でもデザインとエンジンが素敵だからまあいいや!』みたいな感じで乗るのですが、国産車は……そういうところは本当によくできてますよね。感心を通り越して、ちょっと感動すらしています」

もちろんアルファロメオのワゴンに乗っていたときも、妻と息子、そして愛犬を乗せてのドライブを楽しむことはできた(まぁたまに故障して大変ではあったが……)。

だが日産 ラフェスタという国産ミニバンに乗り替えたことで――何と言えばいいだろうか。「幸福度が増した」と言うとちょっと違うし、「より楽しくなった」というのも違うだろう。なぜならば、家族や愛犬とのドライブというのは、それがどんな車であったとしても、基本的には楽しくも幸せなものであるからだ。

だがそれでも――「幸福度が増した」という表現が、もしかしたらもっとも適切なのかもしれない。

思いたったときに自由に、広々と、家族および愛犬とともに移動するプレジャー。そのプレジャー成分は、往年のイタリア車の中にももちろん存在しているわけだが、その空間が大きい分だけ、ミニバンのほうが「より含有量が多い」ということなのだろう。

「だからといってアルファロメオのGTV6を手放すつもりはありませんが、それと同時に『ラフェスタを手放すつもりもない』というのが、今の正直なところです」

5ナンバーサイズながら広々とした空間に寝そべる息子と愛犬を見つめながら、伊東さんは言った。

(文=伊達軍曹/撮影=阿部昌也)

[ガズー編集部]

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