冬はデリカD:5に乗り雪山で暮らす女性スノーボーダー。オフシーズンの愛車は?

GAZOOスタッフは新潟県の湯沢エリアにある石打丸山スキー場で、普段はスノーボーダーとして活動している石田紗也佳さんと出会い、愛車を見せてもらうことができた。

駐車場に置かれていたのは三菱 デリカD:5。3列シートにSUV並みの屈強な4WD性能や強靭なボディが与えられた、唯一無二の存在として知られるミニバンだ。

デビューは2007年1月だからすでに15年も経過していることになるが、2019年2月には内外装のデザインを刷新。三菱のデザインアイデンティティであるダイナミックシールドを取り入れ、精悍さと力強さを共存させたフロントマスクは多くの人から支持され、今なお人気が高いモデルだ。

石田さんはこの顔を「かわいいから大好き」と話す。まさか三菱のデザイナーも、女の子がかわいいと思いながら乗っているとは思いもしないだろう。そんな事を考えていたらつい笑ってしまった。

  • マツダのCX-8

リアスタイルの撮影をさせてもらおうと思ったら、石田さんがなにかに気づいて慌てている。よく見るとそこには“38”という落書きが。

「名前が紗也佳なので、友達から“さぁや”と呼ばれていて。38(さぁや)はSNSで使っている名前なんですよ。たぶん友達がいたずらしたのだと思います。すぐ拭きますね」

大丈夫。いい感じだからこのまま撮影しちゃいましょうよと提案し、撮影させてもらったのが上の写真だ。

  • (石田さん提供)

石田さんの職業はポーセラーツのサロン運営。ポーセラーツとは、カップや皿など白い磁器に好きな絵を描いたりシールを貼ったりしてオリジナルの磁器を完成させる手法のこと。石田さんはもともと会社員だったが、一度きりの人生だからこそ好きなことに時間を割きたいと、4年前に独立・開業した。

この時、石田さんが決めたことがもう一つある。それはポーセラーツのサロン運営は春〜秋に集中して行い、ウインターシーズンは大好きなスノーボードに専念すること。

石田さんは今、冬は新潟の妙高エリアをベースにスノーボードを盛り上げるための活動をしている。お会いした日は急遽大会に参加することになったため、「寝られる場所があるかわからないから」と、妙高の宿から布団を積んで石打丸山スキー場に来ていた。

  • マツダのCX-8

「普段から車中泊をしているわけではないのですが、布団さえあればなんとかなると思って(笑)。車内が広いからこんな無茶もできちゃう。D:5は懐の深いクルマだと思います」

幸いこの日は屋根の下に泊まれることになったのでこの布団は使わずに済んだが、雪国で女性が布団一枚で車中泊するのは無茶すぎる……。それにしてもすごい行動力だ。

ところで、実はこのデリカD:5は厳密に言うと石田さんのクルマではない。自分のクルマが雪国での暮らしに適していないため、冬だけ父親とクルマを交換しているというのだ。

「とくに今シーズンは降雪量がすごくて、一晩でクルマが見えなくなっちゃうことが何度もありました。当然道路もすごい雪で、スタックしているクルマを何度も見かけました。スタッドレスタイヤを履いたデリカD:5は雪だまりからも楽に出ることができるし、圧雪されていない道も安心して走ることができる。雪国で無敵の存在です! スタックしたクルマを救出できるように、牽引ロープも積んであります」

  • (石田さん提供)

石田さんのスノーボード仲間が住んでいるのは全国津々浦々。そして冬になるとみんな妙高に集まってくる。石田さんも自宅からデリカD:5に乗って1人で妙高へと向かう。でも、ゲレンデにつくと仲間がたくさんいるので、妙高ではデリカD:5に相乗りして行動することが多いそうだ。

この話を聞いていて、筆者は数年前に富士山の麓にあるキャンプ場で行われていたアウトドア雑誌が主催するイベントに行った時のことを思い出した。

広大な芝生が広がり、目の前に富士山が見える心地よい場所なのだが、あいにく前日に大雨が降り、芝生は完全なぬかるみになってしまった。イベントにはヨーロッパのMPVやワゴンで参加する人が多く、どれも2WDのため軒並みスタックして動けなくなっていた。

するとたまたまデリカD:5で参加していた人が現れ、牽引ロープでスタックした車両を次々に救出していく。助けてもらった参加者たちは口を揃えて「次に乗るのはデリカD:5にしよう」と話していた。

石田さんの友達も、雪に埋まったD:5が難なく動き出すのを見て「次はデリカD:5に乗ろう」と話しているのでは?

「確かに、『お父さんがクルマを手放すと言ったら声をかけて』と話している友達が何人もいます(笑)」

  • (石田さん提供)

雪国でデリカD:5の走りを存分に楽しんでいる石田さんは、スノーボードのオフシーズンは何に乗っているのだろう。それを質問して返ってきた答えに驚いた。なんと普段の愛車はハマー H2だという。

アメリカの軍用車であるハンヴィーをベースにした民生用の“ハマー H1”の雰囲気を取り入れたフルサイズSUVで、2000年代に日本でも大ブームになったH2。石田さんは年齢的にこのブームを知らない。

「最初はキャデラック エスカレードに乗りたくて中古車販売店に行ったんです。でも隣に置いてあったH2に一目惚れしちゃって……完全に衝動買いでしたね」

H2のサイズは全長5171×全幅2062×全高2012mmで、搭載エンジンは6L V8 OHVになる。

こんなに大きなクルマを運転するのは怖くないのだろうか。こう質問すると再び驚きの答えが返ってきた。なんと石田さんは大型免許を持っていて、教習所では全長12m×全幅2.5mの平ボディトラックを運転していた。だからH2くらいのサイズはへっちゃらだという。

「私の父が大型免許を持っていて、子どもの頃はバスを借りて親戚みんなで旅行していました。バスを運転する父の姿に憧れて、私も大型免許を取ろうと思ったんです」

大型免許を取得するためにはまず普通免許を取得し、3年以上経過しなければならない。18歳で普通免許を取得した石田さんは、21歳になってすぐ大型免許取得のために再び教習所に入校した。

「でも大型免許を取りたいと何度話しても、受付の人が『オートマ免許ですか?』と言うんです。きっと若い女の子が大型免許取得で教習所に来ることがないから、よくわからなかったのでしょうね。やっと大型免許というのが伝わったら、今度は『普通免許を取って3年たたないとだめだよ』と言われて……。免許を見せながら『3年経っています!』と話して。ちょっとムッとしちゃいましたよ(笑)」

ここで新たな疑問が。H2の駆動方式は4WDなので、雪国でも問題なく使うことができるのではないか。なぜお父さんのデリカD:5と交換するのだろう。

「H2はタイヤがものすごく大きいので、スタッドレスタイヤが高いんです。それに私のH2は前オーナーがカスタムしていて、車高が結構下がっているんですよ。だから大雪の中を走るとスポイラーを擦ってしまいそうで。それと山の中は細い道も多いし、除雪した雪でさらに道幅が狭くなっていたりするから、さすがに車幅が2mを超えるクルマは大変だろうと思いました」

お父さんのデリカD:5はシートがファブリック地なので、本革のようにボードのエッジで傷つけることを心配せずにガンガン荷物を積める。大会の情報などをSNSで発信する際はPCを使う。そのときもAC100VソケットがついているからPCの電気残量を気にせずに車内で作業ができる。デリカD:5は石田さんが雪国で暮らす上でちょうどいいクルマなのだろう。

春から秋はサロン運営、そして冬はスノーボードというライフスタイルを支えるクルマ選びをする上で、お父さんがデリカD:5に乗っていたからこそ石田さんは一目惚れしたH2に乗ることができた。それをとても感謝しているという。

「まだ結婚もしていないし子どももいないので、今のうちに好きなクルマに乗りたいという思いもありました。子どもができたらさすがにあの大きさのクルマで送り迎えなどは難しいと思うので。生活環境が変わると、それに合わせて選ぶクルマも変わっていくはず。その都度、もっとも適したクルマを選んでいけたらと思っています」

現在、ポーセラーツのサロンは都市部で運営しているが、最近は地方に移住してのんびりとサロンを運営するライフスタイルもありかなと思うようになった。まだぼんやりとした夢だが、行動力のある石田さんのことだ。ある日急にそれを実現させるかもしれない。

その時、H2はどんなクルマに変わるのだろう。新たな暮らしに飛び込んだ石田さんの姿も見てみたい。

(取材・文/高橋 満<BRIDGE MAN> 撮影/柳田由人 編集/vehiclenaviMAGAZINE編集部)