走行76万kmを共にしたランドクルーザー60への圧倒的信頼
兵庫県に住まう織邊賀彦さんが乗る1989年式トヨタ ランドクルーザー60は、当然ながら宇宙空間に向けて飛び立つことなどできない。
だがその累計走行距離は、人類初の月面着陸を成功させたアポロ11号のミッション遂行時の飛行距離に――ある意味――類似している。
76万1643km。地球と月を往復する場合とほぼ同じマイレージを、このランドクルーザーは地上で刻んできた。
「とはいえ、私がこれを買った1989年頃は『車の寿命は一般的に10年・10万km』なんて言われてましたから、まさかここまで長く乗ることになるとは自分でも思ってませんでした。『10年・10万kmを無事に走ってくれればいいな』ぐらいにしか考えてなかったですよ」
特に衝撃的な出会いがあったわけではないというが、気がついたら少年時代から“屈強な四駆”が大好きになり、就職とほぼ同時に、60系と呼ばれる1989年当時のトヨタ ランドクルーザーを新車で購入した。
購入資金は、のちに10年がかりで完済することになる「おばあちゃんローン」だった。
「四駆を買うということだけは決めてましたが、ランクルに絞っていたわけではなかったんです。18歳の青年としてトヨタのハイラックスもいいなと思ってましたし、日産のサファリにも興味はありました。
でもパリダカなどで大活躍した横田紀一郎さんの手記を読んでいるうちに、どんどんランドクルーザーという車への興味と憧れが募っていったんですね」
しかし今と違ってネット経由で大量の情報を入手できるわけでもなかった1989年の織邊青年にとって、近々フルモデルチェンジされるらしいという60系トヨタ ランドクルーザーは“まだ見ぬ強豪”というか、茫漠とした憧れの対象でしかなかった。
「でもまぁ意を決して県内のトヨタ ディーラーに行ってみたわけですが、当時はランクルの展示車なんてありませんでしたから、ただカタログを見せてもらっただけです。
でもカタログの写真を見た瞬間に『あ、これだ!』って思ったんです。細かいスペックも燃費も、もう何もかもわからない状態でしたが(笑)、とにかく自分が乗るべき車はこれしかないと確信し、前述した“祖母ローン”を使わせてもらってランドクルーザー60を買いました」
天啓を受けて(?)契約したランドクルーザー60が納車されたのは1989年6月10日。同年2月3日に運転免許を取得してから約4カ月後、現在も勤務する会社にピカピカの新入社員として入社してから、約2カ月後のことだった。
で、そこから足かけ33年、累計約76万kmに及ぶランクル60との長い長い日々が始まったわけだが、前述したとおり、当時の織邊さんには「絶対に何十万kmも乗ってやるぞ!」的な思いはなかった。
とりあえずの10年・10万kmを目標に、とりあえず憧れの四駆との生活を始めてみただけのことだった。しかし――。
「しかしですね、これがいつまでたってもまったく飽きないんですよ。そしてぜんぜん壊れない。だから……とりたてて『長く乗るぞ!』と鼻息を荒くしていたわけではないのです。
でも、飽きないし壊れないものですから手放す理由も特になくて、気がついたら10万kmを超えていて、そして20万km、30万km、40万kmときて、今に至る……という感じなんです」
最近は厳しくなっている部品供給の先行き次第だとは言うが、それでも「まぁ100万kmは目指したいですね。いや目指すというか、買ってから30年以上たっても、76万km以上走ってもまったく飽きないし、ほとんど壊れないので、部品さえあれば必然的に100万kmは超えてしまうと思ってます」と言う。
なぜ飽きないのかといえば、それは要するに「電子制御のアシストがないから」だと織邊さんは言う。
自分がその車を操作しているのか、それとも自分が車に操作されているのかが一瞬わからなくなることもある現代の車と違い、自分がさまざまな操作をしないことには何ひとつ始まらない60系ランドクルーザーは、運転していて「本当にいつまでたっても飽きない乗り物」なのだという。
そして「故障もほとんどしない」ということだが、いくら頑丈なことで知られるランドクルーザーとはいえ、76万km以上も走った個体でそんなことがあり得るのだろうか?
「いやもちろん消耗部品は壊れるというか、消耗しますよ。クラッチはこれまでに3回交換しましたし、ウォーターポンプも3回交換しました。ボルテージレギュレーターは1回替えて……あとはスターターが1回壊れたぐらいかな?
まぁ直近ではエアコンのガス漏れが発生してしまいましたが、エンジンのブロックとヘッドは新車時から1回も交換してませんし、タービンも新車のときのまま。オルタネーターも、ブラシは2回替えてますが、本体は新車時のままです」
……あり得たようだ。筆者も「ランクルはとにかく頑丈」「極限状況で頼りになるのはやっぱりランクル」というような話を知識としては聞いていたが、その証拠のようなものを目の前で見せつけられれば、もはや平伏しつつ感動するほかない。
「先日、イノシシとかタヌキが出るような山中まで所用で行く機会があったんですよ。今どきのSUVに乗ってる妻からは『山中で壊れたら大変だから、私のSUVに乗って行って!』と言われたんですが、私としてはランクル60で行くほうが何倍も安心できると思って、ランクルで行っちゃいましたね」
いや客観的に見ればランクル60のほうが、山中で故障する可能性は今どきのSUVより100倍ぐらい高いような気もするが?
「まぁそうなんでしょうが(笑)、でもランクル60は“意味不明な壊れ方”って絶対にしないんです。だから万一何かがあっても、部品さえ積んでおけば自分で対処できる。そういった意味で、本当に信頼できる車なんですよね」
その日、妻に「いや俺はランクルで行く!」と言い切りながら、心中では「あぁ、自分は本当にランドクルーザーのことを信頼し、そして頼っているんだなぁ……」と改めて実感したという織邊さん。
そんな織邊さんのランドクルーザーへの信頼が揺らぐことは――部品供給が続く限り――今後も絶対にないのだろう。
いや世の中の事象や機械に“絶対”はないのかもしれない。
だが織邊さんがランドクルーザー60と無事に楽しく過ごした33年間、76万kmという実績が、「今後も絶対に大丈夫」という仮説の正しさを、ほぼ完璧に裏付けているような気がしてならないのだ。
(文=伊達軍曹/撮影=阿部昌也/編集=vehiclenaviMAGAZINE編集部)
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