気鋭の航空写真家が作品制作に欠かせない『道具』として選んだ三菱 デリカD:5
約200〜300km/h。これは旅客機が着陸・離陸する際の速度だ。
ほとんどの人がクルマでは到達できないスピードで移動する被写体の一瞬の美しさを切り取る航空写真家。
『A☆50/Akira Igarashi』こと五十嵐あきらさんは、航空会社やカメラメーカーのオフィシャル撮影などを手掛ける気鋭の写真家だ。
「実家が羽田空港の着陸ルート近くにあったこともあり、幼い頃から飛行機を眺めるのが好きでした。
小学校3年生か4年生の頃に『飛行機を撮りたい』と親にねだってカメラを買ってもらったものの、当時はポジフィルムの時代。現像まで考えるとお小遣いがひと月500円だったA☆(あきら)少年は半年に一度しか撮影できなくて……すぐにカメラを手にしなくなってしまいました」
社会人になり自由に使えるお金を手にすると、五十嵐さんはクルマにのめり込むようになる。当時乗っていたのは70系と80系のトヨタ スープラ。80型は最高で約700馬力くらい出るようチューニングしていたという。
会社には草レースを楽しんでいる人がいて、人数が足りないからとAE86トレノでレースに駆り出されることも多かった。
当時を振り返り、「かなりミーハーだった」と笑う。スープラに乗ったのは青年誌で人気があった漫画の影響もあった。
ただ、走っている時はいいのだが、トリプルプレートのクラッチは街中で扱うのが至難の業。彼女とのデートでは待ち合わせ場所までたどり着けず、なんとかクルマを停めた場所まで歩いてきてもらうことも少なくなかった。
足回りがガチガチで女子受けがよくないし、車検のたびにお金もかかるからと、五十嵐さんはスープラを降り、同じトヨタのエスティマに乗り換える。
理由は単純。ちょうどミニバンがブームだったのでモテると思ったからだ。同じ理由でエスティマの次はトヨタ アルファードに乗り換える。
(撮影:A☆50/Akira Igarashi)
そんな五十嵐さんが再び飛行機を撮るようになったのはアルファードに乗っていた頃だというから、プロとして活躍する写真家の中ではスタートが遅かったほうなのかもしれない。
制作会社に勤務していた五十嵐さんは、業務の中で多くのプロカメラマンとの付き合いがあった。でも彼らに撮影を依頼するだけでなく、ちょっとしたものは自分で撮ってみようと思ったのが久しぶりにカメラを手にしたきっかけだった。
その後、好きなものを被写体にしようと思い、旅客機を撮るようになったという。
「最初の頃は多くの飛行機ファンの方と同じように空港の展望デッキから撮影していましたが、すぐに自分が思い描いた構図を狙いたいと考え、撮影ポイントを探しながら空港の周辺をクルマで走るようになりました」
ちょうどこの時期、五十嵐さんは制作会社を辞めて航空機雑誌でグラフィックデザインの仕事をするようになっていた。編集者との会話の中で「自分も旅客機の写真を撮っている」と話したら「今度見せてほしい」と言われ、そこから徐々に航空機写真の仕事もするようになったそうだ。
航空写真は着陸時や離陸時を狙うことが圧倒的に多いため、必然的に撮影スポットは空港周辺になる。そのためプロの航空写真家は飛行機で撮影現場に移動するケースが多いそうだ。
でも五十嵐さんは航空会社の仕事を受けた時以外は基本的に自分のクルマで空港に向かう。しかも道中はほぼ一般道を利用する。ここには五十嵐さんのこだわりがある。
「ひとつは飛行機とレンタカーを使ってホテルに泊まるより、自分のクルマで動いたほうが好きな時間に好きな場所で撮影しやすいこと。
また、クルマは電車で言うなら鈍行のようなものなので、思い立ったときに飛行機では飛び越えてしまっていた空港に寄り道ができる。これが大きなメリットです」
たとえば新千歳空港で撮影をするとしよう。飛行機なら羽田から1時間30分ほどで新千歳に到着する。
一方、東京〜札幌の距離は1100km以上。クルマだと高速道路とフェリーを使っても移動に丸1日以上、一般道で移動したらもっと時間がかかるだろう。
でも時間をかけて移動すれば途中にある空港をロケハンすることもできるし、道中で偶然出会った景色から撮影のインスピレーションが湧くこともある。
しかも五十嵐さんは思い描いた一瞬の構図を狙うために何日も撮影ポイントで待機することも珍しくない。そのため『基地』となるクルマが必要なのだ。
「航空機は風向きで離着陸の方向が変わるので、思い通りの場所に飛んでこないことも少なくありません。また、雨や霧といった悪天候のほうがドラマチックな写真が撮れるケースもあります。
そして気象条件が整ったとしても、ファインダーの中に自分が狙っている機体が飛んでくるとは限らない。理想的な環境が整うのを車中泊しながら待つことになるので、車内が広いミニバンで移動すると便利なんですよ」
(撮影:A☆50/Akira Igarashi)
日に数本しか離発着がない地方の空港だと、空港の周りは未舗装の荒れた路面ということも珍しくない。五十嵐さんはそんな場所でもアルファードで臆せず進んでいった。
途中で何度も車体の腹をうち、ボディは大きく揺れる。広大な空間を持つアルファードに負担をかけ続けた結果、最後はスライドドアが故障してしまったそうだ。
無理もない。アルファードは舗装路を快適に走るために開発されたモデルだ。ラフロードを何度も走ることは想定外の使い方だ。
クルマの買い替えを余儀なくされた時、最初はランドクルーザーかハイラックスサーフの並行輸入車にしようと思った。でも待機場所として使うことを考えるとミニバンの居住性は捨てがたい。
熟考した上で選んだのは、SUV並の機動性を持つ唯一無二のミニバンである三菱 デリカD:5だった。
「僕は親父の代から生粋のトヨタ党です。デザインや走りの良さ、堅牢さなどがトヨタ車に惹かれる部分。そして一番好きなのは居心地のいい車内空間です。トヨタ車はどのモデルでも、インテリアのデザインや一つ一つのパーツがしっかり作られていることを感じます。
クルマは僕にとって究極のプライベート空間。だからこそもっとも長い時間を過ごす車内空間で妥協はしたくないという思いがありました」
最終的にデリカD:5を選んだ時も、最後までトヨタ車にしないと後悔するのではないかと悩んだそうだ。しかし今のクルマの使い方を考えると、デリカD:5以外の選択肢は考えられない。
五十嵐さんはクルマをカメラやレンズと同じ『プロフェッショナルが作品を生み出すのに欠かせない道具』と捉えることにした。
デリカD:5のGプレミアムを手に入れて3年。創作活動を支える道具として、しっかり仕事をしてくれているだろうか。
「雪道や荒れた場所に入っていってもボディがきしまないし、アプローチアングルとディパーチャーアングルがしっかり取られているので、凸凹の場所もためらわずに進める。撮影のたびにその性能に驚かされます。
しかも足回りやシートもしっかりしているからロングドライブが苦にならない。そして撮影機材を大量に積んでも車内でゆったり寝ることができる。航空機撮影の相棒としていい仕事をしてくれていますよ」
デリカD:5の機動力に助けられ、多くの人が驚くような作品を発表し続ける五十嵐さんだが、ふと疑問が湧いた。もともと70系と80系のスープラで走りを追求していたのだし、そちらへの興味はなくなってしまったのだろうか。
「今はクルマを『撮影に使う道具』と捉えていますが、A90型スープラなど運転して楽しいクルマに乗りたいという気持ちはずっと持っています。航空機は飛べない人間を大空に連れて行ってくれるし、クルマは生身じゃ絶対に到達できないスピードを味わわせてくれる。
乗り物って単なる移動手段ではなく、人々の夢を載せているのだと常々思っています。だから撮影していて面白いのですよ」
1年の半分ほどは空港に足を運んでいる五十嵐さん。
「最近は車中泊しながら全国を旅するバンライファーのように家を引き払ってもいいのじゃないかと感じている」と笑うが、もう少し歳を重ねたら撮影スタイルが変わり、長距離を気持ちよく走れるGTカーで全国の空港を旅しているかもしれない。
その時、五十嵐さんがどのような作品で我々を驚かせてくれるか、楽しみだ。
(取材・文/高橋 満<BRIDGE MAN> 撮影/柳田由人 編集/vehiclenaviMAGAZINE編集部)
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