「北海道までファミリーキャンプに行くのが夢」半世紀経った今もレジャービークルとして活躍する1972年製のホンダ・ライフステップバン
荷物をたくさん積むことができて、車両感覚が掴みやすく、小回りがきいて維持費も安い。こういったニーズを満たしてくれる軽バンは、今や納車待ちが出るほど人気で、街中でも見かけない日はない。
一昔前までは農業や配送業など“働くクルマ”としてのイメージが強かったが、最近は車中泊ができるなど使い勝手のよさから“趣味のクルマ”として購入する人も増えてきている。
岐阜県の朝倉運動公園駐車場で開催された『ジャストマイテイストミーティング』に参加していた直子さんも、その汎用性の高さから軽バンの購入を決めたひとりだ。
ジャストマイテイストミーティングは「生産年式1985年までの国産車及び空冷エンジン搭載のVW」で「鉄バンパー装着車」というのがエントリー条件ということもあって、直子さんが乗る軽バンは、半世紀も前に作られたホンダ・ライフステップバン(VA)。
4年という短期間しか販売されなかった軽商用車で、ボディサイズが超コンパクトにも関わらず荷室が広いとあって、当時はビジネスやレジャーに最適と人気を博していたモデルだ。その中でも直子さんの愛車はデビューイヤーである1972年に製造された個体だという。
「京都は道が狭いからこれくらいのサイズだと運転もしやすいし、なによりこのミニマム感がええんです。ぎゅうぎゅうの密になるファミリーカー言うんかな(笑)?なんか取ってーって言っても片手で届くし、主人も大きい方じゃないから狭くはない。ほんで、なによりお財布に優しい♡」
このライフステップバンは軽自動車のなかでも自家用貨物の登録なので自動車税は年間6000円。さらに自動車重量税が免除される対象の年式なんだとか。燃費も使い方や季節によって変わるが12km/ℓ~20km/ℓと良く走ってくれるという。
旧車は維持費がかかるというイメージがあったため、家族で乗るにはどうなのか?という心配もあったそうだが、驚くほど家計に優しかったと話してくれた。
「保育園の送り迎えもこれでしているし、普通にスーパーに買い物や家族でお出かけにも行きます。“ばんたろー”という名前を付けて、みんなでばんたろーばんたろーって呼んでいるんです(笑)。ファミリーカーというか、クルマも家族の一員なんですよね」
家族が寄り添って楽しく暮らす。
月並みな言葉かもしれないが、中井家を表現するにはこの言葉がしっくりくる。エアコンやクーラーがないため夏は乗れないものの、秋になると復活するというばんたろーは、一家の憩いの場となっているのだ。
子供たちはばんたろーに乗るとどこかへ遊びに連れて行ってくれると思っているそうで、鍵を持つとワクワクしてじっとしていられないという感じになるそうだ。
「今日もこのイベントに行くために、朝の5時45分に『ばんたろーで行くで~』と上の子に声をかけて起こしたんです。そしたら下の子が、ばんたろーという言葉に反応してムクリと起き上がったんですよ。それを見て、そんなに好きなんやなぁって改めて思いました(笑)。
ばんたろー以外にエブリイにも乗っているんですけど、ばんたろーとエブリイとどっちで行く?って聞いたら、ばんたろーで行く~って言いますしね(笑)。下の子がもう少し大きくなったら、4人でキャンプに行こうって言うてるんです。ただ、4人乗るとさすがに重そうやったけど(笑)」
この日はイベント参加のため京都から岐阜まで高速で移動したそうだが、平坦な道に見えてもクルマが前に進まず、シフトダウンしながら走ってきたのだそうだ。さながらクルマにしか分からない坂があるということなのだろう。
そんなばんたろーは子供たちを乗せて走る機会も多いため、出先で故障するといったことがないように、ラジエター、オルタネーター、キャブレター、燃料ポンプ、ホース類やフィルター、点火系一式、オイル漏れ箇所、ブレーキ廻り一式などを新品に交換するなど、点検や対策も万全。
古いクルマということや、重ステを運転するのが初めてで些か不安もあったそうだが、メンテナンスの甲斐もあってその心配は払拭されているという。
旧車というと、部品供給などに頭を悩ませるというイメージもあるが、専門店やリプロパーツもあるほか、ホンダN360に精通している仲間にも恵まれたということから維持するにあたって困難だと感じたことはないという。普段使いできる旧車が欲しいと思っていたそうだが、まさにライフステップバンがそれだったと満足そうに微笑んでいた。
整備をしている旦那さまいわく、外装も含めて細かい部分で気になるところは多々あるそうだが、重要な部分以外はムキになって深追いしないのがポイントだという。
「全部完璧にするとなると当分乗れなくなってしまうし、ピカピカに仕上げたらそれはそれで保管などに神経を使うようになるし。気兼ねなく家族で扱えなくなるのが嫌なんで、簡易補修くらいは別として、本格的なレストアはしないようにしようと考えています。キリがないし、修理ばかりだとイヤになってしまうので、何事も程よさが大事かなと」
直子さんはオリジナルのデザインが好きで、素の状態であることにこだわってクルマを探したものの、いざ探してみると改造されている個体が多く、巡り会うのに5年以上もかかってしまったという。
それ故に、ほぼノーマルで残っていたことへの敬意も込めて、この車体に加工はしないというポリシーを守っているそうだ。
いっぽうで、縦溝パターンが特徴的なヨコハマタイヤのY45を履かせてN360のホイールキャップを装着したり、汎用品を加工して空冷VW用っぽく 仕上げたルーフキャリアを装着したりと、雰囲気を壊さないように意識しつつカスタムも楽しんでいる。
ところで、前述でほぼノーマルと述べたが、どこが大きく違うかというとボディカラーの色味である。一見純正色のようだが、白のトーンがまったく違うのだそうだ。ではなぜばんたろーに決めたのか?その大きな理由は、車体番号が1000番以内と最初期モデルだったからなのだとか。
「角が取れた真四角のフォルムや、シンプルで細いハンドル、あとは丸いライトも大好きなんです。ちょっとフロントを見てもらってもいいですか?丸いライトが目でウインカーが眉毛で、困っているような顔に見えませんか?この表情がとっても親しみがあって好きなんです。
今のクルマにはない、古いクルマならではの醍醐味というか、所有することで満足感みたいなものが産まれます。それもあって、ノーマルであることに妥協したくなかったんです。リアガラスにステップバンクラブ“LOVESTEP”の当時物ステッカーが貼ってあるんですけど、私の手元に来た限りは、当時の面影が残してある場所はそのまま大切にしていきたいと思っています」
「今後の目標は、バンパーやグリルの色を純正色に戻したり、リヤゲートのエンブレムを貼り付けたり、社外品に交換されたマフラーを純正マフラーに交換したりとオリジナルに戻していくっていうのもあるんですけど……、1番の夢は、家族で北海道にキャンプに行くことなんです。どうかな~?いけるかな~?」と、息子さん達を見ながら頬を緩めた。
なんでも、ご夫婦にとって北海道は思い出の地で、2人でツーリングをしながらキャンプをした場所なのだとか。そこに今度は家族そろって行きたいというわけだ。それをじっと聞いていた子供たちの目が輝いたのは言うまでもない。
低いフロアと高いルーフを生かした積載量と、乗用車なみの乗りやすさを両立したライフステップバンは、日本の元祖RV車といってもいいのかもしれない。登場から半世紀経った今でもレジャービークルとしての役割を果たし、家族の笑顔と一緒に走り続けているのだから。
取材協力:ジャストマイテイストミーティング
(文:矢田部明子 / 撮影:平野 陽)
[GAZOO編集部]
ジャストマイテイストミーティング
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